【みりんに恋して】日本全国の本みりんを飲みまくる女性が「みりん愛」を語る
「みりん」ーー調味料のあれです。
しかし、スーパーでよく見るものは実は「みりん風調味料」。「本みりん(中でも糖類不使用なもの)」は、お酒と同じように「蔵」で、丁寧に丁寧に造られる、繊細なもの。調味料としてはもちろん「おいしいお酒」としても楽しめるのです。
高さ180cm、そびえたつ本みりんの棚
(みりんさん提供)
高さ180cm、幅120cm、みりんさんのご自宅にある、本みりん専用アルミラック。落下対策として何本ものスーツケースバンドが張り巡らされています。
(オンラインで取材しました。本職は通訳とのこと)
「はじめまして、いいでしょうこの棚、ふふふ」と、みりんさん。背後の棚にはつっぱり棒も見え、地震対策も万全のようです。
(しっかりロック)
「これはスーツケースバンドです。お店などでは紐一本で落下防止しているのですが、心許ないなってずーっと考えてて…はっとひらめいたんです。
ドンキにいったら鍵付きのものしかなかったんです、1200円くらいでした。家だから鍵いらないしって思って100均で探したらあったんですよ!」
(画面越しのスーツケースホルダー。使っていない予備があるのですね)
「この棚を作ったのは最近ですよ。夫はいるのですが、私ひとりで。まあ、もし手伝うっていっても並べ順とかもこだわりたいので断ります」
なぜ、「本みりん」?
ーーなぜ、本みりんを集めているのでしょうか?
「うーん、私、もともと『砂糖』が苦手だったんですよ。ケーキ屋さんのケーキは大丈夫ですよ、でも自分で料理に使うとなるとどうも苦手で、中学生くらいからお小遣いで三温糖を買っていました。『雑味のある甘さ』じゃないとおいしいと感じれなかったんです。
ところが、結婚した主人がすごく甘党だったんですよ。どんな料理にも砂糖をいれようとする!それで、砂糖を使わずに美味しく甘い料理をどうやってつくろうか、と考えてたどり着いたのが『本みりん』でした。量が少なくても甘くなるし、味の幅がでる。これだなって」
ーーでは、あくまでも「調味料」なのですね。
「ええ、だけど少しは飲みますよ。どんな味か確かめたくなるじゃないですか。で、なめてみるとめっちゃおいしいじゃん!!!ってなって。私、お酒は弱いんですね。一合くらいで寝てしまうくらいなので、日本酒は1本買ってもなかなか消費できません。でも、料理に使う本みりんを少し飲むくらいなら大丈夫。そこで、私が飲むお酒は本みりんにしようって、決めることにしたんです」
ーーみりんさんは、このように「自分に合うものを決める」ということが多いのだそう。料理によく使う「醤油」も、何種類も試してみて、一銘柄に決めたといいます。本みりんはというと…
「それが、うちの料理には合う本みりんがなかなか見つからなかったんですよ。多くの本みりんは『鰹だし』に合うようにできているのですが、うちは『にぼし』を使うのでどうにも…。うちにあう本みりんはどこにあるの?って探していたところ、気がつけばもう20蔵分ぐらい集まっていました。
で、それくらいいくとネットで簡単に情報収集できる分は網羅しちゃうんですね。もっと探さなきゃって思って、国税局のデータにアクセスして日本の本みりんの醸造蔵を調べることにしました。
ーーすごい!
「そこで、現在稼働している本みりんの蔵が55くらいだとわかりました。ちょっと待て、うちはいまもう、半分近くいってるぞって。これは、最後まで行こう!って思ったんです」
「また、同じ時期に『全国味醂協会』の『みりん研究会』に入りました」
ーーすごい!!
「会に入ると、全国の本みりんの蔵元さんとお会いできるんですよ。造っている方とお会いするのに、その本みりんを飲んでいないのはダメだなって。だから次会う時(来年)までに、この人たちの本みりんをすべて飲もうと思って」
(こだわったという陳列は、できるかぎり「北→南」になっています)
改めて、推しの本みりんプレゼンです
「これ、見えますか? 養命酒さんの本みりんです。養命酒って、本みりんがベースなんですよ。さすが、めちゃめちゃおいしいです」
(色を見せるための灯りごしショット)
「お酒飲みの人へは、愛知県 内藤醸造 七重桜もおすすめ。ワインのような味が特徴です」
「南都桜は、飲むと『これ以上のバランスがとれた本みりんはないのでは』と思えるほどの逸品です。ほかに、菩提酛の日本酒を造っているなど、蔵元としても面白いです」
ーー菩提酛!日本酒もお詳しいのですね。
「ええ、SAKE DIPLOMA(というプロ向けの日本酒資格)を持っています。本みりんを理解するために取りました」
ーー?
「本みりんを知ると、まず『みりんって何だろう』って考えるじゃないですか。すると次に『焼酎とは何だろう』『醸造って何だろう』って考えるでしょう?」
ーー??
「仕込みもこめ焼酎や粕取り焼酎があって、熟成によっても変わる。本みりんは、理解を深めるのにめちゃくちゃ時間がかかるんですよ。でも、勉強のおかげもあって、蔵元さんとお話しするときの理解度がすごく上がりました」
本みりんは使い分ける、だから、ひとつにしぼれない
(棚を物色するみりんさん)
「うちのだしに合う本みりんを探していくと、広島や徳島のものがそうかと思っています。でも、他を使わないというわけじゃありません。
たとえば、肉料理なら結構スモーキーな香りのする本みりんがいいですし、本みりんのなかにはシェリー酒のような味のものあって、それはチョコレートと合うのでフォンダンショコラにします。あとは『鰹節に合う』本みりんもあります」
(「この棚、ずっと見ていられます」とみりんさん)
「これまでの調味料は、いろいろ試して『うちはこれ!』というものを決めていました。でも本みりんは…この子たちの中で誰が一番かなんて、決められません。
だって白いのと黒いの、同じように使えるわけないじゃん、茶色いやつがおいしくてもそれでおひたし作ったら色どうなっちゃうのって、それなのに一つに絞るなんて、そんなの絶対無理無理…!」
(この子、といいはじめた)
食生活から本みりんを導く「みりんコンシェルジュ」へ
ーーInstagramでは「本みりんを使ったお惣菜・スイーツ」を投稿し、本みりんの布教に励んでいるみりんさん。
ーー現在は「本みりんの販売」に向けて動いているのだそうです。
(惣菜販売の許可は取得済み)
「本みりんの蔵元さんのことを調べていると、規模が小さなところが多く、自らの営業で全国のお客さんへ届けることはなかなか難しい状況だと思います。調味料だからその地域だけで消費されるものがほとんど。だからこそ特色が出て面白いのですが…せっかくこんなにおいしいものを造っているのなら、欲しい人に届ける役割の人がいたっていいんじゃないかと思うんです。
あと、本みりんは使い方をしっかり伝えないとダメなんですよ。たとえば愛知の本みりんは『酢』をよく使う人にはおすすめできない。あの子たち(愛知の本みりん)は、おいしすぎて、甘み旨みが強すぎて、悲しいかな喧嘩してしまう。
(おいしい本みりんがよく、おいしすぎてもいけないという宇宙)
私が最近一番仲良しさん(=使っている本みりん)は徳島の『本膳』ですが、これも『鰹だし圏』の人に勧めるかというと、NOです。それくらい、相性で味がかわる。
使っている出汁はなにか、醤油は薄口か濃口か、砂糖は使うか、お酒は飲むか、それらの情報があって、はじめてどの本みりんがいいか、おすすめできます。
レストランさんなどから本みりん選びの相談を受けることも出てきていますので、これから本格的な取り組みにしていきたいと思っています」
本みりんは「これが」じゃなくって「全体」がおいしい
ーーちなみに、私は本取材にあわせて近所の酒屋さんで「福みりん」(福光屋)を購入してのぞみました。せっかくなのでアドバイスをいただいてみると…
「(画面越しにちらっと見ただけで)それは便利ですよ。結構万能で、NGがないんです。特に合うのが『アゴだし』。また、梅ベースのポン酢にもいいです」
ーー飲む方…ではどうですか?
「スパイスですね。養命酒じゃないですが、クローブとかシナモン、ガラムマサラなんかをつっこんでもいいです。また、スパイスと一緒に煮詰めて最後に生姜をいれると『クラフトコーラ』になります。めっちゃおいしいですよ」
ーー最後に、みりんさんの考える『本みりんの魅力』を教えてください。
「『これ』がおいしい、ではなく『すべて』おいしいことです。そもそも今残っている50蔵って、もう今の時点で選ばれているすごいサバイバー。そんな彼らが真面目に造る本みりんは、個性豊かですがどれも外れなしです。調味料でも飲用でも『本みりんっておいしい』ということを知って欲しいです」
ーーみりんさん、本みりんの熱いお話しありがとうございました!
ちなみにみりんさんは、昆布だしのマニアの方とともに(似た嗜好同士、集まってくるのだそう)「みりんを呑む会」を定期的に開催しています。「富山在住ですが、みりんの会があるのであれば私のコレクションもってどこでもかけつけます!」とのことです。
もちろん、お酒を飲みます。