海に眠る(1)【短編小説】
西の海の、その底には、彼女が愛した彼女が眠っているのだという。
潮騒が彼女の声をかき消す。僕は彼女が泣いているのかと思ったが、ただ寂しそうに海を見つめているだけだった。シンプルな黒いワンピースが風に揺れている。
夏の灼けつくような陽射しの下で、偶然この小さな岬にただ居合わせただけの見知らぬ僕に、彼女はなぜかたくさんの秘密を教えてくれた。それは、彼女たちが愛し合って生きていたこと。この岬で手を繋いで海を眺めながら二人が生きた日々のこと。それが、許されなかった、ということ