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アマリリス3姉妹のお話
大きな柳の木と幼稚園が窓から見えるミュンヘンのアパートにはいろんな植物がにぎやかに暮らしています。今日はその中のアマリリス3姉妹のことをお話ししましょう。
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3姉妹はアマリリス属が分かれて新たにできたヒッペアストルム(Hippeastrum)に属する園芸種です。ドイツでは「騎士の星」(Ritterstern)という名もついていますが、アマリリスという名前が定着していることもあって、ここの家のお母さんが「あんたたちはアマリリス3姉妹」と名付けました。
姉妹といっても血縁関係は全くありません。違う時期に違う形でそれぞれもらわれてきました。が、これまたお母さんが「阿佐ヶ谷姉妹だって血はつながっていないんだからいいのよ」といって姉妹関係に。さらには寅さんに出て来る浅岡ルリ子扮するマドンナ、リリ一さんにひっかけて3姉妹をリリィちゃんと呼ぶようになったのです。「なんとなく濃い感じがかぶるんだわ」とお母さん。
見かけはバラバラです。長女のリリィちゃんはすらっとした色白タイプ。次女のリリィちゃんは背が低めで白にピンクの縁がほんのり入っています。3女のリリィちゃんといえば情熱的な真っ赤な花が印象的です。
気質だって生真面目な長女、マイペースな次女、気の強い3女と違います。だって生き物ですから個性があるのは当たり前。
じゃ、順番に紹介していきましょうか。
長女のリリィちゃんがやってきたのは2020年12月のこと。
お母さんの職場で開かれるはずのクリスマス会がコロナで中止になって、代わりにプレゼントが渡されました。紙袋には球根のりりぃちゃんとワインボトル1本、みかん2個、サンタクロース形のチョコレート、そしてトイレットペーパーが1巻き入っていました。これはコロナで春先にドイツのスーパーからトイレットペーパーが消えた出来事があってのことです。
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ことあるごとに、りりぃちゃんはおかあさんから「トイレットペーパーと一緒にやってきたんだよ。白つながりだね」と意地悪な言葉を浴びせられて、そのたびに身を縮めながら耐えています。
それでも健気に毎年、白い花を咲かせる長女りりぃちゃん。次女りりぃちゃんは呆れたように言うのです。「ちょっと、あんた1回休んじゃえば?なんか顔色悪いしやせ細ってきたわよ」って。
でも長女りりぃちゃんは「あたしの取り柄はちゃあんと毎年毎年咲かせてきたってことだけ・・。咲かなかったらお母さんからどんな仕打ちを受けるか分からないから」と小声で答えるのです。
「あらそう、そんな人?アタシは大丈夫だったけどお。去年お休みした時もお母さんは、環境が変わったからかも、って大目に見てくれたわよ。おかげでほら、ふっくらしてきたんだから」と話す次女りりぃちゃんは2年前、エッセンで開かれたガーデニングのメッセがきっかけでやってきました。
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このメッセで次女リリィちゃんはオランダの球根メーカーの展示場所で”土も水もいらないアマリリス”としてほかの子たちと一緒に並べられていました。水分が失われないよう球根部分がロウで覆われていてそのまま室内に飾っておくだけで花が咲く特殊な仕掛けです。
お母さんはその当時、ある日本の女優さんのインスタグラムから、土も水もいらないアマリリスの存在を知っていました。ので、オランダ人のおじさんに下手くそな英語で「この球根、日本でと一っても人気あるんですよ」としつこく力説しまくったところ、おじさんがじゃあ一個あげるよと言ってくれたのが次女リリィちゃんだったんです。お母さんはホイホイ大喜びでした。
でもロウの上に白いふわふわの布がかぶされ、さらには立てておけるような金属製のスタンドもついていて「パンツみたいなものをはかされるなんて、植物としてはどうよ」と暴言を吐いたのもこれまたお母さん。そんな言葉に負けてたまるか、とばかりに次女リリィちゃんはその年きれいな花を咲かせました。
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次女リリィちゃんが必死にアピールしたのが効を奏したのでしょう。普通ならば水も土もいらないアマリリスは咲き終わった時点で捨てられる運命にあります。(切り花のような扱いだから)
でも、お母さんは「どうして使い捨てしなきゃいけないのよ。何度でも楽しめることを証明してやる!」とぶんぶん怒って、3月にリリィちゃんを鉢に植えてやったのでした。
ただし、翌冬に花を咲かせることはありませんでした。次女リリィちゃん曰く「アタシ疲れてたし、土まみれで気分がのらなかった」のだそう。
アマリリスは寂しい冬場にゴージャスな花を咲かせてくれる割には手間があまりかからない植物です。花が咲き終わるとウサギの耳のようなダラリとした葉っぱが出てきて、夏越しします。水はけのよい用土、あとは適度な水と肥料。そして葉が枯れ始めたら水やりをやめて、花芽が外に出てくるのを待つ、というのが大体の流れです。
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葉が一枚ずつ残っている
ただしその置き場には要注意。末っ子のリリィちゃんは昨夏、お母さんの不注意でとんだ目にあったのですから。
リリィちゃんは一昨年の12月末、お母さんの元上司が定年退職後、パートで働くガーデニングセンターで売れ残っていたところをお母さんに引き取られました。
春がすぎ、そして夏休みに家を長期間あけることになったお母さんはリリィちゃんたちを職場にある温室の中に置いて同僚の人に水やりを頼んだのです。夏場なので温室とはいえ暖房はきいてないし、温室のドアは外に開かれているし、大丈夫でしょ、とお母さんはふんだようなのです。がそれはとんだ間違いで直射日光がばりばりにあたる場所だったのです。
それまで涼しい日陰にいたリリィちゃんたちは葉っぱが日焼けしてボロボロに。同僚の人が気づいて場所を移動してくれたからよかったものの、特にひどかったのが末っ子リリィちゃんでした。葉がやられてSOSを発信するためだったのか、本当なら冬に予定されていた開花をぐんと早めて花まで咲かせてしまっていました。
帰ってきたお母さんは「ドエリャ一悪いことしちゃったよ。ごめん、ごめん」と急いで連れ帰ってくれたのですが、もう取り返しはつきません。末っ子リリィちゃんはお母さんに、この冬はもう咲けない、咲くもんですかと長女リリィちゃんが卒倒しそうな剣幕で宣言しました。
お母さんも自分のせいだと分かっていますから大目にみていますが、「咲かないんだったら日当たりの悪い奥の場所で十分ね」と言って3女のリリィちゃんを冬場のベストポジション、窓際から下げちゃいました。咲かないなら、と写真もとらないそうです。
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可愛いアマリリス3姉妹の魅力を伝えるお話なのに何やらお母さんの意地悪さばかりが滲んでしまいましたが、気にしないでください。
そして皆さんも機会があったらリリィちゃんたちの仲間をお迎えしてみてください。よろしく。
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