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海パン小僧参上!

 今日は海の日で祝日。

 私の住んでいる町の海水浴場は20日から海の家がオープンする。

 実に二年ぶりだそうでシャワーや休憩所、トイレなどが解放される。

 ここの海は私のお気に入りスポットの一つでちょっと時間があると何かにつけて訪れている。

 夏場はそれなりに混雑するが駐車場が広いので満車になる事は滅多にない。

 この海には思い出がたくさん詰まっており古くは小学生のころまでさかのぼる事ができる。

 夏休みに入ってすぐの朝から気温が三十度を超えるような猛烈に暑い日に友達と一緒に自転車で泳ぎに行ったものである。

 片道四十分はかかる結構な距離だったが海で遊ぶというでっかい楽しみの前にはなんて事はなかった。

 耳をつんざく蝉しぐれを背に汗だくになりながらヒィヒィとペダルを漕いで海に辿り着くと木陰に自転車を止めてその場で服を脱ぐ。

 もちろん下には海パンを履いているのは言うまでもない。

 準備体操もそこそこにバシャバシャと海に入ると少し生ぬるい海水が全身を包んだ。

 始めは波打ち際でプロレスごっこなんかをして遊んでいるのだがそのうちに沖のサメ除けネットが張られている場所まで泳ごうぜと誰かが言い出す。

 私はスイミングを習っていたので泳ぎには少々自信があった。
 
 おお良いぜと言って全員で沖まで泳ぎ始める。

 足がつかない位深いところまで泳ぐと海水の温度がはっきりと分かるくらい冷たくなってきてそれがまた心地よかった。

 平泳ぎでスイスイと目的地まで辿り着いてネットに捕まって一休みする。

 見るとかなり沖合まで泳いで来ており途中で挫折して引き返す子もいた。

 泳ぎの達者組の勝負はこれからでどれだけ早く砂浜に戻れるか競走したものである。

 もちろんクロールでがむしゃらに泳いだが途中で疲れると溺れそうになるので気持ちはかなり緊張していた。

 それでも誰も溺れなかったのでみんな負けず嫌いで必死だったのだろう。

 お昼には海の家で高くて具のほとんど入っていない焼きそばとラムネをみんなでお金を出し合って頼んでお腹を満たして一休みしてからは甲羅干しである。

 ギラリと照り付ける凶悪な太陽の光を全身で浴びて体中を真っ黒に焼くのがカッコいいとされていた時代だった。

 ロクに水分も取らずに寝っ転がっていたがよく熱中症にならなかったものだと思う。

 全身が太陽の熱で火照ってきたら再び海に入って身体を冷やしていた。

 それをひたすら繰り返して夕方まで遊び倒す。

 帰る時に本当はいけないのだがコインシャワーのブースに三人で入ってお金を浮かせていたのも懐かしい思い出である。

 朝から夕方まで全力で海と向き合っていたので帰る頃には全身がカッカと熱くてクッタリと疲れていた。

 帰り道の自転車のペダルをこぐ力があまり残っておらず時おりよろけながらノロノロと自宅に戻っていた。
 
 家に帰ると着ていた服と海パンの砂をよく落として洗濯機に放り込んでからウトウトと居眠りをする。

 そのうちに母からお風呂に入りなさいと言われるので恐る恐るお湯を被るとこれが沁みるなんてものじゃない。

 日焼けで全身が真っ赤でアチチ、イテテと言いながら湯船に浸かることができなかった。

 仕方がないのでカランの水で適当に体に水をかけてカラスの行水で済ませていた。
 
 海に行った日はお腹がペッコペコなのでいつもよりモリモリご飯を食べてお代わりもしたものである。

 そして日が沈んでから縁側でよぅく冷えたスイカをシャクシャクと食べるのが夏の一日の締めくくりだった。

 クラゲの湧いてくるお盆までの約一か月は黄金の日々が続いたものである。
 
 今はもう海に行っても泳ぐことはない。

 それでも夏が来ると海に足を運んでしまうのはやっぱり好きだからだろう。

 いつかの私の様に海パン一丁で友達と走り回っている子ども達を見かけるとおっ、変わんないなぁと懐かしい気持ちになる。

 海には人の心を高揚させる何かがあるような気がする。

 今年の夏休みは久しぶりに海辺でキャンプと洒落込もうかな。

 最も最近は気温が高すぎるのでテントで眠るのはあまり快適とはいかないかもしれないが。

 なぁに暑くなってきたら海に飛び込んじゃえばいいじゃないか。

 お腹周りの脂肪を浮き輪代わりにすれば溺れる事はまずないだろう。

 何だかそれもちょっぴり切ない。

 もうじき梅雨が明けて夏が来る。

 夏生まれなのでテンションが上がる。

 ギラリと輝く太陽を背に受けてすっくと立つ男一匹。

 目元にはレイバンのサングラス。

 真っ白なTシャツにチノパン。

 足元はビーチサンダル。

 どうですベタすぎて笑えてきますよね。

 イメージは若かりし頃の反町隆史。

 実際には山下清ですがね。

 ぼ、ぼくは海がす、好きなんだなぁ。

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