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借りた優しさを返す

先日、長女の保育園のお迎えに向かう途中の出来事。

歩道近くで自転車のチャイルドシートに子供を乗せた母親が立ち往生していた。
お迎えの時間も迫るので、その親子を横目に歩道を渡った私は、なんだか胸がザワザワした。

横目に見たのは、大泣きをする3歳くらいの制服を着た女の子。
パニックを起こしているようで、チャイルドシートから身を乗り出してはブンブン体を横に振り、今にも落ちそうだった。

母親は歩いて帰るか、それともこのまま乗って帰るのか、どうしたいのか、もういい加減にして!と娘に怒りながらしかし冷静に声をかけていた。

その気持ち、良くわかる。

そしてどこかで見たことのあるこの光景。

そうだ、あれは長女が9ヶ月の頃の上野動物園の帰り道だ。
疲れ切った娘は、動物園の入り口近くで帰りたくないと大騒ぎ。
地面に寝転がり、泣き叫び、パニックで手がつけられなくなっていた。

なんと声をかけようと、聞くどころかどんどん癇癪がエスカレートする娘に、
子育て一年目の私は泣きそうになりながら、転がり回る娘の姿を落ち着くまでただただ見守るしかった。

周りを歩くカップルや、ベビーカーを押すママたち、散歩中のご老人夫婦まで全ての人の視線が冷たく感じた。
いや本当に冷たい視線を投げかけていた人もいただろう。

泣きそうだった。
なんでもっと早く帰らなかったのだろうと後悔さえした。

すると、近くで何やらかばんの中をゴソゴソと探している一人の女性がいた。
いや、ちょっとオタクっぽい男性だったか、申し訳ないがそんなことに気遣う暇もないくらいに私は動揺していた。

するとその人がカシャカシャと手に◯◯レンジャー(レンジャー系に詳しくないので何のキャラクターかは分からない)のテッシュを持ちながら、「これ好き?」と娘に声をかけ、それを差出した。

知らない人に声をかけられびっくりした娘は、ピタっと泣き止み、そのクシャクシャになったテッシュを見つめながら、そっとそれを手に取った。
その人は、「大丈夫だからね。大丈夫、大丈夫。」とニコニコ声を掛けて去っていった。

あれから4年が経ち、自転車の親子はあの時の私と長女だと思った。

お迎えの時間まであと5分。

すると、その親子が私を追い抜き、また身を大きく横に投げ出した娘に急ブレーキで母親は自転車を止めた。

その瞬間、私は女の子に向かって「どうしたの?自転車に乗りたくないの?ちゃんとシートベルトしてヘルメットもかぶれてえらいね」と声をかけていた。

母親は「本当にすいません。お騒がせしてしまってすいません。」と何度もあやまっていたが、硬直した表情が心なしか穏やかになった気がした。

「こういう時ありますよね。私の長女も昔あったので。でも全然大丈夫ですよ。皆んなそういう時ってありますから。大丈夫、大丈夫。」と私は、母親に声をかけて追い抜いた。

その後、女の子の泣き声は聞こえなかった。

急いで保育園に着くと、2分の遅刻。
延長料金はかかってしまったが、なんだかじんわり優しさに包まれた気分だった。
あの親子へ差し伸べた手が、実は自分を救っていたのかもしれないけれど。

4年前、上野動物園の入り口で声をかけてくれた優しい方へ。

あの時声をかけていただき、娘と一緒に泣きそうだった私は無事に家に帰ることができました。
そして、あの時いただいた恩は、先日違う方へお返しさせていただきました。

本当にありがとうございました。


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