Dear… 第十四話「そして君は飛び立つ」
それから、僕たちは毎日動画を撮り続けた。
どんなことがあっても撮ることはやめなかった。
それは、これから産まれてくるさくらのため、そして僕たちのために。
気づけばもう、予定日の2ヶ月前になっていた。
○○)飛鳥。
飛鳥)……。
飛鳥は眠っている。
この頃、飛鳥は寝ていることが多くなった。
体が弱くなっていっているのだと思う。
その証拠に、飛鳥自身の身体も、だんだんと痩せていた。
抗がん剤により髪の毛だって抜け落ちていた。
そんな飛鳥を、僕はただ見つめることしかできなかった。
○○)飛鳥、、、。
涙を拭いながら、飛鳥の頬を撫でる。
僕はこんなにも弱いのに、飛鳥は違かった。
飛鳥は決して僕に涙など見せなかった。
誰よりも辛いはずなのに、どんな時も笑顔だった。
今だって、辛い表情ひとつせずに眠っている。
どんな夢を見ているのだろうか。
きっと、幸せな夢を見ているのだろう。
そうであってほしい。
美波)大丈夫?
○○)あ、梅澤さん…
美波)ちょっと話そっか?
○○)はい…。
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美波)落ち着いた?
○○)はい、ありがとうございます。
美波)飛鳥さん、心配だよね…。
○○)はい…。
美波)○○くん?
○○)なんですか?
美波)いい、これだけは忘れないで?飛鳥さんにとって、一番大切なのは飛鳥さん自身じゃない。さくらちゃんなの。
飛鳥さんが命懸けで産もうとしてるさくらちゃんを、あなたが守るのよ。そして最期まで、飛鳥さんのことを笑顔にしてあげること。それがあなたのしなければならないこと。
梅澤さんは、親の在り方を教えてくれた。
それを心に留めて、僕はずっと気になっていたことを聞いた。
○○)…あの、ずっと気になってたんですけど、梅澤さん、前に子供を産んだことがあるって…
美波)…うん、あるよ。ちょうど2年前かな?
○○)2年前、ってことは僕と梅澤さんが出会った時くらい?!
美波)うん、その時かな。
○○)でも子守りとかは?
美波)……、いなかったのよ。
○○)え?
美波)私、不倫したの。高校の頃の彼氏とね。それで不倫がバレて、子供は産まれた直後に旦那が引き取ったの。だから、私の元に子供はいなかったの。
○○)そ、そんな…
美波)ほんと、最低だよね…笑、結局旦那も彼も子供も全部失った。誰よりも子供を大事にしなかったのに、2人にこんなに偉そうに色々言ってるの。情けないでしょ…?
○○)梅澤さん…
知らなかった。梅澤さんにそんな過去があったなんて。
○○)今、お子さんは無事なんですか?
美波)わからない…旦那からは、もう連絡来てないから…。遥香、、、!!
梅澤さんが泣くのを見たのは2回目だ。
1回目は僕が飛鳥さんにプロポーズをした日。
でも、あの時の涙と今の涙は違うと思う。
今は、子供を想う母の涙だ。
○○)きっと、きっと大丈夫ですよ。遥香ちゃんは梅澤さんに似て強く育ってますよ。信じてあげましょう、自分の子供なんですから。……っ!!
そうだ、そうだよ。自分の子供なんだから、信じてあげないと。
さくらは、僕の大切な、大切な子供なんだ!
飛鳥)ん…○○、来てたんだ…。
○○)飛鳥っ!
飛鳥)もう、どうしたの?私寝てただけだよ?笑
○○)絶対に、絶対にさくらは大丈夫!ちゃんと育ってるよ、ちゃんと産まれてくるよっ!!
飛鳥)本当にどうしたのいきなり笑
飛鳥は泣き出す○○を、細くなった手で撫でていた。
美波:(もうすぐ、か…遥香の誕生日。遥香、あなたはきっと大丈夫よね?またどこかで、会えるよね?)
美波は心でそう呟きながら、病室を後にした。
飛鳥)○○。
○○)ん?
飛鳥)あのね、お願いがあるの。
○○)うん、なんでも言って。
飛鳥の手を、両手で包み込む。
飛鳥)さくらが産まれる時、わたしが死んじゃう時、○○には笑顔でいてほしいの。
○○)え?
飛鳥)泣きながらお別れなんて嫌だから。最期くらい、笑って、幸せだったねって、笑い合って、、、!
○○)飛鳥…。
飛鳥が瞳を濡らして言う。
抑えていたものを全て吐き出すかのように泣きながら、言葉を紡ぐ。
飛鳥)さくらの前で、悲しい顔なんてしたくないからっ…!
だから、だからっ、笑顔でいようね…?
○○)うんっ、、、うんっ、、、!!
さくらが産まれるその時まで、決して涙を流さないと、この日、涙を流しながら決めた。
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そして、2ヶ月ほど経った10月3日。
○○)飛鳥っ!!大丈夫だよ飛鳥!!
飛鳥)ふぅ〜!!ふぅ〜…!!
○○)頑張って!!頑張って、、!!
分娩室に入ってから何時間経っただろうか。
飛鳥はずっと悶えている。
細い身体で、必死に耐えている。
僕は飛鳥の手を握って、ひたすらに応援することしかできない。
看護師)もう少しですよ〜〜!!!頑張って〜〜!!
飛鳥)ヴゥゥゥゥゥ!!
○○)飛鳥っ、、、!
飛鳥の苦しそうな表情に、思わず目を逸らしてしまう。
看護師)旦那さん!!ちゃんと奥さんを見てあげてっ!!
○○)は、はいっ!!
飛鳥)○、、、○……!
○○)どうした?!
飛鳥は僕の手を握ると、優しく微笑んだ。
飛鳥)笑って…?約束、したでしょ?
○○)飛鳥……
僕は、涙を押し込んで微笑んだ。
○○)飛鳥、頑張って!
飛鳥)うん…!
看護師)もうちょっとですよ〜!頑張ってくださ〜〜い!!
それから、僕は笑顔で飛鳥を応援し続けた。
飛鳥も、悶えながらも笑顔を崩すことはなかった。
そして…
看護師)来た!!
ついに、さくらが産まれた。
○○)飛鳥、頑張ったね…
飛鳥)うん…さくら、、、
誰もが安心したその時、
看護師)泣いてない!!
○○)え、、、?
さくらは泣かなかった。
それはつまり、呼吸していないことを意味していた。
看護師)このままじゃ…
看護師さんが背中を叩いても、さくらは泣かなかった。
無駄だったのか、僕たちの努力は、飛鳥は覚悟は…
違う。
違う!
決して無駄なんかじゃない。
無駄にしてはいけはい!
飛鳥が紡いだ命を、絶やしてはいけない!!
さくらのためにできること、飛鳥のためにできること…
○○)さくら!!
飛鳥)○…○、、?
それは、さくらを、叱ること。
それが、僕がさくらのためにする初めての親らしいこと。
○○)ママが命かけて産んでくれたんだぞ!!ママに声を聞かせてあげなさい!!私は大丈夫だよって、教えてあげなさいっ、、、!!!
……。
……。
「…ぇ…ぇえええええぇん!!」
○○)さく、ら…?
さくらは、大きな声でないた。
飛鳥に届くように、大きな声で…。
医者)き、奇跡だ…!
飛鳥)さ、く…ら、、、!
○○)飛鳥っ!!さくらだよっ、、!!ちゃんと元気だよっ、、、!!
飛鳥)さく、ら…さく、ら…!!
○○)飛鳥っ、、!!
○○は、さくらを飛鳥の腕に渡した。
飛鳥)ぁり、がと…さく、ら…!
飛鳥は細い腕でさくらを抱きしめ、頭を撫でた。
そして…
飛鳥)○、、、○…?
○○)ん?
飛鳥)ぁり…と……
○○)っ…こちらこそ、ありがとう、、、飛鳥っ!
飛鳥)ぅん………、あい、し、てる…!
静かに微笑んで、そっと息を引き取った。
To be continued……
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