「一枚の自分史」①~地図~
過去の自分を振り返ろうとしても、どこからどう思い出せばいいのかわからない…。そんな方が多いのではないでしょうか。
そこで最初は一つテーマを決めて、それをよすがに過去をたどってゆくのがおすすめです。
第一回のテーマは「マッピング自分史」。
自分がかつて住んでいた町…幼い頃から住んでいた実家であったり、学生時代に下宿していた場所だったり、就職して新生活を始めた町だったり…。
そんな記憶の中の地図を描きつつ、その頃の自分を振り返るワークです。
地図は正確でなくてもかまいません。
「記憶の中の地図」を自由に描くことが大切です。
私は子供の頃に住んでいた町の様子を思い出しながら、幼なじみとご近所の八百屋さんへりんごと「すなこ」を買いに行った思い出をとりあげました。
*『インドリンゴとすなこ』
小学校低学年の頃、幼なじみのえみちゃんと一緒にお菓子作りの本を買ったことがありました。
フルカラーの小さな本で、
「これですごくおいしいお菓子が作れるね~。」
と、二人で写真を見ているだけでうっとり。
アップルパイにパンケーキ、そしてアイスクリームの天ぷら、などという興味津々なレシピまであって、ページを繰ってゆくうちに、何かひとつ作ってみよう、というお話になりました。
ところが材料をそろえようとすると、本に書かれている漢字が読めません。
特にひんぱんに出てくる"砂糖”が読めず、一つ年上のご近所のえなさんに尋ねに行きました。
えなさんは"砂糖”を見て、
「これは、すなこ、と読むんだよ。」
「え?すなこ?」
「そう。すなこ。」
「すなこってなんだろう?」
三人とも首をかしげ、ちょうどりんごが欲しかったので(作ろうとしていたレシピはアップルパイでした。)ご近所の八百屋兼魚屋の「魚万」で"すなこ”も買おうということになりました。
「魚万」は間口の大きな昔ながらの店構えで、店頭の木の台には彩りの良い野菜、果物があふれんばかりにずらりと並んでいました。
その中でも一番赤いインドリンゴを一個ずつ100円で買った私たちは、お店のおばちゃんに
「すなこ、ある?すなこも欲しいんやけど。」
と聞きました。
「すなこ?」
首をかしげたおばちゃんにお菓子作りの本を見せると、
「なんよ~、さとうかい。」
と笑いつつ、
「リンゴはそのまま食べんのがおいしいんやで。」
おばちゃんはそう言って、店の奥のお客さんのところへ行ってしまいました。
今から思えば、低学年の小学生にアップルパイなど作れるはずもなく、おばちゃんはやんわりとそれを示してくれたのだとわかります。
でも私たちには、はぐらかされたような気持ちと、ただのお砂糖をすなこ、と言ったきまり悪さがくすぶっていて、えなさんとえみちゃんと私と、三人でがぶりがぶり、皮のままリンゴを丸かじりして食べてしまいました。
インドリンゴは濃くて甘くて、食べているうちにお菓子作りなんてどうでもよくなってしまいました。
以来しばらく、お小遣いはお菓子ではなく、インドリンゴに使ったのも懐かしい思い出です。
了
(実際のワークでは、下記の地図のイラストも描いたのですが、絵心がなくあまりに見苦しいため、タイトル地図はイラストACさんからお借りしています。)
最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。
みなさまにも「記憶の中の町」はありますか?
よろしければ、ぜひコメントで聞かせてくださいね。
真柴みこと