私と青春アミーゴ
先日友達と久しぶりに飲んだ。
相手は高校の同級生である。
そいつは女の子からモテることに全力を注ぐいけ好かないやつだった。
その頃の私はあまりそういったことに興味がなかったのでクラスの知り合いという関係だった。
高校時代はお互いに何となく知っているくらいの淡い関係で卒業したらもう会う事もないだろうと思っていた。
私は高校時代に自発的に勉強した時間は限りなくゼロに近かったで学力はその辺の中学生より低かった。
高校を出てすぐに働きたくなかった私はあれこれと理由をつけて予備校に通って一浪の末にそこそこの大学に進学した。
私立だったので学費は馬鹿みたいに高くてとんだ親泣かせだなと思いつつ希望に胸を膨らませて上京した。
そして迎えた大学の入学式でそいつと偶然の再会を果たした。
同郷の知り合いという事もあり私たちは一気に親しくなった。
深夜まで対戦格闘ゲームをしたり、覚えたてのギターをかき鳴らしながら線路の高架下で叫んでいるとホームレスのおいちゃんにうるせぇと言われて包丁を持って追いかけまわされたりというなかなかスリリングな思い出もある。
もちろんお酒も浴びるほど飲んだ。
そいつの好みはビールだったのだが貧乏学生には高級品なのでちょうど出たばかりの発泡酒ばかり飲んでいた。
私は銘柄も怪しい激安ウイスキーを常温の水道水で割る極めてガサツな水割りをガブガブ飲んでいた。
そんなダメダメな二人だったがある時バイト代が入ったので都心で飲んでみようという話になった。
ドキドキしながら街に足を踏み入れたらキャッチの勧誘のしつこさに辟易した。
お兄さん、二千円まけとくよとか今なら三千円で最後まで…となにやら怪しい勧誘もビシバシ受けた。
その押しの強さに疲れた私たちは適当なお店に入ることにした。
一階にあって薄暗くなくてオープンエアのスペースがあるお店を探しているとほどなくそのようなお店が見つかった。
田舎者丸出しで入ったお店だったがどうやらスペインバルだったらしくオシャレな外国のお兄さんがカウンターでニコニコ接客をしていた。
その当時大学でスペイン語を専攻していたのでそうと分かって少しリラックスしたのでメニューからセルベッサをオーダーして乾杯。
キュビビーッと飲み干してようやく一息ついた。
それからしばらくは二人でいつものように飲んでいたのだが、ふと視線に気が付いた。
斜め向かいのテーブルの女性二人組がチラチラとこちらを見ている。
ははぁ、これはこちらから声をかけるべきなのかなと思ったが何せ朴念仁な私は何と言っていいのかわからなかった。
そこで連れにおい、こっち見てる女の子がいるんだけどと言うと目の色が変わった。
それからすぐに席を立って彼女たちのテーブルに突撃していった。
二言三言言葉を交わした後で一緒に飲みませんかだってと鼻の下を伸ばして戻ってきた。
そうだ、こいつはそういうやつだったと思いだして変わらないなと思ったが普段女っ気のない生活をしている私としても願ってもない提案だった。
それから彼女たちのテーブルに移動して改めて乾杯した。
私はどうするこんな時は自己紹介からか?いやいや普段酒の席で一緒になったおっちゃんとかに名乗ることはないしとグルグルと頭がパニックになった。
しどろもどろになっていると連れが俺ケンちゃんと名乗った。
そこで私はウケ狙いでカトちゃんって呼んでと言うと見事に滑った。
それでも明るい子たちでそれとなくフォローしてくれた。
聞けば二人とも専門学校生だった。
私はほとんど黙っているか頷くかしかできずケンちゃんが喋りまくった。
二時間くらい飲んでお店を出る事にした。
皆ほろ酔いだったので勢いで二軒目はカラオケに行った。
そこで彼女たちに気に入ってもらおうと全く好きでもないJ-popを全力で歌った。
ああ、何で私はここまで魂を売っているのだろうと急に空しくなった。
なのでソルティドッグを立て続けに何杯も飲んで塩で口がヒリヒリしたのをよく覚えている。
あ、いけないそろそろ終電と彼女たちが言い出したので連絡先を交換したいなと思っているとケンちゃんがすでに聞き出していた。
こいつ抜け目がないなと思っていると何となく別れがたい雰囲気になったので急に心拍数が上がってきた。
こ、これは一晩のアレってやつかと思っているとケンちゃんが彼女のうちの一人と手を繋いでじゃあなと言ってホテル街に消えていった。
残された女の子と私の間にほんの少しそういった雰囲気が流れたがビビった私が駅まで送るよと言うと彼女はあからさまにガッカリした顔ではぁとため息をついた。
それからの事はしたたかに酔っていたのであまり覚えていないが駅で別れてから彼女の顔を見る事は二度となかった。
翌日ケンちゃんに会うとお前どうだった?とニヤニヤして聞かれた。
別に何にもねぇよと言うと、は?お前何にもしなかったのバッカでぇと思い切り罵られた。
知り合ってその日のうちにって言うのが嫌なんだよと言うと、お前一生童貞だわと言われた。
その当時ケンちゃんには彼女がいたのだが、この夜の事は二人だけの男の内緒話にすることにした。
そんなお間抜けな夜もあったがケンちゃんとはとにかくウマが合ったで色々な事を一緒にした。
今思い出してもアイツがいたから楽しかったんだなと言うエピソードがいくつもある。
この間はそんな懐かし話もしながら俺たちお互い歳取ったよなぁと白髪交じりの髪を撫でつけながらケンちゃんがしみじみ言っていたのが感慨深い。
今年で知り合って三十二年。
ここまでの付き合いでかわした杯は数知れず。
あいつと飲む酒はいつだって最高にンまい。