ショートショート(16話目)あの日タイムマシン
ええ。過去にいけるんです。
タイムマシンの開発に成功したので。
過去にいって何をしたいか、ですか?
学生時代に、好きだった女の子と一回だけデートをしたことがあるんですが、その子ともう一度デートをしますね。
え?そんなことをするために過去にいくのかって?
確かに過去にいけるとしたら、普通はお金儲けとかを考えるのかもしれませんね。
でも、考えてもみてくださいよ。
仮に競馬の結果が全てわかっている状態で過去にいって、当たり馬券ばかり買ってお金を手にしたとして、そういう人生って楽しいですかね?
お金を得てすぐは楽しいかもしれませんけど、そこで得たお金って自分の力で稼いだお金じゃないので、たぶん虚しくなると思うんですよ。
ほら、宝くじ当選者の多くは自己破産して幸せになれないっていうじゃないですか。
まあ、未来がわかっているので自己破産することはないかもしれませんが、大金を手に入れれば幸せになれるってものじゃないんですよね。
タイムマシンの構造ですか?
それは企業秘密にさせてください。
他社に真似をされると困ったことになるんですよね。
そもそも、過去を変えるってすごくリスクが高い行為なんです。
バタフライエフェクトって聞いたことありますか?
ブラジルで蝶が羽ばたくとテキサスで竜巻が起きるってやつです。
ほんの少しの行動の変化によって、未来って大きく変わっていくんですよ。
例えば、私は父と母が結婚したから生まれたわけですが、父と母が初めて出会ったのは職場で、どちらかが別の会社に就職してたら私は生まれてこなかった可能性が高いです。
父と母がたまたま同じ会社に入り、たまたま恋愛をして結婚して、たまたま私が生まれる確率って何パーセントくらいあると思いますか?
まあ、1パーセント以下であることは間違いないですね。
過去を変えるってことはそういうことで、本来生まれるべきだった人が生まれなかったり、本体回避できるはずだった災害が回避できなかったりするわけです。
だから、安易に過去を変えることってよくないことなんです。
もちろん、過去を変えたことによって未来がよくなる可能性もあります。
でもね、今の世界ってそんなに悪くないと私は思ってるんですよ。
だって、それなりに平和に生きられてますからね。
考えが保守的だと言われたらそれまでですがね。
ええ。
だから、過去を改変せずにタイムトラベルを楽しむには、過去に楽しかったと思うことをもう一度やるというのが一番健全なんですよ。
それが私にとっては学生時代のデートだったということです。
いつ過去にいくかですか?
明日にしようと思っています。
あ、タイムトラベルをした結果どうなったか、気になりますか?
そうしたら来週の月曜日の13時に、またここにきてくださいよ。
そのときにタイムトラベルをした感想をお伝えします。
独占取材にするので、あなたの成果になるでしょう。
ではまた来週お会いしましょう。
~1週間後~
タイムトラベルしてきましたよ。
ええ。予定通りデートをしてきて、想像以上に楽しかったです。
どんな女性だったかって?
そうですね。
可愛くて、スタイルがよくて、頭もよかったですね。
当時、大学内で彼女を知らない男性はいなかったくらいで。
でも、本人は話題になっていることをあまり自覚してなかったみたいで、そういう鈍感さも人気の理由でもありましたね。
ところで、あなたは大学時代に何回くらいデートをしましたか?
そうですか。覚えていませんか。
あなたは常にたくさんの男性から誘われていましたもんねえ。
普通、あなたくらいモテる人であれば、ある程度は男性をフィルタリングしてデートをすると思いますが、あなたはそういうことをしなかったですもんね。
だから、私ともデートをしてくれたんでしょう?
それとも、私とデートをしたことなんて覚えていませんか?
もっとも、デートといっても大学の近くの喫茶店でお茶しただけなんで、覚えてないのも無理はないですが。
ただ、私にとって、あなたとのデートはいまだに人生最良の思い出です。
もう一度、あなたとデートがしたくてタイムマシンを作ったくらいですから。
それにしても、あなたとのデートは本当に楽しかったですよ。
改めて、あの時はありがとうございました。
そういえば、もしあなたがタイムマシンで過去にいったらなにをしますか?
なるほど。
あなたらしい答えですね。
このインタビューが終わったら、きっとあなたと会うこともなくなるのでしょうね。
私はふと、考えることがあるんです。
あの時、あなたに告白していたら未来はどう変わったのかってね。
もし、告白に成功していたとしたら、タイムマシンはできてなかったと思います。
私がタイムマシンを作りたかったのはあなたともう一度デートをしたかったからで、その願いが叶っていたら、タイムマシンを作ろうなんて思いませんでしたから。
あなたと出会えて私は幸せでした。
本当にありがとうございました。
また、どこかでお会いできたら幸いです。
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