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生態学の時代がきた

今日は書籍の感想。

人新世の科学 オズワルド・シュミッツ著
岩波新書

原題は、The new ecology. -Rethinking a science for the Anthropocene-

従来、生態学は「人間以外の」生物と生物や、生物と自然との関係性を探求、解明していく学問であった。ところが、人間が地球上のありとあらゆる場所で繁殖し、その活動が自然環境に多大なる影響を与えるようになり、「人類と自然が持続的に共生していくにはどうすればいいのか」を考える必要性に迫られる昨今、生物や自然との関係性の中から学びえたものを活かす「ニューエコロジー」なる見方が大切になるのではないか、ということを説いた本。

我々人類は産業のために、例えば原生林の底に眠る鉱物床から採掘するために豊かな自然を破壊して「価値あるもの」を地球から資源を搾取して生きている。これは一見、自然がこれまで積み重ねてきた貯金を人類が切り崩しているように見える。しかしながら、自然資源から人類が受ける恩恵は、金融資産から生まれる利息みたいなものだ。貯金のように出し入れが簡単なものではなく、金融資産が育ち利益を生み出してその一部を得られているような。なので、一度その金融資産をどこかに売却すれば短期的には利益が得られるが、長期的に得られる利息を受け取ることはできないし、再度同じ状態を創ろうと思えば金融資産をまた育てて利益を生み出せるような仕組みをそれこそ永い時間かけて作るしかない。
産業のために自然を壊して金属などを発掘するとなると「人間社会にのみ通用する膨大な価値」は生み出せるかもしれないけれど、一方で豊かな森林を支えている土壌、森林の中で暮らす生き物、土壌から海へ流入する栄養素、その栄養素を求めてやってくる魚たち、それらのことごとくがなくなり、最終的に人類の食糧事情が悪くなる、などといったことが起こる。

これまでは、地球の資源総量や再生量と比較して人類の活動は微々たるものだったけれど、いまや地球環境に大きな影響を与えるまでに繁殖している人類がこれからも生きていくために自然との関係性を見直さねばならない時期にある。
人類と自然が持続的に共生していくには、これまで地球上で積み重なってきた自然資産を短期的に売却するのではなく、株式を発行している会社が儲けられるようにしていくことで、株主への配当が増えるように、自然資産から生まれる利息を永続的に利用できるように、資産そのものを保護、保全するだけではなく、より利息を生み出せるよう資産そのものを保ち、強固になるように活性化する方法を見出す必要がある。
それがニューエコノミーの考え方だ。

自然を保全するだけではなく、より強固にしていくには種の多様性が必要になる。
自然の初期段階には、その場に大きく適応できる種のみがはびこるが、だんだんと成熟してくると小さな役割を担う似たような種がたくさん生まれてくる。同じようなしかも全体からしたらそれほど重要ではない役割を持つ種がたくさんいてもあまり価値がないように捉えられがちだが、多様性を持つことで「これまでと違う環境、状態」になったときにダメージをコントロールできるようになる。多様性があることがその自然資源の安定性に大きく関与する。

もちろん、その生態系を人類がコントロールできればいいけど、そうはいかない。その地域の有害な生物種を除去したいがために天敵となる種を導入したら、その天敵であるはずの種は人類が減らしたり種を食べずに別の種を捕食して却って生態系が崩れる、みたいな例はたくさんある(例えば沖縄のハブとマングース)し、米アリゾナの人口的に閉鎖した自然空間を創り出そうとしたバイオスフィア2実験の結果、たった5人に必要な資源すら人類は制御することができないことがわかった。人間を中心に考えると自然環境を維持することはできないのだ。

そのために、人が自然システムを支配するのではなく、人の社会も自然システムの一部であるとみることが大事。自然と人間社会をつなぐのが生態学の役割となってくる。

ちなみにエコロジーと同じ語源を持つエコノミー=経済にも「ニューエコノミー」なる概念がある。21世紀末のアメリカで生まれた、「情報技術の進歩や経済の国際化により、在庫や需給状態などが究極に効率化され、恐慌やバブルなど、異常事態が起こることなく経済成長が続く」というもの。もちろんこれについてはその概念が生まれた以後、アジア通貨危機や、リーマンショックが起こっているので、ニューエコノミーなる概念は今のところ成立しないのだが、ニューエコロジーはそんな夢ものがたりにならないように謙虚に作ってことが大切なんだと思う。

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