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NO LIMIT BOY -あの日の少年- 永遠のバイク乗り達へ捧ぐ
15mほど先にあるグリーンのLEDに急かされて
やや乱暴にクラッチをつないだ
まだ温まりきっていない4サイクルのエンジンが、
一瞬、息継ぎをして、もどかしく吹け上がる
「またバイクの事故らしいわ、あなた気をつけてよホントに…」
ニュース番組、液晶画面、お決まりの妻の台詞
ギアを踏み込み、スモークシールドを押し下げながら
自問自答し、そして再確認する
いま自分は何をしているのかと。
目的は何だ、目指すべき場所はあるのか
単車というリスクの塊に跨り、
路上をあてもなく疾駆する
目的地があるのなら、
その行為は、ただの移動手段へと成り下がる
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傍からどう見られているとか、
何を言われているだとか
そんなことはどうだっていい
割に合わない、危険だと?
それも大した問題じゃない
知りたいのは、自身の魂に確かめたいのは
走り続けている意味だ!
熱帯夜が明けたパーキングエリア内に、
“四ツ輪”の通過音と、無機質な音声案内だけが響く
目指す者など存在しない
マニュアルも手本もない、
待ってくれている人どころか、
存在を気にかける者さえいない
分かち合える同志は皆、
利口者へと変わっていった
羨望や賞賛などとは無縁だ
そもそも風の中にいる自分を、
誰が理解できるはずもない
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己が先駆者であり、当事者であり、
終幕までの未届け人だ
いいだろう、自分だけの問題なのさ
そもそも単車乗りとは孤独なもの
いや、孤独からは逃れられない運命
誰と徒党を組もうが、ツルもうが、
所詮、最期はひとりで
自身の立ち位置に苦悩することになる
選択肢は、ふたつにひとつ
降りるか、乗り続けるかだ!
しかし、リアルな答えは、
単車乗りでありつづける、本当の意味とは
そのどちらでもない
… 覚えているか、
初めて単車に跨った、あの日のことを
期待と不安に震える手でKEYをまわし
底知れぬ力と可能性を手にした、あの瞬間を
魂を鷲掴みにされ、揺さぶられ、
心湧き立ったあの感覚を。
何ひとつ変わっちゃいない
何ひとつ変われない
あれからずっと…
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「いい加減、降りたよ、いろいろと危ないしね、」
「コケたら高くつくらしいじゃないの、」
「腰にも悪いって、かかりつけ医が言ってた、」
「いい値が付いたさ、ハイブリッドはいいね、」
「ハイオクだって? 贅沢だねぇバイクのくせに、」
バイクのくせに
バイクのくせに…。
退屈な声と、常識と、
当たり障りの無い会話と、
妙に居心地のいい微風が
心の奥底に燻り続ける炎を、
ほんの少しずつ、吹き消していく。
輝きかけた瞳
路肩に捨てられた約束
革と油と排気の匂い、
気づかぬうちに蓋をされた情熱
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片意地、頑固者、時代遅れ、いい大人が…、
すべて、聞き飽きた!
「ヘッ、オトナのアタマで考えるから、
あれこれ“損得勘定”するんだろう⁉」
「だったら歳に負けず走ればいい」だと?
違う、そんな次元の低い話じゃない
分からないのか、勝者なんて何処にもいない、
正義の味方も、ヒーローも、
「無垢な心の中にしか」存在できないもの。
問題なのは、
違和感を、何かに駆り立てられる気持ちを、
自分の向かうべき本当の場所を
今、本能で感じるかどうかだ!
計算するな、跨がれ、目ざすは“煌めき”
燻り続けている炎に、
わだかまりという逆風を吹き込め
そして魂の導くまま走ればいい
単車乗りという名の
“あの日の少年”であり続けるために