ショートショート(5話目)わたしとつきあう時の3つのルール
真っ赤なポルシェは首都高速を走る。
運転席にいるのは達也。
達也は将来を嘱望(しょくぼう)されているプロ野球選手だ。
達也とは飲み会で出会った。
モデルをしていた私は知り合いから誘われて、その日飲みにいった。
野球に興味がない私でも、達也のことは知っていた。
5年前の夏、達也は甲子園のスターだった。
ドラフト1位でジャイアンツに入団した達也は1年目から最多勝のタイトルを獲得した。
いまの達也の年収は3億円。
私の未来の旦那様になる予定だ。
私は達也と付き合う上で、3つのルールを定めた。
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ルール① 大事なことは直接会って目を見て話す
私は3年間付き合っていた元彼の健治(けんじ)から、電話で「別れよう」と言われたことがある。
理由を聞いたけど健治は答えてくれず、一方的に電話を切られた。
健治のことが大好きだったから、とても寂しかった。
それから、このルールを作った。
大事な話を電話でするのはNG。
直接会って、目を見て話すこと。
そうすればきっと、わかりあえるはずだから。
これが、私と付き合うための1つめのルール。
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ルール② 嘘をつかない
わたしは元彼の優也(ゆうや)に嘘をつかれたことがある。
優也は嘘をついて浮気をしていた。
浮気をしていたことより嘘をついていたことが許せなかった。
優也はクリスマスイブの日、わたしとのデートをドタキャンした。
「急な仕事が入った」と言われて、仕事なら仕方がないと思い、わたしはクリスマスイブの日に1人で映画を観に行くことにした。
映画館のチケット売り場で、私は優也と出くわした。
優也は知らない人と手を繋いでいた。
私は何も言わずその場を立ち去った。
その夜、優也の携帯番号を着信拒否にした。
私は嘘をつかれるのが嫌い。
だから、嘘をつかないのが私と付き合うときの2つめのルール。
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ルール③ 直してほしいところは伝える
私は元彼の直樹(なおき)にフラれた時の言葉を、いまだに覚えている。
直樹は別れ際に言った。
おまえは勝手に携帯を見るし、口を開けば愚痴ばっかりだし、金遣いが荒くて、料理が下手だ。
言われたときはショックだったけど、直樹に言われたことで私は自分の愚かさを認識できた。
直樹に言われてから、わたしは勝手に携帯をみなくなったし、愚痴も言わなくなったし、節約もできるようになったし、料理教室にも通うようになった。
交際を長続きさせるコツは、お互いに我慢しないことが大事。
だから、直して欲しいところを伝えることが、私と付き合うための3つめのルール。
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達也から「付き合ってほしい」と言われたとき、「この3つのルールを守ってほしい」と言った。
達也は快諾して、私たちは付き合うことにした。
達也との交際も3年目を迎えた。
今日は六本木ヒルズのレストランでデート。
出てくる料理はどれも美味しい。
達也は店選びのセンスが抜群にいい。
デザートを食べ終わって、私は達也に「これからどこにいく?」と聞いた。
達也は「どこにもいかない」と答えた。
「そっか。そうだよね。明日、試合だもんね」
私が言うと、達也は
「突然だけど、別れてほしい」と言った。
「え?達也、なにいってるの?」
「他に好きな人ができた。だから、別れてほしい。」
達也は私の目を見て、はっきり言った。
ルール①の大事なことは直接会って目を見て話すを完璧に達也はクリアしている。
達也は続けた。
「本当にすまない。君のことは好きだけど、その人のことのほうが好きなんだ」
達也が私のことを好きだという気持ちに、おそらく嘘はない。
達也は馬鹿がつくくらい真面目で、嘘がつけない人だから。
こんなに堂々と別れ話をされたことはいままでなかった。
ルール②、嘘をつかないも、達也は完璧にクリアしていた。
「なにか、私に悪いところあった?直すから言ってよ」
そういうと達也は
「直して欲しいところは全て言ってきた。その度に君はどんどん変わっていった。君に悪いところはひとつもない。ただ、俺が他の人を好きになってしまっただけなんだ」
そう。達也は直してほしいところは全て言ってきた。
スカートを履くのはやめてほしいとか、人前で手を繋ぐのは恥ずかしいからやめようとか。
言われる度にわたしは直してきた。
完璧な恋人になれたと思っていた。
達也はルール③の直して欲しいところは伝えるも、しっかり守っていた。
全てのルールを守ったうえで、別れを切り出されたのだから、達也に非はない。
元々、達也と私ではつり合わなかったのかもしれない。
わたしは売れないモデルで、達也は超一流のプロ野球選手。
別れるのも無理はなかった。
私は達也に「わかった。いままでありがとう」といった。
達也は「ホントにごめんね」といって謝った。
「いいの。気にしないで。好きな人ができるのは仕方ないことだし、今度は4つめのルールに『できればわたしだけを見ていてほしい』を付け加えるから」
達也はいい男だった。
しばらく、この失恋は引きずりそうだ。
「自宅まで送っていくよ」と、達也は言ったが、わたしは断った。
歩いて帰りたい気分だった。
達也は最期にいった。
「わかった。気をつけて帰ってね。いままでありがとう。和道(かずみち)に出会えて、本当に幸せだったよ」
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