【ニューヨーク滞在記】④NFLに大興奮!!自然史博物館はまるで動物園
コトコトと、包丁がまな板を叩く音がする。クンクン。良い匂いも漂ってきた。朝8時ごろ、ふと目を覚ますと、台所に立つナオコさんの姿に気付く。少しすると、テーブルに鮭やごはん、サラダ、スープが彩りよく並んだ。ただでさえ、寝床を用意していただいているのに、朝食まで用意してもらうとは。いただきますと食べ始めた時、大事なことを思い出した。
「ラグビーW杯、日本対アイルランドの時間だ!!」
エリック家のテレビはHuluをつなぐことができるため、チャンネルを合わせてみる。試合は残り15分のところで、日本がリードしている。気付いて良かった…。パブとかで見るのも面白いと思ったが、朝8時にラグビーの日本戦を流すところなんて無いか。朝ごはんを食べながら、遠く離れたアメリカで史上初ベスト8進出の瞬間を見届けた。
この日の一大イベントは、16時25分からニュージャージー州・メットライフドームで行われる、NFLのニューヨーク・ジェッツ対ダラス・カウボーイズの観戦だった。
その時間までは何をしよう。考えた結果、行きたいリストの一つで、シティパスを見せれば入場できるアメリカ自然史博物館に行くことにした。朝食後、すぐに身支度を行う。
そういえば確か、アメリカのスポーツ会場は大きい荷物が持ち込めないとあった。小さい斜め掛けバッグとトートバッグに荷物を絞り、家を出た。
昨日とは違い、一人での電車移動。1日で道順を覚えるほど、私の脳の作りは良くないようだ。家を出てしばらくすると、道に迷ってしまった。Wi-Fiの調子が悪く、位置情報も出ない。結局30分ぐらい右往左往した挙句、なんとか道を思い出し、駅まで向かうことができた。
その道中。ヤンキースのユニフォームを身にまとう親子を見た。この日は、試合が無い。ニューヨーカーの生活の一部にヤンキースがあるということを、強く実感した。日本で、巨人戦が無いのに坂本のユニフォームを着る人はいないだろう。
この日はコーヒーではなく、途中のスーパーで1ドルいくらのジンジャーエールを買い、地下鉄に乗り込んだ。①の電車で南下し、「79ストリートステーション」で降りる。博物館の入口に回ると、すでに30人近く並んでいた。東京国立博物館のような、荘厳な外観に圧倒されながら15分ほど待ち、入場した。シティパスのQRコードを出し、展示のコースに向かったが、警備員に止められてしまった。どうやら紙のチケットが必要らしい。その人はエントランスの両脇に作られた行列を指さすので、その待機列の後ろにつけてみる。30分ほど待つと自分の番が来て、QRコードと引き換えに紙のチケットをもらうことができた。
さきほどの警備員に紙を見せると、今度は笑顔で通してくれた。順路が良く分からないので、とりあえず正面の部屋に入ると、象がお出迎えだ。よく見ると、小さな台に10体ほどが所狭しと詰められている。
当たりを見渡すと、鹿や猿もいた。パンフレットを見ると、ここはアフリカの哺乳類ゾーンだと言うことが分かった。一通り見た後、他の部屋に行ってみると、山や北極の生き物、魚のゾーンなどテーマごとに分かれた展示がいくつもあった。全てはく製だが、場面設定がしっかりしていてとてもリアル。まるで動物園のようだった。
昨日食べたバイソンも!!
他にも、植物、宇宙、化石ゾーンまであって、見ごたえ充分。あっという間に2時間が過ぎた。
でも、キャプションが英語表記のため詳細が分からないのは少し残念だった。日本の国立博物館ならば英語、中国語、韓国語表記などあり、観光客からすると多少親切なのだろうか。
最後にお土産ショップを見ていると面白いグッズを見つけた。恐竜の顔をした、ラバー製の伸びるパペットのようなもの。これが、結構精巧に作られている。お土産にいいなと思ったが、値段を見ると10ドルとある。さすが高いので、断念した。
ガオ!!
展示を堪能した後は、メットライフドームに向かうのだが、エリックが車で迎えに来てくれることになっていた。ナオコさんもアイスホッケーのプレーヤーで、この日はニュージャージーで練習があるらしく、同じ方面だからと乗せてもらうことになったのだ。
合流まで少し時間がありそうだったので、目の前にあるセントラルパークに足を踏み入れた。都会のど真ん中にもかかわらず、木にはリスがいて、池にはカモがいる。芝の上で寝る人、ボートを漕ぐ人、読書をする人、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
再び自然史博物館の方に戻ると、セントラルパークとの間の道路沿いに、いくつもの路上販売の車を見つけた。サンドイッチやチキンなどがドリンクとともに売られている。ここでランチを買ってセントラルパークで食べるのが通なのだろうか。
朝から特に食べてなかったので、一瞬買おうか迷ったが、エリックからどこにいるのかとメッセージが来たので諦め、車でピックアップしてもらった。
乗り込むと「博物館はどうだった?」とエリックに聞かれ、「昨日食べたバイソンがあったよ」と返答すると笑っていた。ニュージャージーに知識がなかったため、どんな街かナオコさんに聞いてみると、「いけてない町」らしい。ダサいたまと言われる故郷にも、メットライフドーム(西武ドーム)があり、近いものなのかと思った。
しばらくすると、ニュージャージーのメットライフドームが見えた。外からも大きさが分かる。開始1時間前の到着だが、駐車場は満車状態。近くで降ろしてもらうと、その理由が分かった。洋楽が爆音で響き渡り、車の傍でお酒を手にバーベキューを楽しむグループがいくつもいた。まるでフェス状態だ。こんなスポーツの楽しみ方は、日本にはないだろう。
気持ちの高ぶりと共に、歩く速度も速くなる。意気揚々と入場列に並ぼうとすると、またも警備員に止められてしまった。荷物が大きいと言っている。荷物を預ける場所があるらしく、指さされた方に行ってみる。前の人が、黄色い紙と引き換えに荷物を預けているので、同じようにトートバッグだけ渡すと、肩から掛けた小さなカバンでさえも持ち込めないらしい。
なんて厳しいのだろう。スマホと財布、Wi-Fiをポケットに入れ、タブレットを手に持ち、再び入場を再度試みる。今後、アメリカでスポーツを見る方は注意してほしい。
荷物検査では、空港並みのセキュリティ検査が施された。日本の球場でも荷物検査はあるけど、あれでは何の抑止力にもなってないだろう…。平和ボケに疑問を持ちながらも、メールに来たチケットのようなものを見せると、それではだめらしい。チケット確認のおっさんはQRコードを出せと言っている。でも、どこを見てもそんなものは見つからない!!
おっさんも手伝ってくれたが、お手上げ状態。万事休す…と思われたがその時、別の女性スタッフが手を差し伸べてくれた。タブレットを渡すと、色々操作をしている。すると、「ここで待って」とタブレットを持ったままどこかへ行ってしまった。
チケットの手続きをしてくれているのだろうが、このままどこかへ逃げられたらどうしようと、不安に襲われる。
しかし、それも杞憂に終わった。10分後、楽しそうにステップを舞いながら、さっきの女性が紙のチケットを手に戻ってきた。映画のワンシーンのような見事な踊りに笑いをこらえつつも、「Thank you!!!」と心の底からの感謝を伝え、ようやくスタジアムに足を踏み入れた。
緑をつけていないのは自分だけ、というぐらい、多くのファンがグッズを身に着けていたので、まずは近くにあったショップでシャツと帽子を買う。こうして戦闘服に身を包むと、なぜだか自分も現地民になったような気がする。
満を持して、座席のある3階までエスカレーターで上がっていく。エスカレーターでは、一人のファンが、「J!E!T!S!ジェッツ!ジェッツ!ジェッツ!」(そう聞こえた)と応援歌を叫ぶと、他の大勢も後に続いた。10秒に1回くらいのテンポで繰り返されるその光景に、胸が熱くなる。
3階のコンコースを抜け、スタジアムの全容が目に入った瞬間、言葉を失った。360度、1階から3階までが全て観客で埋め尽くされ、中央の真っ青な芝生の上では、フットボーラーが縦横無尽に駆けている。しばらく雰囲気を味わっていると、ランチを食べていなかったせいかお腹が減っていることに気付いた。
サンドイッチを求め、売店に行ってみる。メニューを見ると、サンドイッチが16ドルとある。どうせなら、12ドルもするがお酒も飲んでしまおう。自分の番が来ると、英会話ユーチューバー「バイリンガール」の動画で学んだ注文方法を思い出しながら、希望の品を頼む。すると、店員にIDを見せろと言われた。年齢確認だ。パスポートを見せると、なぜかよくわからない書類まで書かされた。
シャツと帽子に、サンドイッチにビール。これで準備完了だ。再び席に戻ると、直後に国歌斉唱があり、試合が始まった。同時に、さきほどのエスカレーターで聞いた応援歌を約4万人が一斉に歌いだす。とんでもないところに来てしまったと、もはや笑うことしかできない。
アメフトはルールが分からないので、展開とかは振り返れないが、点が入った時の盛り上がりは異常だった。ティーンのブロンド女子が柵に身を乗り出して手を空に突き出し、たぶん席が隣同士であろうおっさんは抱き合って喜んでいた。スタジアムの1割くらいはカウボーイズファンがいて、その時彼らはブーイングをする。もちろん、ジェッツが失点した時は、その逆の光景が繰り広げられた。埼スタの浦和サポが全方向にいるようなイメージだ。
途中、自分の席にいるだけでは勿体無いので、散策に向かってみる。アメリカのスタジアムはコンコースも広く、オープンな感じが歩いていて気持ちがいい。こっちは日本と比べ、ふらっとコンコースから試合を見る人が多いし、それが可能な空間がとても好きだ。スタジアムの外には、小さな芝生もあった。
日本との違いはいくつもあるけど、大きい点はスタジアムの盛り上げ方だと思った。基本的にはホームチームの贔屓で、ブーイングをあおるような演出もある。中断のたびに観客がアップで映し出され、彼らもそれに踊りやポーズで応え、盛り上げに一役買う。東京ドームの野球の試合で毎回やる、キャップシャッフルも途中にあって、日本のスポーツの演出は、ほとんどアメリカの真似をしているんだと理解できた。また、NFLのチアリーダーは、試合中もずっとグラウンドレベルで踊っていて、試合が中断すると中央に移動してダンスをしていた。もちろん、動きはキレキレだった。
試合はジェッツの勝利で終わり、5階席から階段で降りていく中でも、応援は響き渡っていた。
日本だと、アウェーチームのグッズも売ってるけど、そんなものは用意されていない。ホームチームファンのための空間であり、思い切りブーイングできる環境は、新鮮でうらやましいとさえ思った。
観客はたいてい、自家用車、電車、タクシーかウーバーで帰るようだが、私はエリックの迎えを待った。最初に預けた荷物を受け取った後、車に乗り込んだ。
ナオコさんに「お腹は空いてる?」と聞かれたので、「はい」と答えると、ラーメンを食べに行くことになった。この日、思えばサンドウィッチしか食べてなかったので、うれしい。
あまりの疲れに寝てしまい、気付くと車は停車していた。少し歩いて、「ラーメン」と書かれたのれんをくぐる。正確に覚えていないが、確かとんこつラーメンのようなものを頼んだ。日本人らしきアルバイトが運んでくると、久しぶりのラーメンに舌鼓を打った。
食事中、エリックはここでも、ずっとアイスホッケー部のことを話していた。彼の人生の中で、あの半年間の留学がどれほど大切な時間だったのかが分かる。
帰宅後は、2日続けてベッドに倒れこんだ。深夜に目が覚めると、また起こさないようにとシャワーを浴び、再び眠りについた。
博物館に行って、スポーツを見て、お酒を飲んで、疲れて眠りにつく。しかし、なんて幸せな時間なのだろう。