【法制史】文学部歴史学科志望者へ。法学部で歴史について学べないこともない
私は大の歴史好きで、高校時代はその暗記量の膨大さからよほどのことがない限り避けるべきと言われた日本史・世界史という科目選択をしました。そんな私は高校3年生のときに、大学では、自身のマニア的な興味関心に従って歴史を専攻するか、当時興味を持ち始めながらも手を付けられずにいた法律を専攻するかで迷っていました。
結果としては法学部に進学することを決めましたが、以後も歴史への興味関心が途絶えたわけではなく、それゆえ、法学部で引き続き歴史を学べないか調べました。そうしたら、想像以上に法学部でも歴史について学ぶことができることが分かったのです。
まず、法律学の分野に、法律の歴史や歴史上の法律を学ぶ「法制史」というものがあります。これは、様々な分野と関わりのある法律学を歴史的観点から研究しようとする学問です。
具体的には、日本法史・中国法史・西洋法史といった科目があります。これらの科目に関するトピックをいくつか挙げてみましょう。
日本法史
・江戸時代の金公事(公事=民事訴訟の意)
江戸時代、旗本と町人間の金銭トラブルが多発し、評定所(およそ現在の最高裁)の機能を圧迫した。そのため、裁判機能を刑事裁判に集中させるべく、8代将軍徳川吉宗により、当事者間での紛争解決を求める「相対済令」が出された。
中国法史
・律令格式
中国の王朝では、隋唐時代(6~7世紀頃)にかけて、律令制と呼ばれる法治体制が整えられた。なお、律=刑法、令=行政法、格=追加法、式=施行細則である。
西洋法史
・十二表法
古代ローマ時代、法に関する知識はパトリキ(貴族)に独占されており、プレブス(平民)はそれに対して不満を抱いていた。かかる不満が受け入れられ、紀元前451年、12枚の板からなる古代ローマ初の成文法が制定させた。これにより、プレブスにも法が開かれることとなった。
また、十二表法は以降のローマ法の基礎となる。
・ユスティニアヌス帝の法令編纂
6世紀、東ローマ帝国(現トルコ・ギリシャ・エジプト等)の皇帝に即位したユスティニアヌス帝は領土拡大に励むとともに、法令編纂にも力を入れ、法学者トリボニアヌスに命じて「ローマ法大全」を編纂した。十二表法の影響も受けて制定されたローマ法大全は、後のナポレオン法典に影響を与えた。
これらを見ていただけると分かる通り、法制史には高校までの日本史や世界史と共通した内容が多分に含まれており、現に法制史を履修する際には最低限の歴史的知識を持ち合わせていることが求められます。
ただし、高校までと全く同じわけではありません。高校までは法律名を暗記するにとどまりましたが、法学部の法制史では、法律に軸を置き、法律の具体的な内容にまで踏み込んで学習します。そういった点で高校より高度な内容を学習します。
その上、法制史の※ゼミに入れば、さらに深く法制史を学ぶことができます。
また、一般教養科目として歴史科目を履修することで法学部で歴史を学ぶことができます。例えば、日本史や東洋史、科学史といった科目が設けられています。
ただ、これらの科目も人物名や事件名をひたすら暗記するといったものではなく、秀吉の朝鮮出兵の社会的評価の変遷について考えるといった、大学らしい「思考」重視の内容でした。
他にも、副専攻制度が採用されている大学ですと、主専攻の法律学以外に歴史系を副専攻として修めることができます。
さらに、総合大学に入学しますと、大学によっては、他学部の授業を履修して単位認定してもらえる場合があります(オープン科目制度)。この制度を利用することで、本家たる文学部の歴史の授業を履修することも可能です。
このように、①法制史、②ゼミ、③一般教養科目、④副専攻制度、⑤オープン科目制度を通じて、法学部でも歴史について学ぶことができます。
ちなみに、私の通う大学で計算してみたところ、法学部の卒業単位のうち、少なくとも3分の1の科目を歴史系の科目で埋めることができました。
かかる通り、一見歴史と関わりのない法学部ですが、法律が歴史を経て発展してきたものであることもあり、意外と歴史を学ぶことができます。
ただし、あくまでこれは「意外と」の範疇にすぎません。すなわち、法学部が歴史学科の代替になることはありません。経済学部と経営学部の違いの次元ではないのです。
また、法制史自体、法律学の中ではマイナーな分野ですからどの大学の法学部でも開講されているとは限りませんし、副専攻制度やオープン科目制度の有無も大学によって異なりますから、かかる点は大学に事前に確認しておく必要があります。
したがって、文学部歴史学科志望の方にはあくまで入試での滑り止めの学部選びの際の参考程度の認識でいてもらうのが良いでしょうし、法制史に興味を持たれた方はしっかりと法制史を学べる大学を調べてほしいと思います。
冒頭写真:pixabay(2023/8/1)
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