偽りの愛を手放した時、本当の愛を知る
○○)っしゃチャンピオン〜〜!!
クーラーがきいた部屋にベッドに座り、エナジードリンクを飲みながらゲームをする。
これが俺の夏休みだ。
最高に最幸な時間。
できればずっと続いてほしいとさえ思う。
さて、次の試合に、
ピンポ~ンッ!
○○)っ…なんだよ〜、邪魔すんなって。
こんな真っ昼間に俺の家にくるのは2択。
宗教勧誘のおばちゃんか、もしくは…
??)聞いてや!あいつ、やっぱり浮気しとった!!
○○)まずはお邪魔しますだろうが、聖来。
聖来)今更何言うとるん?そんなことより!ほんまに酷いんやで?
人ん家の冷蔵庫を勝手に物色しながらぶつぶつと喋るこいつだけだ。
---
聖来)っあ〜〜っ!!ほんでな、こっからが酷い話なんやけど〜…
ほろ酔いの缶が3つ。
こいつの手にあるので合計4つ。
もはやボロ酔いだ。
聖来)聖来が「昨日何しとったん?」って聞いたら、「友達と遊んでた〜」言うて、絶対嘘やん!って思ったんよ。
○○)うん。
聖来)で、後日その人に確認したら遊んでないって言うとって、結局女と遊んでたわけよ!
○○)そっか。
聖来)あ〜腹立つわ〜!2度と顔も見たくあらへん!!
○○)そうだな。
聖来)○○も、そう思うやろ?!
○○)うん、そうだね。
聖来)やっぱりな!聖来は何も間違ってないねん!!
顔を赤く染めて、胸を張る聖来。
こうなれば適当に返事しても大丈夫だ。
○○)おい、まだ飲むの?
聖来)当たり前やろ!まだまだ行ったるで〜〜!!
○○)やめとけ。てかやめろ、俺の金だぞ?
聖来)そんなん知らんし〜!
○○)全く…ほらっ。
酒を持つ手を掴んで静止させた。
聖来)な、離せ〜!!
○○)暴れんな、ったく…
ジタバタする聖来をベッドに押し倒して、キスをした。
聖来)ん…///
聖来も、それに応えるように俺にキスをする。
○○)今日はどうする?
聖来)○○の、好きにして…?
○○)じゃ、そうする。
そう言いながらキスをして、好きなようにシてやった。
---
聖来)はぁ〜、なんで聖来ってこんなに男運ないのやろ…
好き放題してやったあと、聖来は俺から毛布を剥いで包まった。
○○)お前が誰でもすぐ好きになるからだろ?
聖来)そんなことあらへんわ!…多分、、、
○○)元気出せよ、また良い人見つければいいじゃん。
聖来)う〜ん…せやな〜…
この時の聖来の淋しそうな顔が、なぜだか嫌になって、
○○)っ…ちょっと動くなよ?
聖来)へ?ちょっ…!
俺は聖来のうなじに口付けた。
聖来)な、何しとるん…//?
○○)……よし、できた。
聖来)なんやねん。
○○)キスマつけといた。新しい人見つかるまで、聖来は俺のだから。
聖来)なっ、、もう〜…
俺と聖来は、いわばセフレだ。
好きな時にスる楽な関係。
いつからかは覚えていない。
いつの間にかそうなった。
とはいえ、俺から誘うことはない。
今日みたいに、あいつが誰かから振られた時、俺のとこに来る。
そして俺は聖来を慰める。
聖来にまた新しい彼氏ができるまでの間だけ、俺は聖来のセフレになれる。
つまりは一方通行の都合の良い関係だ。
まあ、こいつが男と2ヶ月以上続いたことはないが。
聖来)○○はさ、聖来のことが好きなん?
○○)…好きって言ったほうがいいか?
聖来)なんやそれ…ふふっ。
○○)ふっ、もっかいやるか。
聖来)な、まだするん〜?!
その方が、楽で良いだろう……お互いに。
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あれから一週間ほど経ち、今聖来は俺の家に居候している。
愛が重い聖来は彼氏ができるとすぐ同居したがる。
一時も離れたくないらしい。
だから聖来は自分の家がない。
誰かと付き合えばそいつの家に住むし、誰とも付き合ってない時は俺の家に住みつく。
寄生虫のようなものだ。
聖来)なぁ。
○○)……。
聖来)なぁなぁ。
○○)……。
聖来)なぁなぁなぁ。
○○)……。
聖来)なぁなぁなぁなぁ!
○○)うるせ〜!んだよ今ゲームやってんのに…
聖来)うちよりゲームの方が大切なん?!
○○)当たり前だ。
聖来)なっ、…もう知らんし!勝手にしぃ!!
○○)おう。
ヘッドセットを付け直して画面に集中する。
これはワンチャンダブハンいけるぞ…
聖来)……。
○○)……。
聖来)う、うぅ…
○○)……。
聖来)なぁ構ってや〜!
○○)おい抱きついてくんなよ!あっ!!
「Game Over」
○○)うわぁぁぁぁ!!!俺のダブハンが〜……
ひっつき虫も追加だ。
聖来)なんでそんなゲームばっかするん…?聖来は○○の何なん…?
○○)昨日あれだけ構ってやっただろ?お前は1人の時間というものはないんか?
聖来)だって、寂しいんやもん…
聖来は今にも泣き出しそうになっている。
やべぇ。流石に言いすぎたか。
○○)分かったよ、俺が悪かった。ほら、構ってやるから元気出せ、な?
コントローラーを置いて、聖来と向き合った。
聖来)ほんまにええの…?
○○)まあゲームなんていつでもできるし。でも、聖来とはいつでもできないだろ?
そう言いながら聖来を押し倒した。
聖来)○○…
聖来が妖艶に微笑む。
聖来)ほんまにちょろいな?笑
○○)………喋れなくしてやる。
聖来)んあっ、あかん!冗談やん?!ちょっと待ってぇ〜〜!!
たっぷりとお仕置きしてやった。
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○○)流石にやりすぎ。疲れた…
聖来)○○の性欲が強すぎんねん。
○○)俺は別に強くねえよ。強いのは聖来の方だろ?
聖来)うわ、女の子にそんなこと言うなんて…だからモテへんのやで?
○○)うるせえ。余計なお世話だ。
聖来)ふふ、やっぱ落ち着くな〜、○○といると。
○○)…な、なんだよ急に。
聖来)なんでも。そや、ちょっと指出して?
○○)指?ほい。
右手を差し出すと、聖来は薬指に指輪をはめた。
○○)何これ?
聖来)聖来からのプレゼント。ほら、前に予定すっぽかしたことあったやん?それの謝罪も込めて、な?
聖来が一個前の元カレと付き合う前。
俺とデートに行く約束をドタキャンしたことがあった。
後から理由を聞くと、元カレにデートに誘われたかららしい。
少しモヤっとしたが、そういう関係が俺らなんだと割り切って気にしていなかった。
そんな前のことを覚えていてくれたことに、なんだか少しだけ照れくさくなった。
○○)別に気にしなくてもいいのに。ま、ありがと。
聖来)聖来といる時は、毎日付けてな?
○○)めんどくさい。
聖来)はぁ?!その指へし折ったろかぁ!!
○○)うわっ、おいやめろっ!!
その後なんやかんやで二回戦が始まったのはいうまでもない。
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あれから1ヶ月。聖来にしては珍しく男の話を一切聞いていない。
少しでも気になる男ができたら真っ先に俺に話してきたのに。
聖来)なぁ、
○○)ん?
聖来)ちょっとお出かけせえへん?
○○)え〜、暑いの嫌なんだけど。
聖来)ええやんか〜!聖来は○○のなんやろ?笑
○○)なっ、…わ〜ったよ。
聖来に誘われることなんて滅多になかった。
今まで落ち込んでるこいつを慰めるために俺がどこかへ連れて行くことはあったが、それほど前の彼氏の思い出がつよかったのだろうか。
聖来)ほら、はよ準備して!
○○)はいはい。
俺は近くにあった服を適当に着て準備をした。
○○)こいつは…一応持ってくか。
引き出しで眠っていた指輪を右の薬指にはめて、部屋を出た。
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聖来)ほら、可愛えやろ?!
○○)そうだな。
聖来は大きな鳥を抱き抱えている。
聖来)ええ子やな〜…
聖来に連れてこられたのは動物園だった。
こいつ、そんなに動物好きだったっけか?
聖来)あ、寝ちゃった笑
○○)安心してんだろ。
聖来)ふふ、なんか赤ちゃんみたいやな笑
○○)……。
変なことを言う奴だ。
赤ちゃんって、そんな……
○○)誰との子?
は?何言ってんだ俺。
聖来)ん〜…内緒。笑
○○)…そっか。
内緒、か…。
誰なんだろうな、瞳に奥に写っている相手は…。
聖来)○○も、持ってみる?
○○)え?あ、うん。
何考えてんだ俺。熱でもあんのか?
聖来から寝ている鳥を手渡された。
○○)……可愛い。
あったかいな…本当に赤ちゃんを抱いているような気持ちだ。
聖来)ふふっ…ええ顔してるで?
○○)え?
聖来)お父さんみたいな顔。
○○)なんだよそれ…
聖来)…ええなぁ、、、、
妙に気まずくなって、目を背けた。
聖来)あ、起きちゃったやん!
○○)え、あぁ…
目が覚めた鳥は、そのまま止まり木の方へ飛んでいってしまった。
聖来)もう、なにしとるん?
○○)ごめん。
聖来)まぁええけど。次行こ?
○○)うん…。
胸の奥の、変な気持ちをごまかすために俺は聖来よりも前を歩いた。
---
聖来)楽しかったな〜。
○○)なら良かった。
聖来が一目惚れで買ったナマケモノのぬいぐるみの腕を片方ずつ持ちながら、帰り道を歩く。
聖来)なぁ、○○はさ、聖来のこと好き?
○○)どうしたんだよ急に。
聖来)ええから答えて!
○○)…まぁ、好きか嫌いかで言ったら、好きだな。
聖来)ほんま?!なぁなぁ、どのくらい好き?
○○)なんで急にそんなこと聞くんだよ、俺らただのセフレだろ?
恥ずかしくなって、そんな言葉で誤魔化した。
聖来)、、、そっか、そやんな…うちら、ただのセフレやもんな…。
○○)そうだよ、特に聖来の方から勝手に来て、勝手に来なくなる。そんなお互いに楽な関係が俺らだろ?
聖来)……。
聖来がどんな顔をしてるか分からなかったけど、多分、笑顔ではなかったような気がする。
聖来)このナマケモノ、子供みたいでかわええよな。
○○)うん。
聖来)あんな?聖来、子供が欲しいねん。
○○)え?
聖来)結婚して、子供が産まれて、2人で育てて…そんな幸せな家族になりたいねん。
○○)そうなんだ…。
聖来)そうなれると思う?
○○)……なれるよ、聖来なら。
聖来)ありがとう。○○は、聖来のこと、好き?
○○)……好きだよ。
聖来)…聖来も好きやで。
それ以降、僕らが会話を交わすことはなかった。
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○○)ん…朝か……。
次の日、目が覚めると隣に聖来はいなかった。
○○)荷物もない…新しい男か。
昨日のは、新しい男の元へ行く前の最後のデートだったのかと思うと、なんだか腹が立った。
○○)まあいいや。これで静かになったし、どうせまた数ヶ月後に帰ってくるだろうけどな。
そうだ、別に寂しくなんてない。
これで好きなだけゲームができるし飯も自分の好きな時に食える。
自由な暮らしが帰ってきた。
そうだ…これでいいんだ…きっと。
○○)なんか送っとくか…。「今度は2ヶ月以上続かせろよ笑」っと。
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しかし、それから何ヶ月経っても、聖来が帰ってくることはなかった。
2ヶ月、3ヶ月、半年、一年…
どれだけ時が経っても、聖来は帰ってこなかった。
「…聖来も好きやで。」
最後に聞いたその言葉が、いつまでもいつまでも俺の耳に残っていた。
○○)こいつももういらねえな。
すっかりホコリをかぶったゲームを押し入れにしまおうとすると、あの時もらった指輪が目に入った。
○○)これ…
結局、つけたのはあの時の一度きりだった。
俺は指輪を右の薬指にはめた。
○○)……。
暖かかった。
それがなんだか気持ち悪くて、俺は指輪をはずした。
○○)なんだよ…
たまらなくなって外へ出ると、なんだか肌寒くて、長袖一枚じゃ足りなかった。
手のひらに向かって吐いた吐息は
コンクリート色の空に向かって
静かに消えた。
そういえば
俺は今まで
誰かを本気で好きになったことなんて
あるのだろうか。
何もかもを捧げられるくらい
何もかもを忘れられるくらい
そんな忘れられない恋をしたことが
あるのだろうか。
きっとそうだ。
その相手が、聖来だったんだ。
俺は聖来に恋をしていたんだ。
聖来のことが好きだったんだ。
なのに、俺は…
既読のつかないいつかのメッセージを、俺はただ眺めることしかできなかった。
一滴の雨粒が、画面へと落ちる。
二滴、三滴、四滴…それはどんどんと増えていき、携帯を濡らしていく。
やがて、メッセージは見えなくなっていた。
体を打つ雨は冷たく、瞳から流れる涙すらも、冷たかった。
何もかも、冷たかった。凍えそうなくらい、冷たかった。
「聞いてや!あいつ、やっぱり浮気しとった!!」
「○○はさ、聖来のことが好きなん?」
「ほんまにちょろいな?笑」
「ふふ、やっぱ落ち着くな〜、○○といると。」
「ふふ、なんか赤ちゃんみたいやな笑」
「…聖来も好きやで。」
あの夏の思い出は、季節外れの雨とともに、今日の秋へと流れ落ちた。
fin.
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