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逆転の発想でルバーブを食す


ルバーブとのつき合いは今から7年前にさかのぼる。

「裏にルバーブが植わっているから好きに持ってっていいよ」。

同僚の口から出たルバーブという言葉に心が躍った。正確にいうとドイツ語だったのでルバーブでなくラバーバ。(ラはのどの奥から発音するラ)コミックのバーバパパの仲間のような響き。


ルバーブ、というよりルバーブパイは憧れの食べ物だった。小学生の時に何度も読んだ「大草原の小さな家」。お母さんが作るムクドリのパイとルバーブパイというのが美味しそうで、それが何かは知らないまま勝手に想像して一生に一度は食べてみたいものだと思っていた。


ムクドリパイはいつの間にか食べてみたいものリストから抹消された。正直に言えばルバーブパイも忘れていた。それが「ルバーブあるよ」という一言であこがれがパッとよみがえった。どうせならルバーブパイをもらえたら手間が省けてより有難いのだが、加工前の姿でもいい。もしそのまま食べられるならそれもうれしやと思っていそいそと収穫に向かった。

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一目見た瞬間に思った。

「これがどうやったらパイになりまんねん」。

巨大な葉っぱが広がっていて、茎は赤みを帯びたフキのよう。子供心に描いていたのはリンゴみたいなブドウみたいなキラキラした甘い果物だったのに。アララ・・・期待したのにフキかよ、とちょっとがっかり。(ルバーブはタデ科ダイオウ属、フキはキク科フキ属なので全くの別物です。下の

写真はルバーブの花)

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「根元から切って、(有毒だから)葉っぱは切り落としてコンポストに捨てといて。ジャムにするなら7本くらいいるよ。太いの持ってきな」と言われ、カットした茎の束を手に家路についた。


さてさて、とりあえずかじってみよう。レモンとは違う酸っぱさにクラっとくる。スキッと爽やかでなく口がきゅっとつぼんてしまうようなザラッとした酸っぱさ。調べたところではルバーブの酸味はシュウ酸で食べ過ぎると健康によろしくない(茹でると減る)とのこと。とにもかくにもそのままでは食べられないことを確認して教えられたようにジャムを作ることにした。


ブルーベリーやらイチゴやらでジャムを作ってみていつも思うのだがジャムづくりには砂糖がかなり入る。ルバーブもそれは避けられず、しかもそのものの甘みがほとんどないので砂糖を控えるということができない。結局大量の砂糖を入れて煮崩れるのを待ち、ものの10分ほどでジャムが出来上がった。野趣のある味は他のジャムでは味わえない魅力かもしれない。

(写真はイチゴとルバーブのソース。アイスにかけて食べる)

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とはいえ砂糖の多さにはさすがにおそれをなす。この上バターたっぷりのパイは健康によくなかろうとルバーブパイづくりは断念し、それからはシーズンが来るとジャムを作るのが毎年の恒例行事となった。


そしてコロナがやってきた。

ウィルスが大威張りで闊歩しようと私の生活はさほど変わらなかった。が、長引くロックダウンで旅もままならず、食への関心がこれまで以上に高まった。そこでふと思ったのだ、

「このままルバーブと甘い付き合いだけでいいのだろうか」と。


こう思い至ったのには母の言葉という伏線がある。母が以前、ドイツに長期滞在しているときに私が持って帰るルバーブを見て「これ野菜なんでしょ、甘くない食べ方ってないの?」と何度も聞いていたのだ。


その時に私はいつも「ないよ。ドイツ人に聞いたけど、みんなケーキとかジャムとかデザートに使うってよ。そのまま茹でても酸っぱいんだからしょうゆとかで煮たらとんでもない味になるんじゃない?」ととりあわなかった。(今思い返せば自分の頭は固すぎだ・・・)

でもコロナと少しできた余裕の時間が私を変えた。ルバーブだって発想を転換をして味わってみなきゃいけないんじゃないという思いが心の中でふつふつと湧いてきた。

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まず会う人ごとに聞いて回った。でも「甘くない食べ方?知らないねえ」と一様の答え。「ほら、イチゴとルバーブのジャムに勝るものはないわよ」と親切にお手製の一瓶までくれる人もいた。


次の手はインターネット。やはりケーキ、コンポートなどなど甘さのきいたもののオンパレード。「ルバーブ、甘くない、レシピ」のキーワードに変えると何品か出てきたものの、少しだけど結局砂糖を加えて甘酸っぱいソースやチャツネにするというのが主なパターンだった。本屋さんで見つけた「ルバーブ」の料理本をめくってもやはり同じ。

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ならばダメもとでと最後の手段、日本語で「ルバーブ、レシピ」と入れて検索することにした。ダメもとというのはそもそもルバーブはシベリヤ、モンゴルといった寒冷地の植物。日本では長野県、北海道などで生産されるくらいで限られている。こちらのスーパーで茎の束が300円くらいで売られているのとは違って日本では馴染みの薄い野菜だから当然検索しても出てくるはずがないと想定していたのだ。


ところが!「ルバーブで作る簡単練り梅が海外在住者で話題」と出てきた。海外在住者でこんなものが流行っているとは知らなかったぞー。

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酸味を甘さで和らげるのではなく塩を加えてすっぱしょっぱく梅干しの味に近づけるという作戦。材料はルバーブと塩だけというレシピを見て脱帽した。実際に水と塩とルバーブを入れて簡単に煮て、試食してからまた感動した。まさに練り梅の味。


誰が考えついたのか分からないけど、この発想は味の引き出しの多い日本人ならでは。ルバーブは甘くして食べるものという固定観念に縛られず柔らかな頭で食材を扱える人がいるんだなと本当にうらやましくなった。


こうなったら感動のお裾分けだ、とルバーブ製の「なんちゃって練り梅」を同僚のドイツ人Bさんに食べてもらうことにした。そのままだとやはり食べにくいかもということで鶏肉に塗って、のりも一緒に巻いて焼いた私の渾身の一品。暑い日が続くようになったドイツの夏にも合うさっぱりとした料理としてドイツで浸透するかも、と妄想してしまった。

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「さあ、どうぞ」。日本人の知恵を見よ、とばかりに私はもちろんドヤ顔。

なのに返ってきたのは「美味しい肉だね」と一言。そこかい、とつっこみを入れつつ、味わうべきはルバーブだってばと抗議したら「あんまり味しないね」と素っ気ない。

ああっ、どうして・・・、舌を鍛え直しておいで!。ドイツ食文化に革命をという私の野望はかくしてこっぱみじんに砕かれた。


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