春が来た
プンクマインチャ。ネパールの民話。昨夜はその絵本を読み聞かせしてもらった。不思議な時間だった。還暦を過ぎてそれも異国の民話を、楽しかった。
月に1回。集まってはその場で思いついたことをはなす。そんな時間を過ごしている。昨夜はそこで絵本を読んでもらった。プンクマインチャは僕の知らない異界のはなしだった。絵本のはなしをひとしきり終えてから何のはなしをしただろう。昨夜は途切れることなくつづいた。夕方6時にはじまった会は気づけば終了予定の9時を過ぎていた。
僕らが座る場所は海岸沿いにあるカフェ。店の前を北から南へ走る車道を渡るとすごそこに砂浜が。波打ち寄せる浜辺だ。まだ明るい。日が長くなった。もうすぐ春だね。夕方6時だというのに水平線の向こう西の空がまだ少し明るい。春の気配がした。
かれこれ5年になる。ほぼ毎月。1回。飽きることなく出会ってそして別れた。その繰り返しのなかで繰り返されたことはなにひとつなく。また来月と言って昨夜も別れた。
自宅に帰りベッドに向かうそのとき1通のメールが来た。それはメンバーでもあるその店の店主からだった。4月にここを出ます。なので4月でここでの集まりは最後になります。短いメッセージだった。
驚いた。そして動揺した。びっくりしたけどわかりました。そう返事した。さらに、これからどこへ行くのですか?(どうするのですか?)聞きたいことはいっぱいあったが聞けなかった。
まだはっきりしたことは決めていません。そう返事があった。
わかりきったことだが文字にすることには限りがある。そんなことは互いにわかっている。わかりました。とただ返すほかない。
目処が立てば知らせます。でも目処など立てたくないような気もするんですが(笑)。店主とのやりとりはそこで終わった。
この5年のことが次々に浮かんでは消えた。かけがえのない時間だった。思いは巡った。と突然。春が来た。言葉が浮かんだ。春が来た。そうおもった途端、なぜが心は静まりかえっていた。
春がきて、夏がきて、秋がきて、冬がきて、そしてまた春がくるように。そう。春が来たんだ。そうなんだ。
わかりきったことだが言葉にすることには限りがある。その限りのなかで言葉にするしかない。春は来たのか。春は来るのか。
僕にはわからない。942文字