Dear… 第15.5話「あなたへ」
○○)さて、と…動画、編集しないと。
僕は、飛鳥と撮った記録を編集していた。
カメラで撮ったデータをひとつひとつチェックしながら繋ぎ合わせる。
特別な加工なんていらない、ただ繋ぐだけの動画。
さくらに見せるために
飛鳥に届くように。
○○)ん、こんなのあったっけ?
見覚えのない動画を見つけた。
8/10に二つの動画がある。
一日一本のはずなのに。
○○)飛鳥が撮ったのかな?確認しよ。
そう言って僕は、動画を再生した。
「お、きたきた…どうも、飛鳥です。これを見てるってことは、さくらは無事に産まれて、私はいない、ってことになるのかな?良かった良かった。」
そこには、あの飛鳥の姿があった。
○○)いつのまに撮ったんだ…?
飛鳥は一度自分のお腹に視線を移した後、再びカメラを見て続けた。
「さて、○○。まずはごめんね、さくらを任せちゃって、私だけ先にいっちゃって。ほんとは私だってもっと長生きしたかったんだけどね〜、癌には勝てなかったね笑。」
○○)笑いながら言うことじゃないよ、、笑
こういうところは、相変わらず飛鳥らしい。
「ということで、ここからは少し真面目に。
これから親になる○○に、私から伝えたいことがあります。
一つ、さくらの前では決して涙を見せないこと。何があっても、笑顔でいること。そうすれば、さくらも笑顔が絶えない良い子に育つと思います。
二つ、絶対にさくらを悲しませないこと。私にとって何よりも大切なのはさくらです。○○も、同じ気持ちだと思います。だから、さくらを悲しませたりなんかしたら呪ってやります。笑
三つ、時には心を鬼にして、厳しく叱ってあげてください。甘やかしてばかりじゃ良い子には育ちません。ダメなことはダメって、はっきりと言ってあげてください。
四つ、……」
飛鳥は優しく、それでいて力強く言葉を紡いだ。
その言葉には、さくらを幸せにしてあげたいという意志が感じられた。
その言葉を、僕は一つずつ心に刻んだ。
「それから、辛くなったら誰かに頼ってください。梅とかごりょうしんとか、○○の周りには頼れる強い人がたっくさんいます。もし良い人がいたのなら、その人と再婚してください。私が許可します!笑
子育て大変だと思うけど、頑張ってね!」
○○)ふ、言われなくても分かってるよ、笑
「あ、そうだ。私のものは好きにしていいよ。売ってもいいし誰かに渡してもいい、自由にして。でも、絶対に他の人に渡したくない宝物があります、三つね。
一つ目は、さくらです。これは言わずもがなだよね笑
そして二つ目は○○です。さっき再婚してって言ったばかりなのにね笑
最期に三つ目。それは、○○との思い出です。
初めて出会った日、プロポーズした日、プロポーズされた日、何気ない毎日だって。全てが私の大切な宝物です。○○にとっても、そうだったら良いな…笑」
そこまで告げた後、飛鳥は少し言葉が詰まって俯いた。
「…○○と出会ってから、私の人生はガラリと変わりました。それはもちろん、いい意味でね。あなたと過ごした日々は、1日たりとも忘れたことはありません。今だって、あなたへの想いで、私はっ、、、胸がいっぱいですっ、、!」
そこまで言って、飛鳥は泣き出した。
「もっともっと、一緒にいたかったよ…一緒にさくらを育てたかったよ、、、!!
でも、それは叶わないもんね……
だからせめて、これからのあなたにたくさんの幸せが訪れることを願っています。
美味しいご飯を、お腹いっぱい食べてください。
休みの日は、自分のやりたいことを気が済むまでやってください。
さくらが大人になったら、一緒にお酒を飲んでください。
私の分まで、たくさん、たっくさん幸せになってください、、!!
それが、私の1番の願いです。
最期に。
今まで本当にありがとうございました。私は○○に出会えて、○○と結婚できて、本当に幸せでした。愛しています。
親愛なる○○へ、飛鳥より。」
○○)あす、か…!
動画が終わるとともに、飛鳥と過ごした数多の想い出が蘇ってきた。
「本当に毎日いるんですね笑」
名前も知らなかったあの日。
「…別にいいんじゃない?逃げても。」
初めて悩みを打ち明けた日。
「私は捨てない!!私は、絶対にあなたを捨てたりしない!!だから、だから…私の愛を受け取ってよっ!!」
告白をされた日。
「ふふ…よろしくお願いします。」
告白をした日。
「これからお父さんになるんだよ。」
子供ができたと分かった日。
「○○、私決めたよ。産もう、この子を。お腹の中の子を。」
癌と闘うと決めた日。
「うん、絶対さくらがいい!」
子供の名前を決めた日。
「あい、し、てる…!」
最期を看取った日。
飛鳥と過ごした一千一秒の想い出が、何度も何度も頭の中を駆け巡った。
それは、1人の平凡な男が国民的大女優と出会い、恋をして、結婚をして、子供を授かる。
そんなドラマのような物語。
でもそれはドラマなんかじゃない、確かにここにあった。
僕と飛鳥の、本当の物語なんだ。
○○)飛鳥…ありがとう、、、!
僕は笑顔で、そう告げた。
飛鳥のために
自分のために
そして
さくらのために……。
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○○)よし…これでいい、かな。
僕は、あの動画のデータが入ったUSBを飾った。
そこには、飛鳥の写真と飛鳥の指輪も一緒に飾ってある。
○○)飛鳥、見守っててね。
写真立てに飾ってある写真が、少しだけ微笑んだ気がした。
To be continued……
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