転校する前、全日制高校で一番最後に受けた音楽の授業。
「あなたの好きな曲と、その理由について書いてください」という課題。
わたしは、『あしたは死ぬことにした』という曲を書いた。

死にたい 死にたい 死にたい
僕は今日も息をして
生きたい 生きたい 生きたい
君は明日を見失う
誰もが此処で生まれて
此処で命を落とすだけなのに



あれから5年が経った。
今日、1年間通っていた全日制高校に、元顧問の先生に会いに行った。

「こんにちは」と笑顔で迎えてくれた、いつもの先生の声に、安心した。

途中で入ってきた元担任の、わたしを見たときの、驚いた表情。
「舞佳またメイク変わった?!」とか、いつもの調子。

「かわいいがわたしの盾になるんです」


「舞佳さんはね、めんどくさくなるとリーダーシップ発揮するんだよ」

「すごい真剣に生きてるよね」

「幸せですって、それ聞けただけで今日会えて良かったよ」


校舎を先生と見て回った。
「思い出して調子悪くなったりしたら言ってね」
「ありがとうございます、大丈夫だと思います」

部室に入って「すごい懐かしいものあるよ」。
私が主演で着ていた衣装。
「懐かしい〜!」「これこの間使ったんだよ」

教室に入って「たしかこの辺座ってたよね」「そうです、私ここでした!」
座ると見えた、あの日の景色。

ステージから見る体育館。
毎日、わたしが、あの子に成っていた場所。
あの子として立ち切った2日間の舞台。
「外郎売、もう忘れちゃいました」
「今はもうやってないよ、外郎売」
「え、そうなんですか?」
「なんか反復横跳びしながらあめんぼやってるよ」


わたしになりきれてない、わたしのカケラ
青くて苦いカケラ

わたしが死んだ痕


「また見たいな。舞佳さんの芝居、大好きなんですよ。」
「ありがとうございます。本当に嬉しいです」

「優しい人だね、あなたは」

わたしをわかってくれる人がいる。

「人生なんて暇つぶしだから。頑張らなくていいんだから。」
「変わってなくて良かった、明るくて」
「旦那さんと幸せにやってるって聞けて、本当に良かったよ」

わたしの幸せを喜んでくれる人がいる。

わたしは確かに、愛されていて。


死にたいと言い続けて5年
未だにちっとも死んでいない。

うつ病という病名がついたり、統合失調症という病名がついたり
全日制高校を辞めたり、大学を辞めたり
恋人ができたり、結婚したり
死にたいとは裏腹に、色んな形で、人生を全うしている。


わたしは特別な存在なんだよな


ずっとそう思って生きてきた。


だってどこかおかしい、何かおかしい

わたしはどうしても周りとは違くて

どうしても優秀で

どうしても劣っていて

どうしようもなく、生きるのに向いていない


それでもこの大嫌いな世界で、わたしを信じてくれる人がいる

わたしを特別にしてくれる人がいる

いつか、いつかのわたしがここで

カケラを拾えるように


私が死ぬ

カケラが生まれる


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