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目黒川が見せる冬の顔。


ここに引っ越してきてから10年。もう随分と時間がたったなぁと思う。

鉄の鎧を被りながら、とにかくがむしゃらに働いていた頃、夫婦2人でゆっくりしていた頃、今は育児に奮闘する日々。

何度もこの道を往復して気づくことは、目黒川には沢山の顔があるということ。


わたしはこの季節が好きなのである。緑が散って、少し殺風景な目黒川は人が少なくて特別感がある。それは、やがて訪れる桜の季節でのお祭り騒ぎに備えた休息のようなものだろうか。

それでも、スターバックスリバーブが出来てからは人は多いけれど。前はもっとガランとした雰囲気だった。


そういえば、行きつけの家族経営による飲食店での話。そこのご家族はこの土地で生まれ育ったらしい。

「昔は、こんなおしゃれな場所じゃなくて下町だったんだけどね。土地は低い位置にあるから良い場所とは言えないし。そういえば、昔は駄菓子屋も何軒かあったなぁ」と懐かしい顔をしながら話してくれた。


確かに、目黒川周辺はダムのように土地が低い場所にある。川が氾濫すると、かなりヤバイ。

わたしでさえ10年住めばこの街の変化に気づくのに、地元の人からすると、少し寂しさを感じる瞬間もあるだろう。自分の慣れ親しんだ街が、若者のカルチャーに染まっては、変化し続ける様を眺め続けることに。

だけど、あらゆる飲食店が移り変わったとしても、メディアにもてはやされたとしても、きっと、誰のものでもない目黒川は変わらないだろう。

もうなくなってしまった駄菓子屋に通っていた地元の人も、この土地に流れ着いたわたしも、「あの芸能人に会えるかな?」なんてワクワクしながら遊びにきている女の子も、手を繋ぎながら歩くカップルにとっても、目黒川はそれぞれの思いにそっと寄り添ってくれる。


これから始まる新生活への期待。移り変わる景色の中で寂しさを抱えつつも、変わらない景色を見てほっとする気持ち。更には、未完成のカップルが漂わせる刹那に拍車をかけたり。

この景色を見た者を主人公にさせてくれる、魔法のようだ。

もうすぐ訪れる桜の時期。お祭り騒ぎで、人でごった返しする目黒川には近づけない。


住民はその楽しそうにしている人々の輪には決して入れない、なんとも言えない切なさがある。

だけど、やたらと値段が高いベリーが入ったシャンパンを片手に談笑する人を眺めたり、
祭りの後の静けさが漂う早朝や、遠回りして帰宅する日々も、振り返ればきっと愛おしい。


桜の季節まであと少し


 




あなたの大切な景色はありますか。

その景色が変わりなくあり続けますように。


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