冨樫義博展-PUZZLE- 所感
明けましておめでとうございます。実に8か月ぶりの投稿です。
今年はもう少しnoteも投稿出来たらなあと思っています。
さて一発目。明日まで六本木は森アーツセンターギャラリーにて開催中の念願の「冨樫義博展-PUZZLE-」に先日行ってまいりましたので、所感をnoteしたいと思います。いわずと知れた鬼才・冨樫義博氏ですが、いろんな意味で自分に影響を与えまくりな漫画家さんですので、この原画展は絶対に行かねばと思っていたんですね。結局ギリギリになってしまいましたが、やはり行っただけの発見が沢山ありました。
1. サプライズの嵐!大量の原画展示
今回の展示の目玉ですが、非常に大量の原画が展示されています。カラー原稿もありますが、モノクロ原画が殆どですね。私は昔趣味で漫画を描いていたこともありまして(投稿もしたことあります)、とにかくアナログ原稿を見るのが好きなのでこういう原画展は問答無用で血沸く血沸く♬ なわけです。今回は尊敬する冨樫義博氏の大量の原画とのことでもう興奮しまくりでした。で、下記が驚きポイント。
1-1. ホワイトが少ねえ!
ホワイトってのは簡単に言うと修正液みたいなものでして、要は描き損じを修正するものですが、大体原画を見ると予想以上のホワイト量があるものなんです。
しかし氏の原画はほとんどホワイトがない。最初「あれ、これ原画じゃなくて複製かな?」と誤認したくらい。しかしよく見ると、枠からはみ出ているところに使われていたり、あと冨樫氏の癖なのか、描写的にキャラに縞々にホワイトを入れることが多くありました。『幽遊白書』の有名な戸愚呂弟の「世話ばかりかけちまったな‥」のシーン、あそこは線でささっと戸愚呂弟を描いた後ホワイトを縞々に走らせてあのかすれた描写を出していました。
なのでホワイトは使っているのですが、修正では驚くほど使われていない。使う必要がないくらいペン入れに迷いがないのか、単にめんどいのか…。「先生白書」の描写なども鑑みると、恐らく両者なんだと思います。
1-2. 原稿にNaoko Takeuchi の名前が!
冨樫義博氏の奥様は言わずと知れた漫画界の巨匠、武内直子氏ですが、なんと『HUNTER×HUNTER』の途中から、一部の原稿にNaoko Takeuchi の名前がありました。
原稿用紙にも変遷があって、『幽遊白書』の頃はすべて統一規格の、おそらくWJから支給されたのかな?な原稿用紙を使っているようでしたが、『レベルE』『HUNTER×HUNTER』はバラバラでして、連載が月間になったり不定期になったりが関係しているのかな?とか邪推していました。
そんなこともあってかないのか知りませんが、このNaoko Takeuchi特注の原稿用紙を冨樫義博氏が使ってるのはなんとなくニヤニヤしてしまいますね。冨樫義博氏はあまりアシスタントを多く雇わないことで有名ですが(確か最大でも3名とかだったはず。『レベルE』に至っては「1人で全部描きたいから」という理由で月間連載になっていました。結局アシスタントはつけてますけど。)、もしかしたら奥様が少し手伝ったりしていたのかな?とか想像してましたね。
1-3. 躯の初登場シーンに○○○が!
『幽遊白書』最終章で絶大な存在感を放つ躯ですが、その初登場、正確には初の顔見せシーンは衝撃的だった方も多いかと思います。その言動から当然男妖怪だと思っていたら、半身が欠損した全裸の美少女が登場。ですが生原稿を見るとその躯に思いっきり乳首が描かれててホワイトで消されていました。数少ないホワイトの使いどころここかよ。
WJでは言うまでもなく女性の乳首はNGなので、あ、やべ、と自分で消したかもしくは冨樫義博氏はこのままいきたかったけど編集NGが出たか。(でも昔のWJって女性の乳首OKだった気がします…『I's』の単行本とか思いっきり描かれてるし)
ちなみに私はご多分に漏れず躯が大好きなのですが、飛影で腐女子の道にのめりこんだカミさんに言わせると「ポッと出てきて飛影とどーたらこーたらやりはじめてうざかった」だそうです。さもありなん。
2. 原画以外で嬉しかった「新たな発見」
というわけで前述の通り、今回の展覧会で最も見ごたえがあるのはその大量の原画なわけですが、それ以外にもサプライズが多々ありました。
2-1. ネーム展示
なんと一部のネームがコピーでなくそのまま展示されていました。神様!
(注:ネームってのは、下書きの更に前の、コマを鉛筆などで雑に描いたものです。漫画家自身が今後何を描いていくか?の設計図にすると同時に、漫画の編集者と漫画家がこれをもとに構成の打ち合わせをしたりします)
冨樫義博氏自身が、「漫画執筆に置いて最も楽しい作業はネーム。ネーム前にどういう風にしようか、と考えている時間が最高潮。」という通り、とにかくこの方はネームがすさまじいです。ストーリーのプロット、セリフ、構成、コマ割り、すべてにおいて現役のWJ作家でトップだと思ってます。ちなみに…ネームが一番いやだ、という漫画家も少なくなく、これだけでも氏の話を練る才能がずば抜けていることが分かりますね。
そんな冨樫氏のネームは一言で言うと結構雑ながら、でも誰が見ても何が起きているのか?は分かる、ワクワクするものでした。ネームってのは本当漫画家の癖が出まして、解読不可能なんじゃないかってくらい雑に描く人もいれば、鳥山明氏のようにもうネーム時点で完成してるじゃん、ってくらい絵を描きこむ人もいます。
冨樫氏は噂の通りルーズリーフにまあ結構雑にキャラをマルチョンで配置。セリフを描いてました。一部のセリフは完成原稿と異なっているのもあったので、清書後に修正していたりもしているようです。なんにせよ「ネームの神様」の生ネームが見れたのは本当にうれしかったです。
2-2. 「念」にまつわる新たな設定
『HUNTER×HUNTER』の代名詞ともいえる能力「念」ですが、冨樫メモから引用する形で作中で明かされていない新設定が明かされていました。「キャラの念系統」と「念の修練度」という設定です。えーーー!そんなん公開しちゃっていいの!と驚いたのですが、同じものが画集にも載っていたので購入して嘗め回すように堪能しました。
↓気持ちサイズを下げた上で設定資料引用。
とりあえず驚きポイントで言うと、
・メルエム、放出系なんかい!
・ユピー、変化系なんかい!
・ゼノ、放出系なんかい!
・ヒソカよりビスケのが修練度上なんかい!
などなど、特に念の系統については驚きが多かったです。どっかのYouTuberが言ってたようですが、正直この手のオーラバトル、「念」がもうすべて説明しちゃったんですよね。「特質系」「制約と誓約」っていうインフレ防止策とともに「水見式」「オーラ別性格診断」っていうキャッチーな要素を取り入れてオーラバトルをここまで面白くしたの、マジに天才の所業。
2-3. 冨樫氏の尊敬する人・作品
まあここは簡潔にですが、
1. 冨樫氏が「何か一冊漫画を選べ」と言われたら選ぶのは「漂流教室」
2. 冨樫氏が尊敬するクリエイターはH.R. ギーガー。
…と、まあギーガーは冨樫氏の描く異形をみたらそらそうだろ、と丸わかりですが、漂流教室は嬉しかったですね。尊敬する人が尊敬する人を尊敬しているとわかったら、何か嬉しいものです。(楳図かずお氏も本当数えきれないクリエイターに影響与えてるよなあ…。)
あと、現在進行形で行われている『HUNTER×HUNTER』の「王位継承編」ですが、裏テーマとして、『キャプテン翼』のワールドユース編を超える「少年漫画史上最大の登場人物数のストーリーを描き上げたい」というのがあるようです。無尽蔵にキャラが増えていく理由、それか!
3. 冨樫義博展 -PUZZLE- まとめ
他にも気づきや嬉しかったことはたくさんあったのですが、キリがないので一旦こちらにて。
さてまとめですが、結論としまして非常に良い展示会でした。尊敬する漫画家の原画を見るのはそれだけでシンプルに楽しいですし、今回は上記のような原画以外の嬉しかったことも多々あり、より一層冨樫義博氏のルーツに迫れた気もします。
「天才」「鬼才」と称されることの多い氏ですが、個人的に冨樫義博氏のもっともすごい才能は「何かと何かを組み合わせる能力」「何かをもとに要素を足して自分の味として昇華させる能力」だと思っています。さっきの「念」で言えば、正直オーラバトルなんて冨樫氏の前にいくらでもやったことのある人はいるんですよね。それこそ鳥山明氏の「気」バトルとか。
ただそれに、「オーラを系統に分けたらどうだろうか?」「ただ戦闘力を伸ばしていくだけでなく、制約を課したらどうだろうか?」などを思いつく才能とセンスが異常なんですよね。ただ、これはあくまで自分の邪推ですが、『幽遊白書』の時にもしかしたら念の原石は思いついていたのかもしれません。鴉が使う爆弾の能力の時に「支配者級(クエストクラス)」という謎の単語が一瞬出てきますが、あの爆弾の能力の時に「妖気を具現化して操る能力」→「支配者級」というジャンルにしたらどうか?→「じゃあ幽助は「放出に特化した能力」、桑原は「妖気を変化させるのに長けた能力」にしたらどうか?」みたいに思いついている可能性があるのではないか‥と。で、それを改めて練り直した結果ああなったのではないか‥と。
他にも『幽遊白書』の「暗黒武術会編」は天下一武道会をはじめとした少年漫画特有のトーナメント戦に「チーム戦」と「ダーティバトル」の要素を入れてオリジナリティあるものに仕上げてますし、『HUNTER×HUNTER』の「キメラアント編」のメルエムのラストは正直まんま『寄生獣』の後藤の最期と同じ結末を歩んでいます。ただ、それらを少年漫画として昇華させて面白いものにするのがハチャメチャにうまい。だから面白い。
…と、あくまで所感ですが、自分は冨樫氏に関して考えているものはこういうものでして、だからこそ自分は彼の作品が好きなんですね。そもそもクリエイターに関してうかつに「0から1を生み出した天才だ!」と他者・自者ともに評価するのは自分はあまり好きではなく、大概の人は天才・凡才問わず「自分が今までに経験した何かから影響を受けている」と思っています。ただそれを組み合わせたり、自分なりの要素を加えたり、ジャンルを変えたり混ぜたりしていって、進化させていく。だからこそ人類の生み出すクリエイティブは進化し続けているんだ…と、思っているんですね。
なんだか最後は冨樫義博展関係ない、ただの自分の雑な思想になりましたが、まあそんなわけで「冨樫義博展-PUZZLE」、非常に良かったです。『HUNTER×HUNTER』はまたしばらく連載は休止しそうですが、体調に気を付けて、なんとか完結まで描き切ってほしいものです。(暗黒大陸編を早く…早く…)