梅を観に行ったのに全く関係ない話
おばちゃん三人で梅を観に出かけた。
いなべ市梅林公園で梅を観て近くのCAFEあめんぼさんでおいしいピッツアを食べて絶対観たかった展示を観にパラミタミュージアムへ行く。
完璧だ。
あめんぼさんは人気なので3週間も前にランチの予約をした。
そこから逆算して渋滞も鑑みて集合時間ならびに出発時間も決めた。
完璧だ(二度目)。
なのに出発して5分後。
Cさんから「タナちゃんとわっちゃん持った?」と聞かれてまたしても忘れたことに気がついた。
羊毛フェルト作家のもわもわびよりさんが作ってくださったうちのねこたちだ。
「ああああ!!わーすーれーたー!」
なぜいつもいつも忘れるのか。
前夜、テレビの横に鎮座しているにひきを見て、明日は忘れずに持っていかなきゃと思ったことを思い出す。
なぜ思った時にバッグに入れないのか。
それは思った直後にそのことを忘れるから。
「なーんか忘れちゃうんだよねえー」
「気がついた時にバッグに入れとかないから」
「だってどのバッグ持ってくかなんて朝にならないとわからんし」
「テーブルに置いとくとか」
「置いてあっても忘れるよね、よし!ある!ってその時は思うのに思ったことを忘れるから」
「そう思って夜のうちにドアのとこに置いといても忘れるよね」
「忘れるー」
必ずぬいを連れて出かけている皆さんはいったいどうやって覚えていられるのか。
コツをおしえていただきたい。
一旦家に戻りねこたちをバッグに詰めすまんすまんと再出発。
車中ではコードが断線したとかでCさんのスマホがつながらず、危うく音楽なしの事態になったがよく考えたらFMがあるじゃないか。
わしらもとんだスマホ中毒だな(ちょっと違。
「ねえこれzipFMなのにさぁ」
「え、これzipなの?」
「そうなんだけど、zipってもっと音楽ばっかだと思ってたのにさっきから話してばっか」
「ほんとだー違うと思ってた」
「ねー」
「うちらの知ってるzipFMと違うねえ」
「ねー」
「zipFMってもっと音楽メインだったよねーいつからこんなんなったんだろ」
「ねー」
「うちらの知ってるzipFMと違うよねえ」
「それ2回目だけどね」
「あ、今の♪ちゃーらーって♪おーれーだったよね」
ラジオから聞こえた何やらをキャッチして突然謎の言葉を吐くCさん。
♪おーれーって何。
「ほら、あのー」
「何?」
「ほら、えっと、あの、あの俳優さんが出てるCMの…」
「誰?」
「あのーー、あ!ほら!愛してくれと言ってくれの」
愛してくれだけでも一方通行の重い要求なのにさらにそれを言えと。
「いやいやあれでしょ?えーと、愛していると言ってくれの人ね」
「あたしそう言ったよね?」
「言ってないね、愛してくれと言ってくれでダブルで要求してたね」
「で、誰?」
「えーっと、トヨエツだ」
「そうそう」
「トヨエツがなんて?」
「だからーさっきのやつ、トヨエツがCMで♪おーれーって言う音階と同じ」
「え?さっきのやつって?」
「さっき流れてた何か?」
「そうそう」
もう元が何かもわからないし、それを指摘するためのヒントも遠いしで、何から何まで曖昧なまま話が終わる。
「なんかさ、前にこんな感じの線路の脇のとこにあるカフェ、行ったよね?」
と、突然Gちゃんが言い出した。
「ああ、行ったような……」
「古民家をリノベしてて、おしゃれな」
「あ、それ今日行く美術館のそばにある…スナッグさんかな?線路脇にある」
「スナッグさんはあれでしょ、えっと入り口のとこにマトリョーシカの看板があった…」
「そうそう」
「そこじゃなくてーえっとー古民家でー」
「古民家さっきも出たわ、違うヒントないの?」
「おしゃれでーー」
「ちょっと待て…えーとなんかあった気がする!えーーーっと」
「あるよね?」
「あ、わかった!三重県立美術館行った時だ!えーっとたゆたうさん!」
「そうだ!そこだ!」
「確かに線路脇だったし古民家だったしおしゃれだったけども」
「三重県立美術館って何観に行ったんだっけ」
「あれだよあれ、えーっとほら、ガシャンガシャンって」
「あーーー!そうそうあれね!押すやつ」
「そうそう押したやつね!思ったよりすごいデカかった…」
「そうそう、なんていうやつだっけ?」
「えーーーっとぉーーー……わりと最近ツィッターであたし誰かとその話したんだよなー、巡回してるからそれ観に行った人がいて、すごかったですよねーってあたしも観たんですよーって」
「えーそうなんだー」
なんだっけ………頭に全体像ははっきり浮かんでいるのにこのイライラする感じが嫌ですぐググる。
「テオ・ヤンセン!」
「それだ!え?どうやってググったの?」
「砂浜、風力で動く、アート」
「すげぇ」
「美術館のあと時間があったら近くでお茶でもしようか」
「それこそスナッグさん行く?」
「それかあそこか、ほら、辻口さんの…」
「ああ、えっとアクアイグニス」
「アクアイグニスってまだあのお店とかあるのかな」
「あのお店って?」
「えっと、ほら、和食の…あのー」
「あ!わかった、えっと…あれでしょ?テレビとかにも出てる料理人の」
「そうそう」
「えっとーーーあれね、阿久比インターにもおにぎり屋さんがあった…」
「もうなくなってるけどね」
「おいしそうだったのに」
「おいしかったのに」
「池下のあそこにもお店がある…」
「そうそう、池下のあそこのね、あの店ね」
「和食のね」
「えっとーーほら、顔は出てるんだよ顔は」
「あたしも顔はわかってるんだよ、なんなら声も浮かんでるよ」
「そうそう、あの、ほら、子沢山のね」
「子沢山なのかい!」
「そうそう」
「知らんかった」
「てかそれ今関係ないよね」
「なんだっけ…」
「アレじゃない?ほら!!四文字熟語みたいな!」
「そうだ!!四文字熟語の名前だった!店!」
「なに?」
「い、い、一汁一菜みたいな」
「いやだよそんな店」
「三寒四温みたいな」
「料理関係あったっけ?」
「どうだっけ?」
「えっとーーいかん、あたしはもう多飲多尿しか浮かばん!」
「たいんたにょう?って何?」
「多く飲んで多くシッコするっていう、猫飼いが恐れる四文字熟語だよ」
「絶対ないわ」
「ないわ」
「わかってるけどもうそれしか浮かばないんだよ!」
「一日一善みたいな」
「一期一会とか」
「数字入ってなかった気がする」
「多飲多尿?」
「絶対違う」
「一生懸命とか」
絶対ググらんで思い出そうと必死で頑張ってみたもののまったく浮かばず。
三人寄っても文殊の知恵ならず。
「もういい?ググるよ?」
「うん、もうギブだわ」
あたしなんざもう多飲多尿しか。
「わかりました……」
「何?」
「なんだった?」
「賛否両論」
「さんぴりょーろん!
「さんぴりょーろん!!」
「そうだわ!」
「そう言われるとって感じするよねー」
「ねーーー」
「で、料理人は?」
「笠原さん」
「かーさーはーらーさーん!!」
「そうだわーーー!!」
最初から最後まで、何から何まで遠くて、まったく進まない会話ばかりの一日だった。
梅は綺麗だったし(寒かったけど)、ピッツァはひじょーーにおいしかったし、ヤギも鶏もかわいかったし、町田尚子さんの展示もめちゃくちゃよかったし、書こうと思えばなんぼでもレポ書けそうなのに、記憶に残っているのは車中の会話だけという梅春の一日でした。