インのタマ(テングのおとの続き)
昔話に天狗から団扇を得たり隠れ蓑を得たりするというものがあるが、その筋立ての昔話で金の玉を天狗(大入道だったかもしれない)からもらっておしまい。というものがあった。どこでみたかは思い出せない。
いきなり、キンのタマかよ、とお思いになられる方もおられることだろうが、カネのタマかもしれない。たとえ金玉であったとしても、そもそも、天狗から貰えるものは隠れ蓑だが手違いで燃やされてしまいその灰を体に塗ると隠れ蓑と同じく人から視認されなくなりはするがお茶がかかったとか小便をしたせいでポコチンだけが露わになりばれるというものだ。
団扇の場合は鼻が伸びる。伸びるのだ。
余談になるかもしれないが、(なにせ行き当たりばったりで書いているのだ)この男性器がポロンとあるイメージは平川南著『日本の原像』にある 「道饗祭(中略)に掲示するために、括り部分に紐をかけ、陽物形の先端を下方に向けてつり下げたと想定できる」とある陽物形の残像かもしれない。この陽物形はその形状より想像されるかもしれない生命誕生といった印象よりも邪なるものを塞ぐ魔除けの意味合いが強いようである。これの類似物は中国、韓国の遺跡からも見つかる。
で、金の玉だが、幸若舞『未来記』(『テングのおと』でサキがどうのこうと書いていながら天狗の未来視・先読みについて書き忘れていた)において鞍馬の天狗が義経に最後に渡すのものは鉄の玉である。ただの玉であるなら歳神がもたらす年玉のような魂、生命の表象であろうと思うのが金属の玉となるとなんなのかわからない。安易に玉鋼など持ち出すのは如何に素人といえ雑すぎる。
金属ではないが船の神を船霊と『分類漁村語彙』にあり、また、その船霊を入れる儀式をゴシンヲイレルとある。
『郷土研究叢書 第1輯 (広島県方言の研究)』にゴインゲサン・ゴインサンを和尚さんの意であると収録されている。また、グインサンを天狗様ともある。天狗の別名に狗賓があることは言うまでもない(はず)。
ゴシン、ゴイン、グイン、グヒン(織豊期くらいまでならグフィン?)は音便で元は同じ語であったということは大いに疑えるが、また、そうであったと仮定しても良いのだが、それを証する能力が筆者にはない。のでとにかくg◻︎(◻︎)i n(mか?)でとりあえずインが共通しているが、認知バイアスに過ぎない可能性が非常に高い気がするけれども、ぐっと飲み込んで、インでタマなものを探してみると、忌部の祖神は布刀玉とある。
『日本神話事典』によれば布刀玉は「天石屋戸神話において、(中略)真賢木の枝に玉、鏡、木綿、麻をつけた御幣を用意する。」とあって。『コトバンク・忌部』には「斎部広成の「古語拾遺」によると,彼らは天皇のため正殿をたて,鏡・玉・矛・盾・木綿(ゆう)・麻布・竿(ほこざお)を貢し,大嘗祭(だいじょうさい)に奉仕した。」とある。
と言うわけで布刀玉、忌部は祭祀の器物に関わるのであろう。
ついでに言えば船霊はいれなくてはならず、それ無くして船を船として用いることに違和感を覚えるのは割と日本人的な感覚として納得できないだろうか、(読者を日本人だとしているのはいかに筆者の古臭いセンスの持ち主かということを露呈しているのであるが、そもそも日本人だろうが日本語話者であろうと誰にも読まれない…)というわけで祭祀の器物となれば古代(たぶん、古代だろう)において入念にタマ(魂、霊)を入れなくてはならず、また、忌部の者はその能力のあるものであったと考えるのは検証を必要とするが、無論、そんな能力は筆者に無い。
尚も言えば分類漁村語彙には船に牛を乗せるのは船霊の嫌うところで牛を乗せたならば船霊(文中にはオタマシヒ)を新たに入れ替えるとある。タマは入れ替えたりできるのである。歳神が年毎にタマを入れにくるのは年玉というだけに一年ほどしかタマは保たないためかもしれない。
というわけで、タマは入れなければない。ということは、タマをどこかから持って、もしくはつれてこなければならない。タマを導きいれるもの。言葉を変えれば先導してくるのでこれもミサキであると思う。
思いつくまま書き散らした文章だが、忌部について調べたのは日本神話事典とコトバンクだけだったのはイイカゲンすぎると思いJ-STAGEで『忌部』と検索してトップにできた『大殿祭にみる忌部の祭儀実践 : 木鎮め祭儀と屋船命』著者北條 勝貴を読んでみたら、なんか結構あってない?あたし、スゴくない?と思っだが、基本的になことを全く調べないで書くんじゃないと反省した上で、少し引用させてもらう。
「忌部氏主宰の大木祭を経て、「山材」が「心御柱」になることを(中略)伊勢神宮や大嘗宮といった神聖な建築物の象徴となる柱には、例えば優れた造船材・造仏材として巨樹や霹靂樹が重視されたように、一定の宗教性を持つ樹木が求められたはずである。しかし、それらは木材化に激しく抵抗するため、危険を回避して鎮め和する祭儀が必要となる。それこそが忌部氏固有の宗教的実践…」「祭儀を通じて、忌部氏が樹霊を殿舎の守護神に昇華させたもの…」
また祭料の表に『金人形』『鉄人形』なども金のタマ、鉄のタマと関係しているのではないかと思わせるものがある。また、忌部氏の手によって木材として伐採されたようで、のちに『分類山村語彙・サキヤマ』によれば「現在は山で働く伐木造材の人夫を総称する語の如くようになっているが、(中略)乃ちサキヤマが先達・先行者を指すことは自ら明らかで、…」とある。これもミサキの一つではないだろうか。
というわけで、テングとはミサキで忌部その他諸々のサキという共通の性質によって混ざりながら妖怪化したものだったのではないだろうか。ということを言ってみたかったわけです。以上。