ウィズコロナ時代の会計事務所
シンガポールの会計事務所CPAコンシェルジュ代表の萱場(かやば)です。
コロナ対策では日本よりも2週間ほど先を走っている感覚のシンガポールでも、外国人宿舎での感染が爆発しています(2020年4月20日現在)。シンガポールは、外国人宿舎というある意味で限定された界隈内での感染拡大なのでギリギリコントロール下といえそうですが、日本の方はそうはいかないようです。
有報提出期限の延長がされたとはいえ、まだ日本では経理部は出社し、監査法人も往査していると聞きます。「全国民が一斉に行動を変えて2~4週間耐える」ことにこそ意味があるわけですから、それができていない感染列島ジャパンではまだまだコロナは収まるどころかさらに拡がるのではないでしょうか。また、発症していない潜伏期間中でも他人に感染させるということが事実上確認され、抗体・免疫もできないかもしれないといわれているコロナですから、最悪の場合コロナは終息しない、つまりアフターコロナ時代というのはもはや訪れず、コロナと共に生きていくウィズコロナの時代を想定しておくのが賢明といえそうです。我々会計事務所も、少なくとも今から数年単位でのウィズコロナ時代を想定して「ウィズコロナ時代の会計事務所」に変容していかなければならないと考えています。
今後、実際の密集空間を商売にするエンタメは別の形で人を楽しませるようになり、ウイルスの運び屋となってしまう人間の物理的移動、特に国家間の移動は制限され、インバウンド事業も一斉にピボットが求められるでしょう。シンガポールやニュージーランドを筆頭に、そろそろ自国内の危機を脱する国がでてきますが、感染真っ只中の諸外国からウイルスを持ち込むわけにはいかないので、モノ・カネ・ジョウホウは動くけれどヒトは動きにくいという時代が到来する、というそんな予感が漂っていますね(すでにそうなっていますが)。
このように、社会全体が大きく変わるわけですから、それに引っ張られる形で我々会計事務所にも変革の波が押し寄せてきます。一般的なビジネス全体に与える影響は起業家の皆さんにお任せするとして、ウィズコロナ時代の会計事務所について考えてみたいと思います。
クライアントの変化
ここが一番大きいと考えています。
弊社ではコロナ前から、Zoomやチャットワーク、Slack、ドキュサインなどを活用し、オンラインでほぼ全て完結する体制で業務を行っていますが、クライアントが上場企業・レガシー企業だったりすると、ZOOMを使ったことがないので電話会議で、とか、電子署名は社内規定で不可なので原本郵送を、といったように、(誤解を恐れずに表現すると)こちらのオンライン体制にお客様がついてこれないことが多々ありました。
これがコロナ時代の到来で大きく変わります。レガシー企業のお客様ともZOOMで会議ができ、チャットツールで連絡がとれ、ドロップボックスでファイル共有、Gドライブで契約書作成共同作業でき、中小企業を中心に会計ソフトはクラウドに移行、請求書にQRコードをつけても軽んじられなくなるでしょう。逆に、お客様が一度それに慣れるとそうでない業者が選ばれなくなります。士業事務所もオンライン化必須、一時的では無く常態化するので、遅れをとる士業事務所は淘汰されることになります(ちなみに現在、ZOOMの脆弱性が問題となっていますが、一気にセキュリティ向上して解決、再びZOOM一択になると思います)。
手続きの変化
税務申告や法人設立、社会保険料(的な)の控除申告納付を含め、シンガポールの当局関連手続きはすでに完全にペーパーレスで、紙が必要な手続きは片手で挙げられる程度(ビザの登録で指紋&写真撮影する時にサイン済みの許可証を持参するぐらい)しかありません。もちろん納税もオンラインで完結、政府からの補助金なども申請すら不要で勝手に入金されている始末です。
ところが日本では税務申告が認められているものの、ほぼ使われていないようで(よく知りません)、シンガポールのようにマイナンバーがフル活用されることもなく、いまだにハンコ文化、原本郵送主義も根強く残っているようです。
これがコロナで強制的に電子化されます。お客様のマイナンバーや各種パスワード管理が一層重要となり、成果物の最終提出先がオンラインで済むとなると、後述する社内のオペレーション含め、あらゆるものがオンラインで完結できるようになっていきますし、そのための体制を整える必要があります。電子化で大きく先を行くシンガポールの実務は大いに日本の皆さんの参考になるでしょう。
事務所(オフィス、職員、雇用形態)の変化
コロナで半ば強制的に在宅勤務をしてみた結果、「在宅で意外といけるやん」「むしろ集中できて良い」となっている事務所や職員もすでに多いと思います。そうなってくると、「そもそもオフィスって要らない?いやいや、やっぱ要るでしょ。」という意見がでてきますね。
ではオフィスは必要なのか?必要であるなら何故?
「物理的オフィスの意味、役割」の再定義が必要になってきました。
オフィスで人が集まって仕事をする、これはインターネットが発達していなかった昔は必須でした。情報共有が口頭、紙でしかできなかったのが原因です。ところがインターネットビッグバン以降、情報共有はむしろ、相手の集中を邪魔することなく、かつ記録が残り共有もし易いオンラインの方が向いているということが分かってきました。
ではオフィスの意味、役割はなにか?
この点、
「コミュニケーション(家とは異なる自分の居場所)」
と
「学び」
にあると思います。
「コミュニケーション(家とは異なる自分の居場所)」について。自宅で一人で仕事をしていると、確かに集中できて捗りますが、人間、長期間の孤独には耐えられる人は少ないです。また、家庭では会社とは異なるキャラの人、家庭は意外と窮屈で会社の方が自分が自分でいられる、という人も実は多く、人としての居場所、コミュニティとしての役割がオフィスに期待されている大きな役割の一つといえるでしょう。承認欲求を満たす場所、といってもいいかもしれません。
「学び」について。新卒で入社した新人が、「キミ、初日からフルリモートで勤務ね。研修動画があるから見といて。あとは自分で成長してね!困ったことあったらいつでも何でも気軽に連絡してね。」となったらどうでしょうか?、、、、、心オレソウですよね。
何故そう思うか?
在宅だと学びの機会が限られるからです。
仕事は生き物です。案件ごとに論点が異なり、論点の強弱も異なります。上場企業の会計基準準拠や移転価格は重要ですが、零細企業で重視されるのは税務や資金繰りだったりします。そういった経験則や引き出しの選び方を伝授したり、横で誰かが誰かと話している会話から学ぶといったこともオフィスの日常です。先輩との雑談で過去の経験談を聞いたりキャリア相談をすることもあるし、お客さんにメールする時、こうこうこういう感じでお伝えしてね、といった小さいけれども重要なことの共有が「目的ありきのオンライン会議」ではなかなかどうして困難といえます。
今から世界中でオンラインのコミュニケーションツールが劇的に発展していくのは間違いありませんが、上記のようなコミュニケーションやOJTまで完璧にカバーするには時間がかかるように思います。「コミュニケーション」と「学び」、ここにオフィスの役割があり、逆にその他のオフィスの役割はウィズコロナ時代では薄れていくと思います。
一方で、ある程度スキルのある職員の場合、「在宅勤務の方が集中できてよい。効率的に仕事したい。」という人もでてくるでしょう。
そうなるとフル在宅勤務の職員の役割は、コミュニケーションや学びというよりは、今持っているスキルのアウトプットが中心になってきますが、となると事務所側としては、
「外注でいんじゃね?」
となってきます。外注の方が管理コストも圧倒的に安いですし、上述の通り、お客様側でも社内でもオンラインのコミュニケーションが常識になりますから、物理的にも精神的にも外注が利用しやすくなります。となると逆に、オフィスで活発にコミュニケーションをとり、積極的に後輩を育てる職員の価値が上がってくるでしょうし、ヒトとコミュニケーションをとらない職員、後輩へのアドバイスなどに消極的な職員、成果物を作ることだけに特化している職員などは長期的に価値が下がり、外注に置き換わっていく可能性があります。
事務所経営としては、より活発に有意義なコミュニケーションが行われ、職員それぞれに居場所・役割を担ってもらい、そしてOJTの仕組みをはじめ、学びの場をオフィスのデザインや人事考課に組み込むことが必要になってきます。自宅の方が集中できる、という事実をオフィス改善に生かして、オフィス内に集中業務室や集中(私語禁止)時間を作るといった施策も機能するかもしれませんし、一定の日数は在宅OK、といったミックスの体制も一つの落としどころでしょう。在宅でも仕事し易い環境を事務所側がサポートすることで、全体の効率を上げ、採用にも寄与するのは間違いないといえます。
ビフォーコロナ時代もそうでしたが、オフィスや人事制度を上手くデザインできる事務所は生産性が向上し、1+1を3にすることができますが、そうでない事務所は1+1を2にしかできない、そういう状況となって、今よりも明確に競争力に差がでてくるはずです。
社内オペレーションの変化
オンラインツールを駆使するというのは当たり前ですが、それに加え、外注や在宅勤務者の増加、それに伴う管理コストの問題もあり、全体的には今よりもっと「タスクベース」の環境に変わっていくでしょう。まとまった時間が必要な成果物作成は自宅、そうでない通常日はオフィス、といった傾向になり、「あの人忙しいからなかなかオフィスに来ないね最近」という会話が聞こえだす日も近いかもしれません。
そうなると今よりもっと「ルールの明確化」が必要になってきます。あの話ってどうなってるんだっけ?とか、あの資料どこにあるんだっけ?というロスを防ぎ、ルール周知を徹底して効率化を進めます。エクセルやPDFのファイル名や保存場所、フォルダツリーのルールも統一、顧客から入手した資料・情報は必ずデータ化して保存先を決めておく、といったルール化です。過去の事例や判例、専門書のコンテンツもオンラインのアクセスができるようにした方がよいでしょう。
また、全体的にタスクベース寄りの業務環境になり、在宅作業にも慣れて違和感がなくなってくると、オンとオフのメリハリが無くなり、土日や深夜に仕事をする職員が増加、いつでもサボれる一方でいつでも臨戦態勢が求められることになります。特に即レスしなければ流れて埋もれていってしまうチャットツールを使用している場合は顕著です。際限なく仕事をしてしまう職員もいることから、「土日の仕事は禁止」といったルールも必要になってくるかもしれません。
今後求められる業務内容の変化
今後の世の中の変化は、我々会計事務所に求められる業務・ニーズにどういった変化をもたらすでしょうか?
まず、兼業、副業、フリーランスの増加により、個人の所得税申告の数が増加します。ただし税理士報酬は節約対象なので、自動で個人所得税申告できるクラウドツールや、「自分でできる所得税申告」といったノウハウブログや税理士Youtuberがまずは流行るでしょう。世の中がオンライン化するにつれて全ての情報がオンラインで繋がり、そこにブロックチェーンが導入されて脱税や粉飾の余地が減って会計制度&税制がシンプルになるのが理想ですが、これには時間がかかるでしょう。
また、この10年ほど、世界の税務業界では法人税や所得税といった直接税から消費税のような間接税にシフトしてきています(日本の消費増税もその一環)が、モノカネジョウホウが動きヒトが動かない時代ではこれがさらに進みます。電子通信利用役務の提供(日本だと通称アマゾン税、シンガポールだとネットフリックスタックスとも呼びます)や小規模事業者数の増加、そして複雑な軽減税率制度も相まって、消費税の領域が税理士業界ではアツくなるでしょう(タックスヘイブン対策税制の実体基準、管理支配基準は緩和すべしと思います)。
オンライン化についてこれない老舗の税理士事務所が統廃合して巨大化するのも間違いないでしょう。
海外移住については、2011年の東北大震災の直後、日本の政府に見切りをつけて海外移住した起業家、富裕層が増えました。その後の出国税導入でスローダウンしましたが、今回のコロナ騒動で海外移住が再燃すると思います。ヒトは動きにくくなるものの、移住、特に日本からの海外移住は「非感染証明書入手」などの前提のもと、動き続ける可能性があります。ことシンガポールに関しては外資や外国人に支えられている国なので、人選はするものの受け入れ拒否はしないでしょうし、コロナ騒動でまたもや見せつけられた政府のリーダーシップや実行力に感銘をうける起業家・富裕層も増えて、中長期的にシンガポール移住は増えるのではないでしょうか。
コロナとは必ずしも関係ありませんが「業者の探し方」について。この1,2年、大きな上場会社からも弊社がインターネットで検索されるようになりました。弊社のSEOもあるかもしれませんが、かつては業者探しを銀行に頼っていた大きな会社も、とりあえずインターネットで検索してみる、というように変わってきたように感じます(意外とこれまでは全然違いました)。ウィズコロナの時代ではこれが加速、業者探しの方法が「まずはオンラインであたりをつける」に変わるでしょう。また、初回のご相談やお見積りの段階では会って面談をするものの、ご契約後は「目的ありきのオンライン会議」で事が済みますので、打ち合わせの時間も現状の業界一般常識の1時間から45分程度に短縮される可能性が高いです。
最後に、初回相談から契約、その後の実務までオンラインで完結できる時代に突入しますので、人物像のみえない「とりあえずあるだけ」のホームページでは受注が難しくなるように思います。SNSを中心に、より正しく個性や意見を発信している士業に仕事が集まるでしょう。
ウィズコロナ時代の会計事務所、とりあえずオンライン化はまった無しです。その他のご意見も是非ともお聞かせください。
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