クイーンズタウン、観光政策と分権化、国民の海外志向、出雲大社と金比羅さん
学生Q.ケースで紹介されていたクィーンズタウンって何? すみません、授業中の説明に出てくるカタカナの言葉がわからない。留学生ですが漢字はだいたいわかるのですが。
コクジーA.確かに、授業前ではクィーンズタウンのことを知っていた人はあまりいなかった、と思います。ニュージーランドの南島の小さな町です。でも授業では説明したでしょう。あなたと他の学生にそんな理解力の差があるとは思えません。単なる町の名前なのですから。それでもクィーンズタウンって何? って・・何? 留学生でもそれくらいわかるでしょう? おしゃべりに夢中だったんじゃないの? この質問表は真剣に授業を聞いたけれど、そしてよく考えてみたけれどそれでもわからない時の対策です。聞いていなかったから、もう一回、というのはよろしくないですよ。君たちの言い方を真似すれば「マジ、むかつく、普通にありえねー」。
でも、まあ堅いこと言わずに、せっかくの質問ですから、答えますが、ニュージーランドは北と南の2つの島で構成されています。北は比較的暖かく、南は南極に近くなるわけですから寒く、高い山や氷河などが分布する自然いっぱいの島です。人口より羊が多い酪農の国でもあります。クィーンズタウンは南島の中央部の高原の中にあるリゾートの町です。あまりに美しいため、エリザベス女王に捧げたい、といった意味でこの町の名が付けられた、と聞いています。エリザベス女王がなんぼのもんじゃ、と私なんかは思いますがね。ところで、クィーンズタウンを例に出したのは、この町が国(運輸省)から空港を買い取ったからです。国は民営化や地方分権を進めていて、中央政府も運輸省を解体、行政機構をスリム化しました。空港もいろいろな自治体に買い取りを打診したのです。もちろん、そんな荷物を背負いたくない、といって断る自治体も多くありましたが、クィーンズタウンは観光で生きていくしかない、そのために不可欠な空港を国任せにしておくと、いつになったら改善拡充してくれるのか、全く当てにならない、ということで思い切って買い取り、発展に成功したのです。これは空港管理という権利を地方に分権化した成功例です。これは各国の観光政策の大きな流れのひとつである「分権」(権力の分散)の説明でした。その他にカタカナの言葉がわからない、という指摘がありました。これは「知っているはず」と思いこんで私が説明なしに使用している可能性もあります。具体的に、そのカタカナをこの質問表に書いてください。遠慮する必要は全くありません。
学生Q.航空政策と観光政策の関係がよく理解できませんでした。微妙な関係とは対立関係にあるということですか?
コクジーA.バリ島を例にもう一度説明します。開発初期はバリ島への観光客はガルーダというインドネシアの国営航空が運んでいました。観光的発展とガルーダの発展は同じ意味を持っていました。しかし、バリの観光が拡大してくると、ガルーダだけでは輸送キャパシティに限界が生じてきました。ホテルが増えたのに航空輸送が追いつかなくなってきたのです。観光業者はガルーダのみならず、シンガポール航空やキャセイ、日本航空などにも広く路線門戸を開くように政府に要請しましたが、航空当局は国営のガルーダの保護のため、こうした外国の航空会社はジャカルタ経由のバリ入島を義務づけ、バリのデンパサールへの直行便はガルーダのみを認めることにしたのです。つまり、国際観光の拡大と自国の航空産業育成は必ずしも両立しないことがあるのです。なお、インドネシアが開発途上国であるからといって航空機産業のレベルが低いと思っては間違いです。インドネシアは国土の形状をみると、ヨーロッパがすっぽり収まるくらい広く、しかも多島国家です。必然的に航空輸送が不可欠であり、必要に応じて産業も発達してきました。自国で航空機を製造しています。国土東端パプアのイリアンジャヤなどは未貨幣経済社会の地域が残っているくらい未開の地、と言われながら、空港が300とか400もあるらしいです。空港といってもAir Fieldと表記されていますが。日本などは民間航空機はYS-11以降、製造できていません。ブラジルも同様、航空機産業を持っています。技術的にはたいしたものだと思います。機内がエレガントとは思わんけど。
学生Q.静かな授業でした。とてもよかったと思います。今後もつづければ授業が楽しくなります。多民族の国だから観光事業を分権化して地方の自主性を持たせるというプロモーションは非常に大きなテーマです。現在成功しているモデルをもっと具体的に知りたいです。
コクジーA.近年、各国政府は政府観光行政組織(NTA)を集権化すべきか分権化すべきかを検討しつつあります。一方、検討以前に、必然的な分権化が進んで国もあります。多くの場合、政府のありかた、政策の特徴は自国の歴史,文化,政治状況に影響されます。オーストラリア,コロンビア,スペインなどの国々は分権化を行いましたが、これは必ずしも意図的ではなく、州と市町村からなる行政システムによって必然的に導き出された結果といっても良いでしょう。日本のように一元的な文化の国はむしろ少ないのです。アメリカの要請を受けてパキスタンはアフガニスタンのタリバン掃討に協力しましたが、アフガニスタンに接するバルチスタン州の住民は殆どがタリバンと同じパシュトン人です。従って、政府のかけ声ほどには積極的に行動するわけではありません。もともとパキスタンは4つの国をむりやりくっつけたような国なのですが、こうしたケースは外国ではたくさんあります。旧ユーゴスラビアはその典型です。こうした国で各種の政策を中央集権的に進めても、あまり効果はあがらないでしょう。サッカーにイギリス代表がない、ということで想像してください。
一般論としていうと、集権化と分権化の優劣については議論が分かれるようです。中央政府は、地域の詳細な情報を得るのに色々な困難に直面しますが、国全体の視点から適正な人口配置を考えることも必要な政策になってきます。オーストラリアがノーザン・テリトリーにおいて観光優先政策を採っているのがその好例です。これを中央政府の集権的手法で行うことは皮肉といえばいえますが、ノーザン・テリトリーでは先住民族のアボリジニの保護政策を観光発展とともに推進しています。こちらは分権の成果として州政府独自の観光政策が実を結んでいる、といって良いでしょう。集権と分権がうまく組み合わされた例です。では分権化に問題点はないでしょうか。このことはスペインやイタリアをはじめとする国々が経験しています。その危険性とは、前段で講義した日本の場合と同じように、施策の重複あるいは欠落の可能性がある、ということです。いくつかの政府観光行政組織(NTA)はこの危険を回避するための対策を講じています。
<例>オーストラリアのパートナーシップ
政府観光行政組織(NTA)内部間の協力関係を強化すると共に、政府観光行政組織(NTA)と地方政府との連絡を密にしています。
<例>カナダの各州政府
アメリカ合衆国に隣接するカナダ各州は、長い間、アメリカ人旅行者の誘致を競い合ってきました。しかし、遠距離市場に対するプロモーションでは互いに協力(共同マーケティング調査)しあっているばかりか、政府観光行政組織(NTA)とも協力関係を維持しています。また、日本人を誘客するためにアメリカとカナダが共同プロモーションを行うこともあります。これらは進みすぎた「分権下」ではなかなか実現しません。大局観がなくなるからです。
<例>連邦制国家では観光行政組織の分権化が進んでいる
連邦制を採用している国や地方分権の進んだ国では、地方政府によって設立された政府観光行政組織(NTA)が様々な機能と権限を有しているのが普通です。このことは、事業登録制度やホテル格付け制度において顕著です。オーストラリア,フランス,スペインがこの好例ですが、これらの国々においては民間セクター,業界団体,地方政府,中央政府の間の連絡が良好に確保されています。
<例>分権化は必然的に財政的自立を求める
残念ながら、中央政府から地方政府に予算が与えられる例はほとんどみられません。分権の動機の多くは中央政府の歳出抑制という側面があるからです。アイルランドの政府観光行政組織(NTA)は、かつて国内に6つある地方観光協会の予算の7%を補助していました。しかし、今では各地方観光協会は自主財源を持つことを求めています。そのかわり、各地方観光協会は土地などの資産を保有することができ、国内に100ヶ所以上ある観光案内所において商業活動を行っ
ています。
学生Q.日本はINBOUNDとOUTBOUNDの比率がアンバランスで、国民の海外志向が強いということがわかったが、でももう少し自国の文化に誇りを持つことが大切だと思った。
コクジーA.その通りだと思いますが、海外に行っていろいろな国を見ることによって、「やっぱり日本は最高だ」と思い至る人もかなりいますよ。私は数えてみたら、40くらいの国を訪れていましたが、足の短さは日本人女性が文句なくトップです。(・・・・ただし)、最近の若い女性は除きます。これは着実に変わりました。言ってることが逆転していました。これは悪い例でした。私の感じた日本の良いところは、「奥ゆかしさ」かなぁ。エジプトでは「車に乗ってこの国の人をひいたら、すぐ現場から逃走せよ」とアドバイスを受けました。その場で報復リンチが起きかねない、というのです。日本人は贈り物をするとき、「つまらないものですが・・・」といいますが、外国人は「すばらしいモノをあげる」といういいかたをします。ある時、パキスタン出張でお世話になる人に前もって、日本から絵はがきとか、電卓といったたぐいのお土産を持っていこう、と思い、何が良いか手紙で尋ねたら「トヨタ」と返事を書いてきたり・・・。中東で飛行機に乗るときでした。日本人は2列くらいできちんと並びますが、アラブの人は押し合いへし合いで階段に向かった扇型になってしまいます。私は「指定席なのにアホちゃうか、この人ら」と悠々とタラップを上っていったのですが、私の席はもう鍋・釜を抱えたおばちゃんに占領されていました。ボーディングパスを見せて、「そこ、私の席」といっても全然だめ。「あなたの席は私の席、アラーであろうが席はなし」とでも言っていたのかしらね、想像ですが。スチュワーデスは席の数と客の数さえ合っていれば「私の仕事終わり」といった感じです。文化ということではないですが、治安や衛生も「日本に生まれて良かった」と思いますね。カイロで頼んだ水割りはウイスキーを入れる前からうす茶色です。ナイル川のストレート水らしいです。発展途上国では水が一番怖いです。思い出すと興奮してきて、ちょっと答えになっていないかなぁ。
学生Q.実験的事業開発とツーウェイ・ツーリズムについてもう少し知りたい。
コクジーA.インバウンドとアウトバウンドを並行して活発化させようという政策のキャッチフレーズです。双方向観光と言えば良いでしょうか。今まで海外へ出かけるばかりで外国人は日本に来ない、という傾向を改善し、バランスを保ちながら、日本のことも外国人に良く知ってもらいましょう、ということです。まぁ本音を言えば、日本人の国内旅行の伸び悩みを解消すべく、外国人にすがりたい、ということですな。実験的事業開発というのは観光的な新しいプロジェクトを起こして、新たな顧客獲得を目指すということで、これは民間セクターでやるのは大きなリスクを伴うし、政治的なしくみや約束事、国際的なルールに触れる問題もあるので、国レベルで行いましょう、というものです。シンガポールとインドネシアとマレーシアの3カ国が共同で行ったバタム・ビンタン島の開発事業が典型例で、その中でリゾート開発が大きな役割を占めています。
学生Q.出雲大社はなんで縁の神社なのですか? なぜ出会いなんですか? 私は行ったことがあるけれど、何にも変わりません。授業はどんどん進むので、たまにプリントのどこをやっているのか、わかりにくくなります。
コクジーA.出雲大社にまつられているのは大国主大神・須勢理比売(すせりひめのおおかみ)で、仲睦まじく並んで祭殿に鎮座しています。このことにちなんで、全国から、結婚の縁を願う人々が集まりました。要するに日本で一番格式の高い神社にまつられている2人の神様がメチャ仲よくしていることにあやかっているわけ。「出会い」云々は、今風のことばに翻訳した信心に欠ける私の独断です。効果があるかどうかはお賽銭の額によるんじゃないか?
学生Q.金比羅はとても良い所です。長い長い階段を登ると達成感があります。香川って本当に良い所ですよ。先生は香川をどう思いますか?
コクジーA.金比羅は好きだし、さぬきうどんは安くてうまいし、栗林公園はきれいだし、私の親戚はおるし、雨が少なくて暖かいし、本当に良い所ですが、一つ汚点がありましたね。海に浮かぶ豊島の産業廃棄物問題です。裁判でなんとか、産廃撤去の方向が示されましたが、それまでは知事が逃げまくっていましたね。ずいぶんイメージを悪くしてしまったと思います。ところで東京のうどんはメチャまずくて、私は「てぬきうどん」と言っていたのですが、最近香川のうどんやが東京に進出してきて大当たり、人気沸騰中です。
学生Q.私も小学生の頃、金比羅山に行きました。何があったとかは忘れてしまたけれど、階段がやたらとしんどかったことを覚えています。思い切りよく走って駆け上がったけどすぐダウンしました。若かったです。
コクジーA.今だってピチピチでしょう? そういうのを寝言と言うのです。最近、学生諸君、よくエレベータを使ってますな。特に野球部は汗臭いし、けしからん。たまらん。ヒイヒイ言って階段を上がってこそ、教室で神聖な講義を受けようという厳かな雰囲気になるのです。教室の前で座り込んでタバコをプカプカ吸って、それから講義、ということになるから、私語かお眠りにつながってしまうのです。