ショートショート(23話目)はじめてのパチンコ
初めてのパチンコは21歳の時だった。
当時大学生だった僕はその日、合コンに誘われて新宿の居酒屋にいた。
美味しくない料理に水っぽいビール、そのうえ会話もつまらないのだから、僕が途中で帰ったのは賢明な判断だった。
新宿のネオン街を歩き、駅へと向かっている途中にパチンコ屋があった。
僕は光に吸い寄せられる夜光虫のようにパチンコ店に入った。
店内は煙草の臭いで充満していた。
スーツを着たサラリーマン風の男性、茶髪の若者、主婦らしき女性。
様々な人がパチンコを打っている。
僕は海物語に座った。
高校生の時、ゲームセンターで少しだけ打ったことがある機種だった。
千円札を入れると玉がでてきて、ものの数分で千円が溶けた。
お金の消失の速さにたじろぎながらも、僕は2千円目をサンドに入れた。
3千円目、4千円目と次々にお金が吞まれていく。
1万円を入れたところでリーチがかかり魚群が通った。
隣に座っていたおじさんが僕の台を指さしながら何かをいっていたが、うるさくて何も聞こえなかった。
そのリーチが運よく当たり、その後僕の台は5連チャンほどした。
大当たり終了後、僕はすぐさま店員を呼び玉を流し景品交換所で換金をした。
換金額は25000円だった。
勝てたことよりも負けなかったことの安心感が大きかった。
それから僕は駅近くのコンビニでパチンコ攻略雑誌を購入し、帰りの電車でそれを読んだ。
これが僕のパチンコ人生のはじまりだった。
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ビギナーズラックでパチンコに勝ち、その後ハマるという人は多いが、僕の場合はそうではなく、大学時代にパチンコにいったのは結局それっきりだった。
パチンコを再開したのは新卒で入った企業を半年で辞めてからだ。
大学を卒業した僕は銀行で働き始め、働くことの無意味さを知った。
右から投げられた石を左に投げ返す仕事に飽きた僕は、会社をやめてパチプロになることを決めた。
高校の時の先輩でパチプロをしているという高田先輩に連絡をとり、僕はパチンコのいろはを教わった。
パチンコはとてもシンプルなゲームで、くじ引きみたいなものだった。
「パチプロは冷静でなくてはいけない」と高田先輩から教わったが、その素質は幸運にも僕は兼ね備えていた。
というより、僕は何をするにも熱くなれない人間だった。
勉強、スポーツ、仕事、恋愛。
どれもこれも熱くなったことがない。
学生時代、ロボというあだ名がつくくらい冷めきった人間だった僕にとってパチプロは相性のいい職業だった。
僕は初年度からプラス収支を叩き出し、その後7年間にわたりパチンコで生計を立てている。
いまでも、時折思うことがある。
はじめてパチンコをした21歳のあの日、つまらない合コンの場にずっといたら、僕の人生は少しは変わっていたのかと。
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