芋焼酎ストレート、応接室で。 白石酒造「天狗櫻」
応接室のローテーブルに置かれたごく普通のグラスに、どばどば注がれた芋焼酎。これが、記憶にある一番好きお酒です。
鹿児島県・白石酒造の「天狗櫻」。芋焼酎です。
初めて飲んだのは2015年の夏、「焼酎」をテーマにした本を作っていました。
その監修をお願いした五反田「内藤商店」のご主人から「焼酎の未来を担う天才がいる」と教えてもらったがきっかけです。
白石酒造
串木野市湊町1丁目342
0996-36-2058
開墾と、蒸溜。「天狗櫻」の2つのすごさ
(天狗櫻の瓶は紙に包まれています)
①白石酒造の酒造り特徴は「開墾」です。
作り手がいなくなり荒れ放題になった「耕作放棄地」を自ら耕し、そこでサツマイモを育てています。
「カブトムシがいる土地で育てたサツマイモを使いたい」
とは、蔵元の白石さんの言葉。大地の力をフルに生かし、無農薬、無肥料の原料造りに取り組んでいます。(お米も無農薬!)
※芋焼酎は、米と芋の2つを使います。
②3つの「蒸溜器」を駆使しています。
焼酎は一度醸造(お酒に)したものを気化して抽出する「蒸溜」という工程があり、どの蔵にも大きな「蒸溜器」がみられます。
それが、白石酒造には「木」「ステンレス」「ホウロウ 」と、材質違いで3つもあります。(著名な酒蔵さんだと、立派な蒸溜器がデーンと鎮座しているのですが、白石酒造では限られたスペースにDIYっぽい機械がところ狭しとならんでします)
それぞれのメリット(木=香りがつく/ステンレス=きれいな味に/ホウロウ=温かみがある)を考え、理想の味にむけて使い分け、ブレンドなど試行錯誤を続けているのだそう。
この話を聞いた時、「…やばい人だ」と思いました。
いい意味です。嗜好品のお酒って「変人」さを愛するものでもあります。
※さらに製麴も「甑」と「ドラム式」を併用し、それぞれのいいところを取り入れているそう。決して伝統信者ではない。
(裏ラベルです。今年のものもまた美味かった)
このようなナチュラルな造りは、時代にあっていると思います。
しかし、天狗櫻は「オーガニック」とか「無農薬」とかは、喧伝していません。めちゃくちゃ大変なことやっているのに!
その理由に、白石酒造のナチュラルな酒造りは、周囲に「迷惑」をかける上になりたっているということがあります。
無農薬でやっていれば虫が集まる。近くの農家さんにとっては大問題です。多くの人の協力のうえに、理想の焼酎造りができる土台がある。だから自分だけが軽々しく「無農薬だから買って!!」とは言いにくいのです。「とにかく地元の人に喜んでもらえる、本当においしい焼酎を作らなければいけない」と話していました。
情熱の人であり、悩める研究者。不器用さに惹かれた
そして、僕が天狗櫻を好きな一番の理由は、蔵元の白石さんです。
日に焼けた立派な体格と、研究者のような思慮深さが同居する、どこか浮世離れした人物です。(蔵の経営者、もちろんそんなはずはないのですが)
そんな白石さんですが、焼酎のこととなると、もう、めちゃくちゃ苦悩しているんです。
「いまのままではダメ」
「まだまだ試行錯誤して、イメージにあわせているところ」
「イメージする焼酎はもっとおいしい」
売上につながる聞こえのいい言葉だけを言ってればいいものを、初対面の僕に自分への不満をそのまま口にされていました。
こんなにおいしいのに。
蔵の中も、最近のおしゃれな設備の蔵とは別世界。「手作り」な感じでいっぱいです。どのこだわり(材質ちがいとか)からも、白石さんの情熱(怖いくらいの)が伝わってくるのです。
取材が終わったあと、「よければ(車でなければ)どうぞ」と、いただいたのが、冒頭の焼酎、ストレート。
それまで、25度の焼酎を「ストレート」で飲む経験はありませんでした。
(ストレート焼酎。当然ぬるい)
…これが、びっくりするほどうまい。
25度焼酎のストレートだから、カッとなるほど強い。
しかし、まったく「壁」がない。
濃密なのに、すーっとしみこんでくる。
強い、けど角がなく、喧嘩しない。
すごく「丸い」のです。
「天狗櫻」はうちの常備焼酎になりました。ロックでもいいし、お湯割りにしてもいい、もちろんストレートだって、すごくおいしい。
天狗櫻おすすめです
そして、それから2〜3年後、東京で行われた「焼酎イベント」で白石さんと再会しました。
そこで白石さんは「(当時)記事になった言葉は、自分の目指しているもの。うれしかった」と言ってくださりました。
数年前の僕は「うまい焼酎は大地の味がする」みたいな言葉を書いていました。
安直ですが、たぶん、今でも似たような言葉を選ぶと思います。
どこかで「天狗櫻」を見かけたら、ぜひそのまま、ストレートでのんでみてください。
鹿児島のだだっぴろい大地がイメージできますよ。