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すきすき、おかあさん。

 今日は母の誕生日である。
 
 昭和二十五年生まれなので七十三歳になる。

 若い若いと思っていた両親がとっくに高齢者になっていることに軽く衝撃を覚える。

 最近の七十代というのはまだ活動的でほぼ毎日車に乗って出かけている。

 そんなアクティブな母だが数年前に精神のバランスを大きく崩した事がある。

 その時は食欲もなく夜は眠れないという状態で見る見るうちに痩せていった。
 
 もう駄目、お母さんは生きていられないと弱音ばかりこぼしていたのを思い出す。

 その時は兄が母を病院に連れて行って薬を処方してもらった。

 精神の安定にはよく言われているが朝日を浴びる事と軽い運動をする事と薬をちゃんと飲むことなのだそうだ。

 根がまじめな母はその通りに生活のリズムを整えていった。
 
 すると徐々にではあるが調子が上向いてきて半年後にはずいぶん良くなった。
 
 今では薬も飲んでおらず元の快活で明るい母が戻ってきた。

 あの時はしんどかったと今では懐かしそうに振り返っている。

 そんな母の趣味は何と言っても料理であり一日中台所に立っている。

 朝から晩御飯用に煮物を炊いたり、あく抜きや煮込み料理の面倒を見たりとやることはいくらでもあるらしい。

 私は高校時代に母に料理の手ほどきを受けたので師匠にあたる。

 それこそ包丁の持ち方や野菜の切り方と言った初歩の初歩から実家でよく出ていた煮魚やけんちょう等の和食を習った。

 母は小学生の頃から家族のご飯を作っていたそうなのでキャリアは半世紀以上である。

 祖父がまだ生きていた頃はご飯とは別にお酒のつまみを一品か二品必ず作っていた。

 今の時期だとアサリと分葱のぬたやキュウリの一本漬けなどいかにもお酒に合いそうなものをよく出していた。

 私はこの大人限定メニューに憧れておりよく祖父にちょっとちょうだいとねだったものである。

 他に思い出深いメニューは天ぷらだ。

 台所で一品揚げるたびに大急ぎで居間でご飯を食べている私たちの所に届けるのである。

 一回の食事中にふうふう言いながら何往復もする母を見て何もそこまでと少し思ったが揚げたての天ぷらのサクッとした歯ごたえは格別だった。

 そんな母の手料理を堪能していたシアワセな子供時代だったと思う。

 実家に一番家族が多かった時には七人いたが、今では両親と兄の三人暮らしである。

 兄は仕事が不規則なのであまり一緒にご飯を食べる機会が無いそうでもっぱら夫婦で食卓を囲むらしい。

 まだ料理力が有り余っている母はそれが物足りないらしい。

 なのでたまに私たちが実家にご飯を食べに行くと過剰におかずが出てくる。

 こちらもアラフォーなので高校時代のようにモリモリとは食べられない。

 お腹いっぱいまで食べても大量に余ってお持ち帰りに包んでもらうことになる。

 まあ一食助かるのでありがたい事には変わりがない。

 母は自分が健康の秘訣は毎日台所に立つからで、これが出来なくなったらもうお婆ちゃんねと言う。

 そんな母に贈る今年のプレゼントはあれこれ悩んだがエプロンにした。

 これを着けていつまでもお元気でと言うつもりだ。

 喜んでくれたらいいなと思いつつ昨日の晩御飯のお話を少し。

 昨日は久しぶりに買い物に出かけた。

 魚が充実しているスーパーでカレイの切り身を買った。
 
 それからお酒と野菜を少々。

 セルフレジで精算して帰宅。

 まずはお米を研いで炊飯のスイッチをポン。

 それから汁物を先に拵える。

 お湯を沸かして鶏がらスープとしょうがを加える。

 具は大根の角切り。

 煮えたら仕上げに醤油を少しだけチラリ。

 次はジャガイモを調理する。

 ラップで巻いてレンジでチン。

 アツアツのうちに皮を剥いてグニグニと潰す。

 玉ねぎのみじん切りを加えて塩コショウ、マヨネーズ、中濃ソースで味をつける。

 これでソース味のポテサラの出来上がり。

 後はメインのカレイ。
 
 軽く塩をして放置しておく。
 
 臭みが抜けたら洗ってキッチンペーパーでよく拭く。

 塩コショウをして小麦粉、卵、パン粉の順番で衣をつける。

 後は油を少し多め入れたフライパンで揚げ焼きにしていく。

 しっかり火を通してカラリとなったら完成。

 付け合わせはキャベツの千切り。

 ご飯できたよ~と妻を呼ぶ。

 おっ、珍しい魚だぁと妻が嬉しそうに言う。

 まあたまにはねと言いながらお酒の用意。

 昨日のお酒はチューハイ。

 もちろん氷ギチギチ。

 乾杯してギュィッと飲むと炭酸の刺激と芋焼酎の甘い香りが合わさって心地いい味である。

 うんうん、焼酎もいいですねぇと思いながらポテトサラダをつまむ。

 隠し味のソースがほんのり漂って味に深みを出している。
 
 これはアリだなと思ってモグモグ。

 合い間に大根スープを飲んで一息入れる。

 二杯目のチューハイを作ってグビビ。

 ではカレイを食べる。

 衣がカリカリでカレイはほんわり優しい白身の味だった。

 軽くレモンを絞って食べると味が締まってより一層素敵な味になった。

 妻もウマウマと言ってご機嫌に食べていた。
 
 二人で一緒に食べて満腹でご馳走様。

 お酒はチューハイを三杯と通常運転。

 あまり魚を食べないのでこれからは少し増やそうかな

 魚と言えば母の作るアジフライが食べたいなと思った。

 控えめに言ってかなり美味いので秘伝が何かあるはずである。

 母の料理にはまだまだ全然かなわない。

 また今度習いに行きますね。

 おかあさん、だ~いすき。

 

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