ショートショート(36話目) 死神先生
どれどれ。
今回のターゲットは…。
私は死神カルテに目を通した。
名前:蓮野沙也加(はすのさやか)
年齢:19歳
死期:2か月後
死因:白血病
ずいぶん若いな。
天界は相変わらず残酷だねえ。
さて、この子の元にいこうか。
私はワープをした。
~~~
蓮野沙也加は公園のベンチに座っていた。
『こんにちは』
私が背後から声をかけると彼女は振り返り「誰?」と言った。
『私は死神。あなたの願いを叶えにきたの』
「え?なに言ってるの?あなた」
『信じられないのも無理はないわ。誰も自分が死ぬなんて思わないもの。いえ、思っていたとしても考えないようにしてるのよね。人間って。』
「ちょっと待って。私、死ぬの?」
『うん。そう。2か月後にね』
「で、あなたは死神?」
『うん。そう』
「死神って、翼が生えてて、見た目が悪魔みたいな、あの死神?」
『あー。映画とかアニメの影響でそう思っている人って多いよねえ。でも死神の見た目は人間なの。ほら、私も見た目は普通の女の子でしょ?』
「そうなんだ。なんか、イメージが違いすぎて、びっくりしちゃった」
『みなさん、そのようにいいますね』
「さっき、あなたは私の願いを叶えにきたって言ったわよね」
『うん。そう。天界には決まりがあるの。30歳までに死んでしまう人の中から100人に1人の割合で死神を派遣するって。死神の仕事は、その人の願いをかなえること。だから、あなたはとっても幸運なのよ』
「そうなんだ。つまり、あなたは私の願いを叶えてくれるのね」
『ええ。なにか、叶えたい願いはある?』
「好きな人がいるの。その人と両想いになりたい。ちょっと、ついてきて」
私は蓮野沙也加のあとを追った。
~~~
大学病院の中庭についた蓮野は一人の男性を指さしていった。
「あの人。研修医の澤田先生。あの人と両想いになりたいの」
『ほうほう。なかなかのイケメンじゃない』
「で、どうやって両想いにするの?なんか、魔法とか使う感じ?」
『ううん。私にそんな能力はないよ』
「え??」
『両想いになる方法、教えてあげるから、よく聞いてね』
「う、うん」
『最初に質問ね。モテる人ってどんな人だと思う?』
「そうだな。男性ならカッコいい人、女性なら可愛い人かなあ?」
『はい。それじゃあ次の質問です。カッコいい人、可愛い人はみんなモテていますか?』
「うーん。モテる確率は高いと思うけど、みんなモテてるわけじゃないかな」
『そうです。かっこいい、可愛いはモテるの絶対条件ではないんです。他にはどんな人がモテると思いますか?』
「お金持ちとか、頭がいいとか、仕事ができるとか、性格がいいとか、そんな感じかな」
『はい。よくできました。そうなんです。人によって異性に求める条件は変わるんです。それでは、澤田先生はどんな子が好きなんでしょうか?』
「…わかりません」
『相手がどんな子が好きなのかも分からないのに、両想いになんかなれなくないですか?』
「確かにそうですね」
『そしたら澤田先生をお茶にでも誘って、澤田先生のことをよく知らなきゃ。あなたの命、あと2か月なんだから、はやくはやく』
「う、うん。分かった」
蓮野沙也加は澤田先生のもとへと歩いていった。
しばらくして、蓮野沙也加は赤い顔をして戻ってきた。
「来週、一緒にカフェいく約束しちゃった」
『よーし。まずは澤田先生をちゃんとリサーチするんだよ』
「うん。わかった」
~翌週~
『で、どうだった?澤田先生のことはリサーチできた?』
「う、うん。だけど、どんな女の子が好きかは聞けなかった…」
『しゃーないしゃーない。とりあえずリサーチした情報を教えてくれる?』
「うん。趣味は映画鑑賞でSFが好きみたい。あと、好きな食べ物は鶏のから揚げ。それと音楽が好きで、ミスターチルドレンが好きみたい」
『ふむふむ。蓮野さんと澤田さんの共通の趣味とかはあった?』
「なかったんだよね。だから、あんまり話が盛り上がらなくって」
『OK。そしたら私から宿題を出すね』
「うん」
『まずはSF映画を見まくろう。ネットフリックスがおすすめだよ。それと、この近くで鶏のから揚げが美味しい店を探すこと。あと、ミスターチルドレンの曲を全部聞く。わかった?』
「ちょっと待って。両想いになるってこんなに大変なの?」
『当たり前じゃない。さあ、あんたの命、もうそんなにないよ。早くしないと、2回目のデートにいけないよ』
「うん...。分かった」
~翌週~
『宿題はできた?』
「うん。とりあえず、できる限りはやってみたよ」
『じゃあ、まずはSF映画からね。面白いと思うのはあった?』
「インターステラが個人的には好きだったかな。あとはゼロ・グラビティとか」
『うんうん。充分充分。そしたら次の鶏のから揚げが美味しい店はどうだった?』
「大学病院から歩いて10分くらいのところにある丸亀屋っていう店の唐揚げ定食が美味しかったわ。鶏肉がジューシーだったし、臭みもなくて。あと、唐揚げについているタレもおいしかったわ」
『素晴らしいリサーチね。そしたらミスターチルドレンはどう?』
「うん。聞いててよかったなっていうのがyouthful daysっていう曲と、未来かな」
『お。いいねいいね。よくたった1週間でそこまで調べたね』
「うん。だって、私あと1か月くらいで死ぬんでしょ?」
『そうだね。だから、急がなきゃね。そしたら、次の宿題を出します』
「うん」
『もう一度、澤田先生をデートに誘いなさい。場所は唐揚げ定食が美味しい丸亀屋で、SF映画の話とミスターチルドレンの話をするんだよ』
「わかった」
~翌週~
「死神ちゃん。澤田先生とデートいってきたよ」
『お、それでどうだった?』
「すっごく、話盛り上がって、とっても楽しかった」
『おお!それはよかった』
「で、最後に、私と付き合ってくれませんかっていったんだけど」
『うんうん』
「断られちゃった。まあ、仕方ないよね」
『蓮野さん…』
「でも、この1カ月、すごく楽しかったよ。なんだか生きてるって感じがした」
『そっか』
「不思議だよね。死神がくるまで生きてるって感じがしなかったのに、死神がきて自分が死ぬことが分かってから、ようやく私は生きているって思えたの。だから、あなたにとても感謝しているの。ありがとう」
『ごめんね。願いが叶えられなくて』
「ううん。それは私のせいだし。それに、澤田先生も1か月後に死ぬ彼女なんて嫌だろうしさ。あー、あと1か月かあ。なにしようかなあ」
蓮野沙也加はそういって笑った。
公園にはヒマワリが咲いていた。
枯れるとわかっているのに、太陽にむかって力強く咲くヒマワリは、どこか彼女に似ているなと、そう思った。
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