読書日記248【52ヘルツのクジラたち】
町田そのこさんの作品。長編小説となっていて2021年の本屋大賞を受賞している。短編小説家と思いきや「実は長編小説のほうが得意です」と言わんばかりの内容でビックリしてしまった。
長編小説の上手い人の特徴に「冒頭の普通の生活」というのがあると僕は思っている。長編小説の名作にはサザエさん張りの「普通な生活」が描かれることというのがある。村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」の主人公がスパゲッティを茹でるところなど、物語が動く前の平和な時間がながれるのが物語としてすごく大事になる気がしている。そこからどでかい物語が待っていると期待できる感が増すとういうか……
この物語も主人公の貴瑚は大分県の海辺の町に突然移り住んでくる。そこで祖母の最後に暮らした住居をもらい受けて生活をしようとしていた。そこで依頼をした工務店の村中に失礼なことを言われて小高い丘に建っている家から出ていく時までのところは、灰谷健次郎さんの「海の図」のような感じの入りで物語が始まっていく……
そこから、あれあれ?と物語がはじまっていく。貴瑚がなぜ東京からこんな辺鄙なところにきたのか?からはじまり、喋れない少年やら、DV、トランスジェンダー、発達障害や児童虐待。平和に見えるこの世界がじつはダークになり、それに目をつぶる大人たちが増えているんだという現実をまざまざと見せてくれる。
正直よく書けている。文章の上手さは本当に一流で、表現力というかはすごい。まるで僕らが海の近くの丘の上にある貴瑚の住む家にいるような感覚を冒頭で読ませてくれる。「すごい人だな」と思ったときには一心不乱に読み終わるまで物語がとまらないように描かれている。
簡単にいってしまうと前半に常識的に知っている知識でのこの物語の矛盾点みたいなものが後半になると解明されていく構成になっていて、「あれ?これだと…」と思うところが後半になって解決されていく。そこらへんが今どきで頭がスカッとして心地よく、後半が飽きないで読んでいける。そして本来の問題を主人公が受け止めていく物語になっている。
文章のみで食べるというのはすごく難しい気もするのだけど、そういう作家もちゃんといるのだなと正直におもう。プロットというか物語を作って書いてそれがここまで面白くなって映画化されて賞までとってというプロセスをみると、創作ってすごいなと思ってもしまう。