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洗濯機を買い替えた話

洗濯機がとうとう逝ってしまったのだった。
かれこれ25年も使い続けたナショナル愛妻号。
誰の愛妻にもなれなかったわたしの愛妻号。
それがとうとう…てゆーか25年も使ったらもう充分なのではと思わなくもない。

最初に、おやおや?どうもおかしいぞと思ったのは2年くらい前だった。
なんとなく違和感をおぼえて一歩下がって、半身を風呂場に入れてまで一歩下がってじっと洗濯機をみたところ斜めになっていた。
明らかに左手前が低い。洗濯機が前のめりになっている。
気がついてみるとなぜ今までこれに気が付かなかったのかと思うほどに斜めだった。
斜めになった原因はおそらくわたしにあった。

もう10年以上も前。
(どんどん遡って申し訳ない。みんなついて来て!)

風呂で読んだ文庫本を洗濯機の上に置いてそのあと片付けたか?!と、ある日たいそうな勢いで叱られたのだった。

うちは洗面所と脱衣所が同じスペースでそこに洗濯機も同居しているスタイルなので、着替えやらなにやらは洗濯機の上に置くようにしていた。

確かに文庫本を洗濯機の上に置いた記憶はあった。若い頃から入浴時=読書タイムだったので文庫本を2冊くらい風呂場に持ち込むのは当たり前。そして風呂上がり。洗濯機の上にぽいっと置いたままにした、ような気がする。
そのまま放置された文庫本が、洗濯機の蓋を開けた際にどうやら後ろ側に落ちたらしい。

それが年月を経て気が付かないうちに徐々に水を含んでぶよぶよになり、排水口が詰まったじゃないか!ほれ見てみろ!と恐ろしい勢いで迫られ、そう言われれば最近排水の流れがよくないなあとは思っていたので、それは申し訳なかった掃除するよと謝罪をし、それからはゴミが溜まれば率先して取りパイプなんとか的なものも定期的にやったりしていた。
それでも徐々にパンの中に水が溜まるようにはなっていた。が、洗濯が終了すれば溜まっていた水もなくなるので、まあまあええやろとあまり気にしていなかった。


次に洗濯機が脚光を浴びたのが例の約2年前の斜め事件だ。
絶妙に前のめりの洗濯機にはそこはかとなく貧乏な香りが漂っていた。
前のめりで生き急いでいるのか。平成を駆け抜けておいて今さら生き急ぐもないけども。

さて。
むむ、と斜めになった洗濯機の足元を覗き込んでアラびっくり。
洗濯機の足、詳しく言えば左前足が腐食してほとんどなくなっていた。
そりゃ斜めになるわ。足がないんだもん。
ずっと水が溜まりっぱなしだったわけじゃないのになあ、とぶうぶう言いながらわたしは、おーい!タイル何枚か持って来てー!と山田くんばりに声を張り、納戸からタイルを持って来てもらった。当たり前のように納戸に使っていないタイルがある家。内装屋さんでもないのに。

そしてタイル一枚ではまだ前のめりだったのでさらにもう一枚重ねた。もちろん一人でできるわけじゃなく、ひとりが洗濯機を持ち上げわたしがその隙にタイルを滑り込ませるという共同作業。
3枚重ねるとだいたい同じ高さになったようだった。
よし!と指差し確認をしてその後は普通に洗濯をした。

そしてその後は、気がつくとヤカラが「あ゛〜〜ん?」と肩で風を切って歩いているように左右どちらかが高くなったり低くなったりして、たまには顎を突き出しているようにもなったりしながら(後ろの足ね)その度に洗濯機の足は徐々に高くなっていった。いちばんよかったのは某インスタントコーヒーの蓋だ。安定感ハンパない。高さも揃う。
気がつくと貧乏な香りどころか、どこからどう見てもザ・ビンボウな風情になっていたが洗濯はきちんとできちゃうもんだから仕方ない。

そう思い続けていたある日。
リビングにいるとどこからかゴンゴンと物音が聞こえた。一定の間隔でゴンゴン。
これはどうやら洗面所方面から聞こえてくる。
行ってみると案の定、洗濯機がゴンゴン言っていた。洗濯槽が回転するたびに「ゴン」「ゴン」と割れ鐘のような音がする。以前はちょっと斜めになったくらいでは音なぞせんかったのに!とムッとしながら確認すると高さはそんなに違っていなかった。なんなんだ、とやったことないけど相撲の稽古で横綱の胸を借りる要領でグッと肩を入れて洗濯機を押すと割れ鐘が鳴らなくなった。
洗濯槽がちょっとズレたのかな?とわたしはそのままリビングに戻ってミステリーチャンネルを見続けた。
もうこの時点でおかしいことに気が付くべきだった。
洗濯槽がちょっとズレたのかな?じゃねえよ、洗濯槽がズレるってなんだよおかしいだろ、聞いたことないよ洗濯槽がズレるって。

そしてまたさらに数週間。
ゴンゴン言うたびに横綱の胸を借りてたまにはもういっちょ!と言われたりして静かになったり、足の下にまたタイルを重ねたりして過ごした。
が、さすがにその頃にはそろそろ洗濯機買わないかんぞ、という気になっていた。だってゴンゴン言うんだよ?洗濯機が。やっとかよ。もっと早くその気になれ。
それでTwitter(X)でフォロワーさんに「洗濯機のおすすめって何?」と聞いてみたりして、次にゴンゴン言ったら今度こそ買い替えだ!

……と、思った途端にゴンゴン言わなくなったのだった。
何の問題もなく普通に洗濯ができている。
おお!愛妻号復活だ!
いったい何が愛妻号の中で起きたのかわからないがとりあえずきちんとおとなしく動いているので、洗濯機を買い替えることもなく2024年を迎えた。

が、とうとうその日は来た。
いつも通り洗濯機スタート後、さて遊ぼかね、とねこと上の階に行った時だった。

……ドガンドガンドガン!

ん?

ドンドンドン!!

なにやら物凄い音が。
ぐねぐねしていたねこも緊張した顔をしている。
どうやら下のフロアから聞こえる。

ガンガンガン!!

みんな大好きアンナチュラル第二話で法医解剖医三澄ミコトとバイトの医学生久部六郎が冷凍車に閉じ込められて必死で助けを求めるシーンがあって(めっちゃ早口)、その時に助けを求めてガンガン内側から叩くわけですよ。
まさしくあの音。ね、わかるよね?
え?うちの洗濯機の中に閉じ込められてる?ミコトとロクが。

びびるねこ。びびるおれ。
あわててミコトを助けに行くとやっぱり洗濯機に閉じ込められているようだった。
ガンガンの他にたまにブチッ!と何かがキレるような音までする。恐ろしい。うちの洗濯機の中で何が起こっているのか知らんが今まで聞いたことのないいろんな音がしていた。

愛妻号死す。

洗濯槽の中いっぱいのミコトとロク、ではなく水に浸ったままの洗濯物を呆然と見つつ、ようやくそれを実感した。
せっかく楽しみにしていた翌日の休みは、予定を変更して洗濯機を買いに行くことになった。
いやその前にまず、この大量の洗濯物をコインランドリーに持っていかないとな。でもこれでようやく何も気にすることなく洗濯ができるようになるな。

というのがどれほど甘い考えだったか、この時のわたしは全く想像もしていなかった。

次回予告「洗濯機を買いに行った話」


洗濯機話、続きます。
まさかこんなに長くなるとは。











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