病院はどう運営されているのか:アメリカ編
「病院ってどう経営されてるんだっけ?」
「海外だとどう経営されてるんだ?」
ある日ふと疑問に思いました。そこでこの記事をメモ代わりにまとめてみました。
病院経営をちゃんと紐解いて見るとなかなかに興味深いです。
病院の大分類、“For-Profit” か “Not-for-Profit” か
(病院経営別分類、American Hospital Association, HPより)
米国には6,210の総合病院がありますが、連邦政府等の病院を除く5,262病院は大きく2つのグループに分けられます、「営利」か「非営利」です。
これ以外には州立病院などがありますが、全体の80%を占める非政府病院のはこの二つのグループに分類できます。
全米で最もメジャーな経営形態: Not-for-Profit
(ニューヨークにあるSt.Lukes(聖路加)病院、キリスト教系非営利病院)
連邦政府運営の病院等を除く5262の病院のうち2,968病院、実に62%は非営利病院Not-For-Profitの経営形態を取っています。即ち、米国の大半の病院は(建前上は)NPO法人と同じく社会・地域貢献を目的として運営される非営利団体です。
米国はなぜ非営利病院が多いのでしょうか?理由は主に二つ考えられます。
1、キリスト教文化
米国建国期の頃、病院は主に私人(=お金持ち)や宗教団体(=キリスト教)による救済事業として設立されていました。この背景から現代でも多くの病院が非営利組織として残っています。また、その名残として今も大富豪の名前を冠した病院や宗教と関連した病院が多くあります。医学部にも設立に深く関わった実業家や寄付者、政治家の名前が付けられます(トーマスジェファーソン大学のSidney-Kimmel医学部など)。キリスト教の影響もあり、財を成したら医療福祉にお金を回すのが米国流のようです。
(サンフランシスコにあるザッカーバーグ総合病院、勿論Facebookの彼)
2、税制
NFP病院は地域貢献を目的とする病院であり、そのためNFP病院にはNPO法人と同様の減税措置が取られます。非営利病院はいかなる境遇の患者であっても受け入れる義務を負う代わりに州法人税、土地税、消費税など、各税が免除になります。これは売上高の数十%に相当する減税です。
いうまでもなく、米国の病院の60%以上が非営利である大きな理由はこの税制のためでしょう。(*ちなみに日本では医療法人は法的には非営利組織にも関わらず、会社法人同様に30%強の法人税を課税されます)
(セント・ルイスのBarnes-Jewish病院)
非営利とは言うけれども、、
非営利病院は非営利と言いつつも大きな病院グループを形成し、莫大な売り上げと利益をあげているのも事実です。例えばミズーリ州セント・ルイスに拠点をおくBJC Healthcareは非営利病院グループですが、全米最高峰の小児医療を提供するBarnes-Jewish病院を始め15病院を擁し、年間売上高は4,000億円に達します。
米国にはこのような大規模な「非営利病院グループ」が数多くありますが、規模と税制優遇を生かして大きな利益を挙げていると批判も受けています。
病院が株式会社、”For Profit"病院
全米に1,322病院ある"For-profit Hospital"は文字通り「営利」を目的とした医療機関であり、これらの病院は法律上は「株式会社」です。すなわち、病院以外の株式会社と同様に「利益を最大化し、株主に対してリターンを還元するための組織」として運営されています。日本人の感覚からすれば慣れないですが、米国では医療の欠かせない提供者となっています。ちなみに、病院が株式会社として運営される国は他にはカナダ、インドにも存在します。
営利病院の経営上の特徴としては以下が挙げられます。
1、営利企業同様の課税
非営利病院と違い、営利病院は会社と同等の州税、所得税、消費税を支払います。
2、コスト意識
利益を挙げなくてはならない営利病院ではコスト意識は一般企業と同等以上です。オペレーションの無駄を省くために多大な労力をかけます。
3、ビジネス色の強い経営陣
(左:徳洲会の理事会一覧、右:HCAの理事会)
営利病院にも株主総会やCEO以下の取締役会があり、通常の企業同様の経営形態です。そのため取締役など経営陣も、主にビジネスマンが担っています。
日本と比較するとその差は歴然です。徳洲会では理事長以下理事のほぼ全員が医師・看護師です。対して米最大病院グループのHealth Corporation Americaでは取締役13人中、医師は1人のみです(勿論CEOもビジネスマン)。米の非営利病院もMBAホルダーなどビジネスマンが務めることが多いですが、営利病院よりは医師やアカデミア出身者が比較的多い傾向にあります。また、これらの背景もあり、米では医師キャリアとしてのMD/MBAはMD/PhD、MD/MPHと並び重視されています。
(https://olinblog.wustl.edu/2016/10/like-mdmba-student-part-two/)
日本では医療法46条により医療法人の理事長(≒CEO)は医師・歯科医師免許が必須のため、医療経営の主体は医療従事者です。日本の感覚からするとビジネスマンが人の命を預かる医療現場の経営を行なっているのは慣れないですが、逆に日本の病院では経営層の手腕不足・経営力不足に現場にしわ寄せが発生したり地域全体が危機に陥るケースも多くあります。日本の病院は特に、経営陣の改善により飛躍的に医療の質と収益性が向上する病院が多くあるように感じます。
病院がIPO:米国営利病院の「フランチャイズ経営」
営利病院の中には100以上の病院を束ねるフランチャイズ型の営利病院も存在します。代表的なフランチャイズ型営利病院として Health Corporation of America, Tenet, HealthSouthなどがあります。
(病院グループ、年間売上比較)
Health Corporation of America (HCA)は1964年に設立された営利病院で2018年現在、全米に178病院を運営し、年間グループ売り上げは414億ドル(約4兆円)、年間利益は28.9億ドル(約3000億円)、従業員数は249,000人の超大企業です。1969年にIPOし、NYSEに上場しています。(名称コード:HCAで上場しているので米株ファンは要チェック)
ちなみに日本最大の医療法人徳洲会グループは78病院、年売り上げ約4201億円、従業員数38,000人なので徳洲会はHCAのちょうど1/10の大きさ。徳洲会の何倍規模の営利病院グループがいくつもある米国の規模感はすごいですね。
そもそもなぜアメリカの病院はグループ化するのか?
日本では大学病院などが人事権をベースにソフトパワーで病院グループを形成していますが、米では営利・非営利問わずM&Aによりグループが形成され、大きい病院グループは州全体の医療を担うほど巨大になります。
なぜ米病院はグループ化するのでしょうか、理由は主に3つ考えられます。
1、規模の経済
各種設備、備品、さらに人員を共同購入・共同利用することにより規模の経済が働きます。大規模購入することにより仕入れ先に対して大きな交渉力を発揮できます。
2、アメリカ復興・再投資法
リーマンショック後の2009年のThe America Recovery & Reinvestment Actにより規格に適合した電子カルテを採用していない医療機関はMedicareの保険償還を失うと決められました。電子カルテシステム導入は開業医〜中小病院には大きな負担となったため、この法律は電子カルテの導入推進とともに中小病院M&Aを加速させる副作用がありました。
その影響もあり、2015年には米国のEHR普及率は85%。対して日本の電子カルテ普及率は未だ30%台です。
3、保険会社との交渉力
民間保険会社が病院に治療対価として支払う金額は厳密には病院ごとに違います。大きく、設備が整っている病院ほど保険会社との価格交渉で大きな交渉力を持ちます。これは米病院に対してグループ化のインセンティブを与えます。
(病院ごとの医療費違いはこの記事を参照してください
https://www.washingtonpost.com/blogs/wonkblog/post/how-much-does-an-appendectomy-cost-somewhere-between-1529-and-186955/2012/04/24/gIQAMeKMeT_blog.html?noredirect=on&utm_term=.df9a47dbae7c)
まとめ
いかがでしたでしょうか?
記事を通じて米病院経営の手がかりとなったなら幸いです。
医療には、現場がいくら頑張っても解決できない課題が多くあります。そしてその少なくない部分は病院経営に関する課題です。
医療現場にも「経営」による課題解決が広がることを望むばかりです。
P.S.
ツイッターやってます
https://twitter.com/shohei_ub
Non-Profit 非営利病院
米国の5000病院のうち60%が非営利組織(NPO)の形態を取っています(1)。何故
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