私の私の彼は～

　私は子どもの頃からずっと左利きである。

　世の中のあらゆるものは右手を基準に作られている。

　たとえばハサミやカッターの様な道具は左手だとまっすぐ切るのが非常に難しい。

　文房具でもこれだけ苦戦するが食事でも隣の右利きの人と肘がぶつかるという弊害がある。

　なので人と並んでご飯を食べる時はなるべく脇を占めてキュッとコンパクトに腕を折りたたむようにしている。

　まだまだ他にも不便はあれこれあって駅の自動化札を通る時にはいちいち手を伸ばさなければならない。

　後は車の運転でも最近はあまり乗る機会はないがミッションの車に乗る時にギアチェンジが非常にしづらい。

　このようにザッと上げただけでもこれだけの不便が日常生活に潜んでいる。

　何でも日本人の中で左利きというのは十パーセント程度しかおらずかなりのマイノリティである。

　私が子どもの頃はなぜか左利きは恥ずかしい事だと言われており、右利きになるように矯正されたものだ。

　父が左利きを嫌っていたのでそれはもう厳しい訓練が日々行われていた。
　
　箸を持つのはもちろん右手でなくてはならず里芋とかの滑りやすい食材がうまく掴めずもたもたしていると、こうやるんだと箸の持ち方から直された。

　文房具も今では左利き用のものがあれこれ出ているが昔はそんなものはなかったので新聞紙を使ってハサミでまっすぐ紙を切る特訓をやらされた。

　私は生来のぶきっちょなのでちっとも上達せずに父と過ごす左利き克服タイムが大嫌いだった。
　
　左利き憎しの風潮は学校でもあり授業中に左手で鉛筆を握っていると、ちゃんと右手で書きなさいと幾度も言われた。

　特に習字の先生は右手至上主義で左手で字を書くと激怒されたものである。

　私はもともとがひどい悪筆でただでさえ字が汚いのに右手だともう絶望的な文字しか書けなかった。

　なので習字のある日は仮病で休んだこともあるくらい苦痛だった。

　そんな迫害の歴史だったが小学校六年生の時の担任は自由主義で左利きも大切な個性なので気にしないでいいんだぞと言ってくれた。

　これまで大人はみんな左利きを憎んでいるものだと思っていたのでこの先生との出会いは私にとって僥倖だった。

　海外赴任の長かった先生だったので物事の見方が非常にグローバルでこれまで見てきた高圧的な威張りちらす先生とはまるで違っていた。

　私はこの先生に懐いてとてもかわいがってもらった。

　それ以降左利きを治そうという気持ちが無くなった。

　なので今でも立派な左利きだと自信をもって言い切ることが出来る。

　小さい頃に型にはめようとせずに自由にやらせてくれたのは今でも感謝している。

　それにしても役所とかで書類を描いている時に左利きなんですか？と必ず聞かれるのはいったい何なのだろう。

　ま、パソコンで文字を打っていれば利き腕がどっちとかが分からないので便利な時代になった。

　あ、でもスマートフォンは左利きだと微妙に操作はしづらい。

　まだまだ世の中は左利きに寛容ではないみたいだ。

　そんな事を考えながら昨日の晩御飯を。

　昨日は近所のスーパーのお肉の特売日だった。

　なのでいそいそと出かけたら精肉コーナーは大盛況った。

　その人込みを縫うように手伸ばして黄色いシールが貼られていたステーキ肉を一枚ゲットした。

　後は値段の安めの野菜などを買って帰宅

　お肉は常温に戻しておきたいので冷蔵庫に入れない。

　レタスを千切って玉ねぎをスライスして水に晒す。

　彩にパプリカを薄く切る。

　お次は副菜づくり。

　大根を太めのいちょう切り。

　にんじんは薄切り。

　こんにゃくは茹でて手でちぎっておく。

　木綿豆腐をレンジで水切りをして手で崩しておく。

　鍋に水を張って昆布を入れる。

　沸騰したら取り出して刻んだ具材を全部入れる。
　
　煮汁の量は材料が浸るか浸らないかくらいの量。
　
　味付けは醤油、砂糖、酒、みりんとごくシンプル。

　野菜が煮えたら何度か鍋を振る。

　後は味が染みるように冷ましたら郷土料理のけんちょうの出来上がり。

　汁物は野菜の皮を使ったみそ汁をパパッと作った。

　ではメインを仕上げていく。

　大きめのお皿にレタス、玉ねぎ、パプリカを綺麗に並べる。

　お肉は筋切りをして塩コショウをしてミディアムレアに仕上げる。
　
　それを一口サイズ五切り分けてサラダの上に乗っけたらステーキサラダの出来上がり。

　このレシピは私の愛読書きのう何食べた？でシロさんが作っていたものを真似した。

　はーい、出来たよと妻を呼ぶ。

　うゎい、お肉だとテンションが上がっているのが分かる。

　昨日も鉄壁の意志で休肝日を死守。

　お茶で乾杯してぬか漬けから食べる。

　大根を漬けてみたのだが丁度いい浸かり具合だった。

　おつぎはけんちょう。

　母が作っているのを見て盗んだ料理なので正しい作り方なのかどうかはわからないが私の作る煮物の味になっていた。

　あ、そういえば実家では干しエビも入れていたなと思いだしたので次は試してみたい。

　ではメインステーキサラダを食べる

　味付けはシンプルにレモンドレッシング。

　野菜でお肉を包んで食べるとジューシーで食べ応えは抜群である。

　一人前二百五十グラムのそんなに大きくないお肉だがこうやって食べるとご馳走感と満足感があってコスパも良いなと思った。

　何より妻がモシャモシャと沢山食べてくれていたので嬉しくなった。

　妻の転職祝いなのでゆっくりとご飯を食べてご馳走様。

　洗い物をしていたら食洗器も右利き仕様だなと気が付いた。

　そういえば左利きの事をウチの方言ではぎっちょと呼びます。
　　
　あれ、これって人前で言っていい言葉でしたっけ？

　皆さんの地域では独特な呼び方はありますか？