神殺しの似顔絵師(第2章)
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2022年3月15日
その日、六本木にある新国立美術館では大型の展示会が行われていて、ルノワール、フェルメール、ターナー、モネ、カラバッチョなど、歴史に名を残した画家たちの作品が集まっていた。
私はそれらの作品を見て、改めて画家の偉大さを再認識した。1世紀〜4世紀以上前の人間が描いた絵画が、いまだに現代で人々に感動を与えている。これほど長きに渡って感動を与え続けられる職業はアーティストと作家と革命家くらいだ。
数々の美術展を見たが、今回の展示は特別なものだった。私はこの感動を誰かに伝えたくて、山田祐実にメッセージを送った。
すると、山田からはこんな返信が返ってきた。
宣言通り、山田はその翌月に新国立美術館を訪れた。
美術館に行ったあと、私は山田に誰の作品が印象に残ったかを聞いてみた。すると、山田はカラバッチョの名前を挙げた。
その展示会では、確かにカラバッチョの作品は異彩を放っていた。
私は、「将来はヤマダッチョと呼ばれるくらい人気の画家になれたらいいね」とメッセージを送ると、その渾名が気にいったのか、山田は自身のYouTubeチャンネルを『やまだっちょ』に変更した。
山田ならばカラバッチョを超える画家になれるのではないかと、私は思った。
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2022年4月
私は山田に知り合いを数名紹介し、似顔絵を描いてもらうことにした。まずは似顔絵を描くという経験数を増やす必要があると思ったからだ。
山田は男性画よりも女性画の方が適性があるように見えた。
この年、彼女は12の作品を残した。
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2022年5月
私は山田に新たな仕事を依頼した。それは、家族揃っての似顔絵を描くというものだ。
複数の似顔絵は1人の似顔絵より遥かに難易度があがる。ただ、複数人の絵画のクオリティが担保できればこれからの活動の幅は飛躍的に広がる。
なぜ複数人の絵画が難しいかというと、それぞれが持っている雰囲気を全体感で統一しなければならないからだ。
私は交流が深い有路に似顔絵を描かせてほしいと依頼した。有路はそれを快く承諾してくれた。
はじめて家族の似顔絵を描くことに対して、山田がそれほど緊張しているとは感じなかった。
数日で作品は完成した。
山田はヒアリングの中で、有路が沖縄の離島に住んでいることを聞いた。そこで背景を海にしたセンスは流石だと思った。
それと、有路一家の優しさが伝わる、素晴らしい一枚だとも思った。山田の観察力と表現力はやはり凄い。
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2023年に入り、山田の似顔絵のニーズは高く、描いてほしいという人を見つけるのは容易かったが、この年、山田はそれほど依頼を受けなかった。
もともとメンタルの上がり下がりが激しい山田は、依頼をしても引き受けないこともしばしばだった。作品には創作者の心情が映る。だから、山田が描きたくない時に無理に描かせても、かえって顧客の信頼を失墜させてしまう。おそらく、そのリスクを知った上で山田は断っているのだろうと私は思った
仕事を受け続けるだけがプロではない。時に断る勇気を持つこともプロである。
それでも、時折私から紹介した依頼を受けることもあり、依頼を受けた時の完成度の高さは流石だった。
山田に似顔絵を描いてもらった人は口を揃えて「これが3000円は破格すぎる」という。
これから先、需要があがれば当然価格もあげていかねばならないが、それよりもまずは山田の作品の良さを多くの人に知ってもらうことが先決だ。
以前、日本でもトップクラスのアートプロデューサーの方からお話を聞く機会があった。
私が「どうすれば世界に通用するアーティストを輩出できますか?」と問うと、「素晴らしいと思ったものを自分の周りに広めることだ。その広がりが世界まで届いたら世界的なアーティストになる」と彼は言った。
だから、まず私にできることは山田の絵画の良さを多くの人に知ってもらうことなのだ。
そして、決して焦りすぎてはいけない。山田は似顔絵師として活動をはじめたばかりなのだから。
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2023年9月3日
山田から突然のメッセージが届いた。
山田が似顔絵師として本格始動した瞬間だった。自身が似顔絵を描いてもらったことにより、自分の似顔絵の価値を再認識できたというのだ。
山田と出会ってから2年近い歳月が経っていた。
山田をプロの似顔絵師にするためには、チームを作る必要があると私は思った。この先、私ひとりでプロデュースをするには限界がある。
信頼できる仲間を集めなくてはならない。
焦らずに、このプロジェクトは進めていく。
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