再会は笑顔と涙。
昨日は朝の七時半に家を出て合病院に入ってきた。
私の体調はいたって健康で自分の診察ではない。
では何が目的かというと祖母に会うためである。
祖母は高齢者向け住宅に入居している。
月に一度健康診断で病院にかかっており昨日がその日だった。
病院に着いて先に来ていた両親と叔父に連絡を取って合流した。
それから祖母が診察を受ける待合室まで行った。
少しドキドキしながら角を曲がると車いすに座った老人の後ろ姿があった。
見るからに痩せておりかなり小柄になっていたが不思議にすぐに祖母だと分かった。
正面に回り込んでお久しぶり、婆ちゃん元気?と声をかけるとしかめっ面だった顔がパッと明るく輝いてまぁまぁ、よう来たねぇと言って手を握ってきた。
握る力はギュウッと力強かったので何だか少し安心した。
それから祖母は会えて嬉しいわぁと言って涙ぐみながら私に手を合わせて拝んできた。
私もつられて涙腺が緩みそうになったのでよしなよ、婆ちゃんと言うと、あんたがまるで仏様に見えると何だか嬉しいような事を言われた。
それから以前プレゼントした大人のぬりえの完成品を見せてくれた。
丁寧に塗られておりとても九十四歳の手慰みには思えなかった。
へぇ、すごいじゃんと素直に感想を言うとまた新しく塗ったら見せるからねととても嬉しそうだった。
それから祖母が自分の話したいことをたくさん話し始めたのでひたすら聞き役に徹した。
診察時間は予約を取っているのだが、なかなか名前を呼ばれなかった。
私は祖母の写真を撮ったり他愛もない二人だけの思い出話をしたりしていたので時間はあまり気にならなかった。
大幅に予約の時間を押して診察の順番が来たので祖母は叔父と母と一緒に診察室に入っていった。
父に待ちくたびれたでしょ?と聞くと、年寄りの病院は時間がかかるもんだと言って平然としていたのでへぇ達観しているなぁと思った。
診察はものの十分くらいで終わった。
それから外の空気を吸いたいという祖母と一緒に病院の玄関から表庭に移動した。
車いすは私が押していったがその時に祖母が今はお金を持っていないからあんたに小遣いがあげられん、すまんねぇと言うのでバカな事言いなさんな、そんな事は気にしないでいいからと返した。
祖母にしてみれば私はいつまでも幼い孫のままなんだなと思うと心の中がポッと温かくなる気がした。
叔父の車に祖母を乗せて施設まで一緒に送り届けてお見舞いはおしまい。
来月も診察があるそうなので祖母に会って来ようと思う。
入居している施設は面会制限があるのでなかなか会うタイミングないので病院で出会う方が時間にも余裕があるので都合がいい。
後は祖母が元気でいてくれる事を願うばかりである。
お昼ご飯を簡単に済ませて晩御飯は実家にお呼ばれ。
昨日の献立は豚しゃぶ。
私の中の副菜の鬼の血が騒いだので冷蔵庫にある食材を使わせてもらうことにした。
冷凍庫にエビと厚揚げがあったのでこれで一品。
エビを解凍して片栗粉で揉んで臭みを取る。
卵白と塩、うま味調味料で下味をつけておく。
厚揚げは一口サイズに切っておく。
合わせる野菜は小松菜があったのでこれを使う。
ニンニクとショウガをみじん切りに。
味付けはケチャップ、醤油、酒、鶏がらスープの素、オイスターソース。
フライパンにごま油をしいてニンニクとショウガを入れて火を点ける。
パチパチ鳴って香りが出たら火加減を最強にしてエビを入れる。
赤く色づいてきたら厚揚げを投入。
全体がこんがりしたら小松菜を入れてざっと炒める。
そこにすかさず合わせ調味料を。
クツクツと軽く火を通したら水溶き片栗粉でとろみをつけたら完成。
完全オリジナルの料理なので「名もなき炒め物」とでも呼びたい。
もう一品は鶏ハツの煮物。
母が買ってきていたものを使わせていただく。
ハツを真ん中で切って水洗いして血合いを丁寧に洗い流す。
後は水に十五分漬けておく。
ここは牛乳でしょうと思う人もいるだろうが、水でも牛乳でもあまり違いはないそうである。
だったらコストカットのために私は水に漬ける方を選ぶ。
その間にショウガを刻んでおく。
鍋に醤油、めんつゆ、砂糖、酒、みりん、水で煮汁を作る。
沸騰したらショウガを入れる。
ハツをいったん湯通しして臭みを取ったら鍋に入れて煮込む。
最初は強火でしばらくしたら弱火でコトコト。
三十分くらい煮たら火を止めて冷ませば鶏ハツの煮物の出来上がり。
ようし、これで三品になったぞと満足して晩御飯の始まり。
父の音頭で今日はお疲れさまでしたと言いながら乾杯。
弟もお休みだったので家族四人でワイワイと食べた。
鍋はやはり大きな土鍋で人数がいたほうが具もたくさん入れられるし賑やかで良いなと思った。
名もなき炒め物は弟に大好評だった。
ちょっと濃い味だったがエビがプリンとしており、厚揚げもホクホクで小松菜もシャクシャクしていて中華風の味付けが合っていた。
とてもビールの進む味だったのでゴブゴブ飲んでしまった。
鶏ハツの煮物は実家でも定番の味でこれは母直伝なので間違いがない。
父の好物でよく食べてくれたのが嬉しかった。
母は人が作ってくれた料理を食べるのが好きなのでご機嫌だった。
最後に鍋の締めまで辿り着かなかったのは家族の高齢化を感じさせた。
帰り道は母に送ってもらった。
帰宅して妻に今日の出来事を話すと今度は私も行こうかなと言っていた。
ああ、私は優しい人に囲まれて生きているなと思って自分の幸せな境遇に心から感謝した。
お婆ちゃん、またお会いしましょう。
いつまでもお小遣いをねだる孫でいたいと思います、えへへ。
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