鹿とともに
鹿の写真を撮るのが趣味な私にとって、玄関開けたら鹿がいる生活が理想である。したがってどこでも住めるのであれば、住みたいのは奈良公園内である。東大寺や春日大社の境内地でないところで、鹿の行動範囲にひっそりと息をひそめて住むのが理想だが、その理想を体現している建物が一つある。これである。
江戸三という料理旅館であって、一般の住宅ではないのだが、趣といい小ささといい、私が思う住みたいという条件にぴったりである。窓を開ければ鹿が見えるし、別棟にあるお風呂に行くにも鹿がうろうろいる中を歩いて行く必要がある。実に素晴らしい。人間の居住区域に鹿が入ってきたのではなく、鹿の居住区域に人が入った感が実にいい。
閉じこもって何もせずに過ごし、時折窓から望遠レンズをのぞかせて鹿を撮るだけの生活。だんだんと鹿にのみ心を通わせるうちに、いつしか私自身が鹿になる日がくるかも知れない。そうなった暁には、是非とも鹿せんべいをあげにきて頂きたいものである。