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【旅blog】屋久島トレッキング 4
8月16日_3日目
午前7時起床。
この日は白谷雲水峡へ行く。
テルさんと私は宿の向かいにあるバス停に向かう。バス停にはアジア人女性の2人組がいた。
7時40分にバスが到着し、私たちは乗り込む。
8時10分に「小原町」へ到着し、私たちはバスを降りた。バスの窓を見るとアジア人女性が私たちに笑顔で手を振っていた。
こんなことならバスの待ち時間に少しでも交流しておけばよかった…。
バスの乗り換えをする為、向かいにあるバス停に向かい、8時15分「白谷」行きを待つ。
8時50分に白谷雲水峡に到着。
白谷雲水峡は往復4~5時間程のコースである為、縄文杉コースよりはラフな格好の観光客が多かった気がする。
登山コースはいくつかに分かれているが、私たちはすべてのスポットを網羅できるフルコースを選んだ。9時半頃から登山開始。
白谷雲水峡は森に生い茂る苔が本当に美しいのだが、私の写真技術が低い為、このブログを読んで頂いている方々に100%を伝えられないのが悔しいです。
テルさんが言う。
「森を歩くだけでこんなにもカメラを構えて歩きたいと思ったことはこれまでないですね。素晴らしい苔だ。」
「そうですね。でも、この光景は実際に目で見ないとわからないですよね。悔しい。」
苔の素晴らしい森にはたまに壊れかけの橋が架かっている。
道としては、縄文杉よりもきつくない為、このコースであれば常時デジイチを構えながら歩くことができるし、子供連れの家族でも来やすいと思った。
そして、テルさんと登りながら思ったことがある。それは…
屋久島は一人で来る場所ではない。友達でも家族でも恋人でも誰か大切な人と来て助け合いながら、そしてワイワイしながら登山を楽しんだ方が良い。一人で登っていたら自分との闘いになる。今日は同行者がいて本当に救われたな。
そんなことを考えていると奉行杉が出現した。
筋肉のような樹皮。
そこからさらに歩いていくと看板が見える。
看板の近くは開けた場所になっていて、多くの観光客が休憩をしていた。ここを過ぎるとハイライトの太鼓岩なのだ。
ちょうど到着したのが12時で、太鼓岩に向かう前に私たちも昼食をとることにした。
私はパンを二つ、テルさんはカロリーメイトを食べた。
それから最後10分間の登りコースを行く。
するとこれまで森の中だったが、一気に視界が開けるのだ。 もののけ姫のサンの洞窟のモデルですね。
これは達成感がある。
やはり登山のゴールはこれが良い。
縄文杉ではなく、壮大に広がる景色。
これが正解だ。
太鼓岩では京都から来た女性2人組と写真を取り合うことになった。4人で岩に座り話し込んでいたが、あとからぞくぞくと観光者が来る為、話は早々に切り上げ、女性たちとは分かれて下山した。
14時半下山完了。
合計登山時間5時間。
まだ昼間で時間がある為、私は初日に思った「安房港よりも宮之浦港の方が栄えており、ピチピチギャルやジブリガールがたくさんいるのでは?」という疑問を確かめる為、テルさんとともに宮之浦港へ向かった。
探究心というものはしょうもないところから湧き上がるのだ。
宮之浦の観光センターに着くと安房よりは人がいるといった感じであったが、そこまで大きくは変わらないし、中途半端に栄えていて、旅人同士や地元民のかかわりは少なそうだなと感じた。
これなら安房の方がのどかでいいや、そう思った。
観光センターの2階でカツカレーを食している時に所持金が少ないことに気付いた。
5万円持ってきていて、残り11,000円しかない。なぜこんなにお金がないのだろう。そう考えると島内での交通費と宿泊費が圧迫していることが判明した。
明日は種子島にわたって宇宙センターに行く予定なのだが、その高速船だけで3,900円くらいするし、その後飛行機に乗る為に種子島から鹿児島へ渡るのに7,000円くらいかかる。
これでは足りないではないか…。
私は焦った。
早速近くの鹿児島銀行に駆け込んだが、持ってきていたキャッシュカードが使えずお金が下せない。顔が青ざめたのを覚えている。
次に高速船の運行会社に連絡するとクレジット払いが可能とのことから安心した。しかし、同時に船便が少ないことが判明した。私が購入したのは下記のチケットだ。
屋久島7:00→種子島7:50
種子島15:00→鹿児島17:00
種子島滞在時間7時間。
しかも種子島の港から宇宙センターまでは車で往復3時間かかる。そうだ、レンタカー代金も考えないといけないがこれもたぶんクレジットで大丈夫だろう。私はそう考えて、宿へ戻った。
18時頃、私とテルさんは宿に到着した。
部屋には新しい宿泊客がいて、シアトルから来た男性2人組。どちらもイケメンだった。
………………………………………………
20時頃だろうか私とテルさんは宿の一階のソファに座っていた。
テルさんがふいに口を開く。
「今回は楽しい旅ができました。年を重ねることで、こうやって見ず知らずの人と気兼ねなく話せるようになりましたが、私が20代の頃はこんなことはあまりなかったなぁ。あなたはいろいろな場数を踏んできたのですね。」
「あはは、そんなことないですよ。いやぁ、中は蒸し暑いなぁ。外は涼しいかなぁ。」
褒められることに慣れていない私は恥ずかしくなり、外へ出ようと立ち上がった。
その瞬間左ひざが"ピキーンッ"と音を立てるとともに激痛が走った。
「あうぅ!」
テルさんが私を見上げる。
「どうしました?」
「ひ、膝が…。膝が…。」
私は声が出なかった。
終わった。膝を壊した。
そんなやり取りをしていると2階から足音がして、女性2人組が降りてきた。外国人と日本人だ。外国人の方が私の顔を見て言う。
「ゴハン、イッショニ、タベマセンカ?」
「えっ?」
急だなと思いつつ、意識は膝に集中していた。
「どうしようかなぁ」
そう言っているとテルさんが「レディのお誘いを断るのは失礼ですよ。あ、行きますので少しお待ちください。」
…紳士かよ。
私は膝をかばいつつ、3人についていった。たどり着いたのは昨日の散歩亭。
会話の中で女性たちは一緒に来ているわけではないとわかった。
外国人の女性はスペイン人で、今は京都の骨董品店で働いており、日本人の女性は洋菓子のお店を経営しているということだった。
私は酒を一杯も飲まずその場をやり過ごしていたが、川沿いのテーブルで話すうちに膝の痛みが悪化していることに気付いた。
もう一軒行こうとなったが、私はお断りした。
店を出ると3人に告げる。
「膝が痛くて歩くのが遅いからもう一軒行くのであれば気にせずに先に行ってください。」
3人は心配そうな顔をしてはいるが、さっと次の店に向かい、私は心のどこかで寂しさを感じた。
十分に時間をかけて川に架かる橋を渡ると昨夜のおばあさんがいた。今夜は一人の様だった。おばあさんがまた挨拶をしてくれた。
「こんばんは」
「あっ、こんばんは」
「あなた膝どうしたの?」
「実は登山で無理したようで」
「あらら大変ねぇ。でも登山なんてよくするわねぇ。あたしにはできないよ。」
「地元の人はしないですよねぇ。あはは」
「そうね、過去に1回したくらい。あたしはねぇ、ここで風に吹かれているだけでいいわ。」
「風ですか」
「そう、屋久島の夜風はいいよ。夜風を浴びないと寝れなくなっちゃった。」
夜風で橋に架かる提灯が揺れている。
「この提灯は何ですか?」
「昨日、精霊流しがあってね、お盆の間だけ設置してあるのよ。今は精霊流しの時に海に溶ける素材を使ってるけど、昔はペットボトルやらなんやらやりたい放題で、私たちは海を汚していたわ。」
「そうなんですか」
「あなたは屋久島好き?」
「3日しかいないのでよくわからないですけど、自然の素晴らしい場所だなと思います。」
「そう。私はや屋久島が好きでね。そこに山があるでしょう。新緑の時は緑が本当に綺麗であたしはいつかあの緑を絵で描きたいって思っているの。今は酒屋をやっているけどリタイアしたら夫と一緒に絵画教室に通うって約束しているのよ。」
「仲が良いんですね。」
「そう。夫とは44年前に知り合ってね。お見合いから5回あっただけで結婚して、あたしは鹿児島からこの屋久島へ移ってきたの。どうしてそんなすぐに大事な決断をしたのかわからないけど、今では良かったと思うわ。あなたはいくつ?」
「28歳です。結婚なんてできるんですかねぇ。あはは」
「何言っているの。大丈夫よ。まだ若いじゃない。うちの息子はもうすぐ40だけど結婚していないの。」
おばあさんは立ち上がり、歩き出す。私は左足引きずりながらおばあさんについて歩く。数歩歩くとそこがおばあさんの家のようで庭先の花を見せてくれた。
「これはブーゲンビリアっていうの。南国にはよく咲いているのよ。」
「へぇー。初めて見ました。」
「今は畑でライチも育てていて、10年育てていてやっと実がなったわ。」
「えっ、そんなにですか?」
「あなたは28歳でしょう?あたしからしたら若造だけどね、あたしも70だけど、90の人からしたら若造なの。だから弱音はいわないわ。辛抱強く頑張るの。あなたもよ?」
また夜風が提灯を揺らした。
私は笑顔でありがとうと告げ、足を引きずりながら宿に戻った。部屋には誰もおらず私は眠りにつくことにした。
つづく…
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