鳩ノ巣渓谷

連日、気温の高い都内。週末に山へ登ろうと思っていたけれど天気予報では雨が降りそうだった。そこで私の頭脳と言っても過言ではない友人の235(ふみこ)が見つけてくれたのがここ。関東近郊で雨を避け、かつ涼がとれそうな鳩ノ巣渓谷だ。

当日、方向音痴の私は新宿駅の改札を出た中村屋の前という幼稚園児でも分かりそうな待ち合わせ場所で235を待った。彼女と合流さえすればあとは何も心配することが無いと思っている節が私にはある。そういった態度がいつも全面的にでているのか、その日も「さえこちゃん、もう安心しきってるけど、これから始まるんだからね。」と笑われつつ電車を乗り継いで目的地へ。

都内から外れるにつれて家やビルも少なくなり見えてきたのは壮大な山々。山には白い雲がうっすらとかかっていて日本昔話の世界かと思うほど幻想的だ。車窓から見える景色にしばし眼を奪われながら鳩ノ巣駅へ到着。

はじめて降り立った可愛い駅に何度も「蜂の巣駅って可愛いねー。」と言ってしまい、235に「鳩ノ巣だけどね。」と失笑される。わりとこういう間違いするんだよね。いつも近いところは、かすめるんだけど正解ではない。

ま。そんなのは日常茶飯事。小さいことは気にするなってことで出発進行~!

ここかな?なんて言いながら、階段を降りて歩いていくとすぐに橋があった。そこからの眺めがまた良いこと!こんな素敵なところがあったんだと顔がゆるむ。と同時に、都会から持ってきたイラナイ感情はどこかへ飛んでゆき、自然の雄大さに引き込まれる。

渓谷を歩いているときゃーきゃーと泳ぐ若者やカヌーやSUP、釣りをしている人たちを見かけた。鳩ノ巣渓谷ってなんかいい!

突然、目の前に木で作られた階段がでてきた。後から考えてもここが一番の難所。傾斜のきつい階段だ。私たちの前にはご夫婦と思われるおじいちゃまとおばあちゃまがすでに登りはじめていた。

おじいちゃまは少し上のほうにいて、手を木にもたれかけながらおばあちゃまの方を見ていた。割と下のほうにいたおばあちゃまへすぐ追いついたので、すれ違うとき「こんにちは。この階段、急ですね。」と声をかけると「こんなに急だと思わなくてね。」と笑っていた。

リュックにウエストポーチ、そして腕に鞄をひっかけて登っていたおばあちゃま。私たちでも手をついてしまいそうな程、急な階段だったので「よければ鞄持ちましょうか。」と伝えると「大丈夫ですよ、ゆっくり行くから。」と丁寧な返事。私たちでさえ慎重に登らないと危ないこの階段。大荷物のおばあちゃま一人で登らせられない!

「私もゆっくり行くので、持たせてください。」と鞄をもち、同時におばあちゃまの手をとって登りはじめた。「まぁ、有難う。」「どちらから来たんですか?」「私たちは国立よ。いつも2人で色々散歩へ行くの。私は85歳。」なんと旦那さまは90歳。お元気!

そんな話をしているうちに、私たちはおじいちゃまの隣に並んだ。おじいちゃまへ挨拶をすると隣では「若い人に手を握ってもらってるの。いいでしょう。」なんて嬉しそうに声をかけてるおばあちゃま。オチャメ。
「お姫さまをお預かりします。」とおじいちゃまへ伝えると、おばあちゃまは「ふふっ」と小さく笑っていた。

それからも歩調を合わせて休んだり登ったりして、ふと振り返ると235がおじいちゃまと手をつなぎ登ってきているではないか。いつのまに!

最後まで急だった階段を登りきりおばあちゃまと私が先に到着。「やりましたねー!」と自然と笑みがこぼれた。15段ほど下にいるおじいちゃまと235へ「もうすぐですよー!」と声をかけ、ふたりも少しして到着。

なんだか嬉しかったので、おばあちゃまとおじいちゃまへハイタッチ。いえーい!

この先も心配だったので「急な道とかあったら連絡するので携帯番号教えてくれませんか?」と伝えるとともに、何かあれば連絡くださいと電話番号の交換をした。「有難う。」と言いながらおばあちゃまが「男梅ソフトキャンディ」をくださった。おまけにお世話になった二人の写真を撮らせてと、スマホで235と私の写真まで撮ってくれた。可愛く写ってますように。

85才と90才で男梅を持ち歩きながら山を登ったりスマホを操る二人。私もこんな風に元気で可愛らしいお年寄りになりたいなと思う出会いだった。

それから先、特に急なところや危ない道が無かったので私の携帯電話が鳴ることも鳴らすこともなかったけれど、その後も235と「ここは大丈夫そうだよね。」とか「こっちが駅だって分かるかな。」と2人のことが話にのぼった。さっきまで知らなかった誰かのことをこういう風に思えるっていいなぁなんて思ったりして。

お昼は川沿いでお弁当を食べた。手足を川へいれると気持ちよくて、いつまでもそこにいたかった。

近くの温泉「もえぎの湯」へ着いた頃、雨が降りはじめた。ナイスタイミング。

露天には、たっぷり2時間くらい入っていたのではないだろうか。遠くで川遊びをしている人たちが見えた。
そのうちザーザーと本格的に降り出した雨音を聴きながら雨で葉っぱが揺れているのを見たりして、235も私もあまりの気持ちよさに露天で眠気に襲われつつ、程よい温泉と天然のクーラーに癒されまったりとした時間を過ごすことができた。

帰りは吉祥寺で美味しい肉でも食べようなんて言っていたけれど、心身ともに癒されすぎたのか電車のなかで眠ってしまい二人で降り過ごし、中野の飲食店で美味しい海鮮を食べて帰りましたとさ。

鳩ノ巣渓谷。今度は秋に行ってみたい。

もしかしたら、おじいちゃまとおばあちゃまにまた会えるかもなんて少しの期待をしながら。

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