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残り香すら。


ただただ大好きだった。
今でも大好きなひと。

わたしの祖父よりも一回り下くらいのひとだった。
たくさんのことを教えてくれた。
まだ幼かったわたしに学ぶことの楽しさを教えてくれた。たくさんのニュースをわかりやすくお話してくれた。
本が大好きなわたしに、自分が好きな本、興味がある本を読めばいいと言ってくれた。興味がある本を読んでいったら、知識が深まるかもしれないし、興味の幅が広がるかもしれない。なんの役にも立たないかもしれないけど、役に立つことだけがすべてじゃないって教えてくれた。

数え切れないほどたくさんのことを教えてくれた。
でも、もういない。
いなくなってから6年経つ。私はあの冬の日に執着している。いつまでも、立ち止まってしまっている。

すごく長い時間一緒にいたわけではなかった。
でも、幼い私はその人のことが大好きで尊敬してて、いつも独り占めしていたかったし、そんな私の感情を分かっていたのかいつもたくさんお話してくれた。
最後の電話を思い出す。なんて言ってたかあまり思い出せない。たくさん会話したはずなのに、なにを話していたか思い出せない。
今では顔もはっきりと思い出せない。

 

人間は、声から忘れていって匂いを最後まで覚えてるって言うけど、匂いを憶えて置けるほどの距離感や関係ではなかったし、今では顔も思い出せないからどうしようもない。存在だけが強く残っていて、見つめようとすると輪郭がぼやけていってしまう。




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