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行きつけとあだ名
行きつけのカフェのポイントが貯まって、ついにステータスがランクアップした。そのカフェには専用アプリがあって、チャージすると支払いができる。その支払額によってポイントが貯まるのだ。
ランクアップすると、いくつか特典を貰える。そのうちの一つが50%オフの割引クーポン。お昼ご飯も兼ねてドリンクとフードを一緒に注文した時に使わせてもらった。
その時注文したのは、クロワッサンを使ったあんバターサンドと、ホットのソイラテ。この組み合わせは、結構わたしにとっては定番のメニューになっている。迷ったらコレだ。
これらを注文しながら、いつも「絶対わたしって、店員さんに“あんバターサンドの人”とか“ソイラテの女”とか呼ばれてるんだろうなぁ」と思う。
別に嫌ではない。なんだったら、身に覚えもある。自分がそうだったから。
大学生時代、2つの喫茶店でアルバイトをしていた。どちらもチェーン店ではなく、自営業のお店だった。両方とも給料は茶封筒に入った現金を手渡しするといった具合に、アナログな運営体制。
はじめてアルバイトをした店が閉店となり、次にバイトを始めたところでは、ノートにその日一日あったことを書き記す日誌スタイルを採用していた。
書いていたことと言えば、その日の出勤者はもちろん、やったこと(日用品の補充や、掃除した場所、砂糖の入れ替えとか)や購入したもの、そして、来客状況。
一見のお客さんはおろか、常連のお客さんでさえも、店員側が彼らの本名を知る機会は滅多にない。そうなると、その人の印象やしぐさ、見た目、よく注文する商品に目が向く。
来客状況の欄には、わたしたちにしかわからないコードネームのようなものがたくさん並んでいた。
来店する度ウィンナーコーヒーを頼む「ウィンナーコーヒーの女性」、とある芸人◯◯さんに似ていた「◯◯似の人」、ロイヤルミルクティーを頼む「ロイヤルおじさま」、高頻度で軽井沢の別荘の話をする「軽井沢さん」……。
ノートではしょっちゅう見かけるけど、なかなかお目にかかれなかったお客さんをバイト中にはじめて接客すると、妙な感動があった。もちろん一方的に知っていたからといって、馴れ馴れしく話しかけたりなどはしなかったけれど。
行きつけのカフェ、すでに何人かの店員さんには顔を覚えられているので、何かしらのあだ名は付けられているんだろう。けれどわたしは多分、次もあんバターサンドとソイラテを頼む。
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