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読書日記178【東京物語】
奥田英郎さんの作品。「空中ブランコ」で直木賞をとっている。文脈はコピーライターだったからなのか言葉を選んでるように作られている感じがして、すごく俗的な作品なのに、爽やかな感じがする。主人公の久雄が田舎の進学校にいながら、大学に落ちて、東京で浪人をするところから、この「東京物語」が始まる。
「東京物語」というと小津安二郎の映画を想い出すぐらい、固有名詞として存在している題名をあえて題名に持ってくるのは、読んでいてわかる気がする。父が小さな商社をしていて、割と田舎ではお金持ちの主人公が東京に憧れ、浪人をして大学に入り中退をして広告代理店に就職しコピーライターになる話なんだけど、時代設定を前後させてミステリアスにしてあったり、中退した理由や学生の時の恋バナなどの青春グラフィティが書かれていたりする。
主人公の久雄の短い大学生活が書かれた章の「レモン1979/6/2」では、先輩にほのかな恋心を抱きながら、同級生の小太りな小山にも惹かれているところが書かれている。実話なのかなというぐらい展開がないのだけど、ほのかに香る檸檬のにおいを感じさせる感じがすごく心にささる。今のように男の子が化粧もしないし、女子でさえしなかった人がいる時代の話でも、恋は自然に芽生えるし、それらしくほのかに恋を漂わせる。
小山絵里を見ると、すこしぎこちない表情でうつむいていた。
目の前の男が、これからしようとしていることがわかったのだろう。
久雄は唾を飲んだ。急に心臓が早鐘を打ちはじめた。
歩み寄って、小山絵里の肩に手を置いた。
簡潔な分で男の心情を上手く表現しているし、古いロックの音楽がながれそうな、ちょっと泥臭い文章がなんか女性との恋に焦る男の気持ちをうまく表現している。コピーライターとして働いていたというのだから、インパクトのある言葉の表現が上手いのも納得する。
小山江里のまあるい顔に笑みがはじける。
ふと、さっきこの子にキスしたことを思いだした。
じんわりと甘い気持ちが込みあげる。
明日もキスしたい。あさっても。毎日だって。
今夜のことは忘れないだろうと久雄は思った。きっと、中年の親父になる日が来たとしてもー。
いとしのエリーはいつまでもおかしそうに笑っていた。
時代背景は人それぞれだけど、昔をちょっと懐かしむのもいいなと思える作品。