宦官の恋
長慶には復讐の他にもう一つ
たいせつなことがあった
それはある女官との恋だった
亡くした(と長慶は思い込んでいる)妹の面影のある
明るく食いしん坊で純粋な娘
彼女にいつも自ら作った菓子を差し入れ
その笑顔を見て喜びを覚える
いつしかそれが長慶の癒しになってゆき
彼女をこの世で最も大切な宝物のように思う
記憶を失い従兄の邸で過ごした妹(ヒロイン)とは違い
長慶は目の前で家族を惨殺され
一人孤独の中生き抜いてきた
暗闇のなかの一条の光
それが彼女だった
しかし長慶は復讐を終えたら死ぬつもりでいた
彼女がいると彼女にも累が及ぶ
家族が眠る墓の在りかを知ったとき
惨めな野晒の墓の前で涙ながらに誓う
それが
"そのシーン"だったーーー
この終始独白のみで撮られたシーン
涙を流しながら
男として彼女を愛すことができない哀しみ
幸せな人生を選ぶことができない悲しみ
全ての台詞を言い切ったのち静かに叩頭するこのシーンで私は震えるほど感動した
ここで初めて長慶ではなく
演じている俳優に思い至った
このすばらしい演技をする俳優はいったいどんな人だろうと
張暁晨という名を初めて頭に
心に刻みつけたのだった
立板に台詞を言い続ける他の俳優とは一線を角す演技。その表情、所作、纏う空気ーーー張暁晨とは、どんな俳優なのだろう。
調べ始めてまず私が驚いたのは、彼は代表的な演技の専門学校ーーー中国で活躍する俳優の殆どは中央戯劇学院をはじめ、北京電影学院、上海戯劇学院などの三大名門のほか舞踊、音楽などの芸術系大学の卒業生ーーーを出ていないということだった。
彼は全くの現場の叩き上げだったのである。