Dear… 第三話「逃走本能」
飛鳥)やっほ。
○○)あ、ども。
飛鳥)今寝そうになってたでしょ?笑
○○)そりゃ眠くもなりますよ、こんな仕事。
飛鳥)そりゃそっか笑
あの日から、飛鳥さんは店に入るとマスクと帽子を外すようになった。
このコンビニの付近は人通りも少ないので、別にバレることもない。
美波)こんばんは〜!
飛鳥)あ、どうも〜!
梅澤さんともすっかり親しくなっている。
美波)新しい映画の出演、決まったんですよね?
飛鳥)なんか、恋愛小説の実写版らしいです。
美波)楽しみです!
飛鳥)え〜、私はあんまり好きじゃないんですよね〜。
美波)普段本とかは読まれるんですか?
飛鳥)よく読みますけど、大体はミステリーとかそっちなので。それに、恋愛は別に〜って感じなんで笑
美波)そうなんですね〜!チラッ
うわ、今こっち見たよ…
別に好きってわけじゃないって言ったのに。
それから飛鳥さんはブラックコーヒーを一つ買って帰って行った。
美波)ねぇ、さっきの聞いた?笑
○○)なんですか。
美波)恋愛興味ないんだってよ〜。ドンマイ!
○○)いやだから別に好きとかじゃないですから!
美波)でも、逆に考えたらチャンスかもね!
○○)え?
美波)今は相手いないってことでしょ?このまま仲良くなっていってさ、付き合っちゃえばいいじゃん!
○○)いやいや、あんな有名な人が僕みたいな一般人と付き合うとかあり得ませんから。
美波)そんなことないじゃない!それこそあんたのお母さんの時代とか、は…
○○)……。
美波)ごめんなさい。そんなつもりはなくて…
○○)いいんです、気にしないでください。
美波)本当にごめんなさい…
○○)別に気にしてませんから、あの人たちのことなんて。
毎回この雰囲気になるのが嫌だ。
勝手に僕の周りで親の話は禁句になっている。
どれだけ僕を困らせたら気が済むんだ、あいつらは。
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「○…○○…○○!」
「大きくなったね、」
「○○、私は…」
真夏)○○く〜ん!
○○)はっ!…真夏さん。
真夏)もう〜、何回も声かけたのに〜!
○○)すみません…
真夏)ふふ、ご飯できてるから降りてきて?
○○)はい、すぐ行きます。
夢を見た。
いや、夢だったのか?
真夏さんの声が聞こえただけじゃないのか?
でも、あれは真夏さんの声じゃなかった。
誰だ…?
○○ちち)○○くん、おはよう。
○○)おはようございます。
○○ちち)○○くん、どうだい?今度の休み、○○くんが生まれた場所に行ってみないかい?
○○)僕が生まれた場所ですか?
○○ちち)うん、いわゆる君の地元だ。それに、君には伝えたいこともある。
○○)それって?
○○ちち)君のお母さんとお父さ
○○)じゃあいいです。
○○ちち)そ、そうか…すまない。
○○)…僕の方こそ、すみません。
真夏)…。
これだよ、これが嫌なんだよ。
なんでこうなるんだよ。
……。
○○)行ってきます…
真夏)行ってらっしゃい!…あなた。
○○ちち)すまなかった。
真夏)いいの。でも、そろそろ言わないと。
○○ちち)分かってる。でも、やっぱり…
真夏)うん…
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○○)はぁ…
向き合うべきなのだろうか、ぼくは。
僕を捨てたあいつらを、許すべきなのだろうか。
今まで逃げてきたけど、本当にそれでいいのだろうか。
わからない。
飛鳥)悩み事かい?
○○)あ、飛鳥さん…
飛鳥)見たことない顔してたぞ、大丈夫?
○○)大丈夫です。
飛鳥)ふっ、隠すの上手いね。でも私には通じないよ?
○○)え?
飛鳥)何か悩んでるんでしょ?教えてよ、それとも私に教える価値はない?
僕の目を見る飛鳥さんは、まるで僕の心を奥を見透かしているようだった。
僕は、気持ちを誤魔化すように外を向き、独り言を呟くように話し始めた。
○○)…逃げることって、ダメなことなんですかね。
飛鳥)なにから逃げるの?
○○)嫌なことからです。ちゃんと向き合うべきなのかな〜って。
飛鳥)…別にいいんじゃない?逃げても。
○○)いいんですか?
飛鳥)ダメって叱ってくれるのを期待してた?笑、私だってやりたくない仕事来たら断るしさ、別に逃げることは悪いことじゃないと思うよ。
○○)そう、ですか…
飛鳥)でも、いつかは必ず向き合わなきゃいけない時が来る。嫌な仕事も、聞きたくないことも。
○○)え…
僕の悩みに気付いてる?いや、たまたまか。
飛鳥)ま、そのうちでいいんだよ、焦らなくても。
○○)ありがとうございます。
飛鳥)ふふ、君でも悩むことはあるんだね笑
○○)なんですかその言い方〜!
飛鳥)あっはっは笑笑
飛鳥さんの言葉に、少しだけ心の深い傷が癒やされた気がした。
美波)いい感じじゃん、二人とも。
To be continued……
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