Dear… 第五話「読唇術」
死んだような目の面白い人、
最初はそんな印象だった。
飛鳥)お願いしま〜す…
○○)お預かりしま〜す…
ピッ、ピッ
○○)お会計810円になりま〜す。
飛鳥)はい。
○○)ちょうどお預かりします。ありがとうございました〜…
深夜のコンビニなんて変な人しかいないし、普通に接客してくれるならそれでいいと思い、毎日行くようになった。
そんなある日、
美波)よかったじゃん、話せて。
○○)別に嬉しくなんてないですよ。
美波)素直になればいいのに笑
親しそうに肩を叩く女性と、それをされてなんとも言えない表情を浮かべてる君。
少しモヤっとした。
多分自分より親しい人がいたことが悔しかった。
嫉妬ではなく、対抗心。
特別な感情じゃなくて負けず嫌い。
ただそれだけのこと。
でも話してるうちにそんな対抗心も消え、梅とも仲良くなった。
それでも、梅と○○くんが話していると、モヤっとした。
なんでだろう、ずっと答えが出なかった。
答えが出たのはそれからすぐのこと。
男)バイト?就職じゃなくて?
○○)はい。
男)ふ、ダッサ笑
○○)…!!
男)もうみんな就職してるぞ?なのにこんなとこでバイトとか、ダサすぎ笑、だから親にも捨てられるんじゃねえの?笑
無性に腹が立った。
イライラした。
ぶん殴ってやりたかった。
○○くんはお前なんかと違う。
○○くんは、○○くんは…
あれ、私、○○くんのなにを知ってるんだろう。
私にとって、○○くんってなんなんだろう。
美波)飛鳥さん、もういいですよ。
飛鳥)え?あ、○○くん…大丈夫、○○くん。
○○)…くっ!!
飛鳥)○○くん!!
なにも知らないじゃん、私。
○○くんが隠してることも、○○くんがどこに行ったかも…
なにも、なにもわからないじゃん。
そして、ある言葉を思い出した。
「あぁそっか、これが恋なんだね。あなたをもっと知りたい、あなたをもっと感じたい、あなたともっと一緒にいたい…これが恋なんだね。私、ようやくわかったよ。私は、きっと…」
興味がなかった主演映画。
まさか、そこに答えがあったなんて。
飛鳥)「私は君が好き。」
そのセリフの意味が、やっとわかった。
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飛鳥)ねぇ。
○○)はい?
○○たちは、コンビニまで戻る道を歩いていた。
飛鳥)一応確認だけどさ、あんたは私のことが好きってことでいいの?
○○)そう、なりますね。
飛鳥)じゃあ、あんたと私は付き合ってるってことで、いいの?
○○)そう、ですね。
飛鳥)ふ〜ん、あっそ…//
○○)照れないでくださいよ。
飛鳥)ばっ、照れてなんてないっ!
○○)本当ですか?
飛鳥)ほ、本当だ…
○○)ふふ、隠すの下手ですね。
飛鳥)ムカつく〜…!
話しているうちにコンビニへと戻ってきていた。
美波)お帰りなさい!
○○)すみません、迷惑かけちゃって…
美波)気にしないで。それより、もう大丈夫?
○○)はい、大丈夫です。
美波)そ、よかった。で、それは何かな〜?笑
梅澤さんは僕たちの絡まっている手を指差す。
○○、飛鳥)あっ!
○○)なんでもないです!
飛鳥)これは、違うから!
美波)2人とも、隠すの下手だね〜笑
慌てて手を離したけど、手遅れだったみたいだ。
気まずそうに下を向く僕と飛鳥さん。
それとは対照的にずっとニヤニヤしている梅澤さん。
変な光景だ。
美波)あ、そろそろ子供が起きちゃう〜笑、またね〜!笑
○○)あ、ちょっと!
あからさまに分かりやすい嘘をついて、梅澤さんは店を出て行った。
外は既に明るくなり始めていた。
○○)飛鳥さん。
飛鳥)な、なに…
○○)明日も、きてくれますか?
飛鳥)…うん、明日も明後日も、ずっと来るよ。
○○)ふふ、これ。
僕はくしゃくしゃのレシートを差し出した。
飛鳥)「また来ます」…ってこれ!
○○)また、お待ちしてます。
飛鳥)ふふ、ちょっと貸して!
飛鳥さんがレシートに新しく文字を書く。
飛鳥)ん。
「好き」
○○)口で言ってくださいよ笑
飛鳥)いやだ笑
それだけ言い残して飛鳥さんは去っていく。
自動扉が開いた時、振り返った。
(す、き)
その時だけ、読唇術が使えた。
To be continued……
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