SEE THE SUNに込める想い
夏になると毎日のように行った遊び場
僕が18歳~22歳ぐらいの頃、今からちょうど10~12年ぐらい前の話
当時僕は大学生でバンドもやっていてライブハウスとスタジオに通い、大学の授業以外は音楽に塗れた生活をしていた。
そしてライブハウス以外にもう一つ、夏になったら毎日のように行く遊び場があった。
それは地元の海だった。
そこにはアメリカンなバーがあってライブができるステージやDJが楽しめるターンテーブル。BBQ場。そしてスケートパークがあった。
ローカルシーンが作った遊び場、まさにそこは自分たちにとって最高の天国だった。
当時はコンプライアンスという言葉は無い。夜通し遊び尽くした頃には朝日が登ってくる。
何度もその朝日を見てはクタクタになって帰宅する。
きっと世の中的には怖い見た目の人たちは自分たちにはすごく優しくしてくれた。
腕にタトゥーがたくさん入ったお兄さんたちは僕達のピカピカなスケボーを見ては
「ごちゃごちゃ言ってねぇでまずはランプにドロップインしてみろ!」
そう言われて恐る恐るやってみる
ランプとはUの字のスケボーセクション。
スケボー初心者がいきなりやるものではないが案の定盛大に転んだ。
めちゃくちゃ痛い。
「お前、イカしてるじゃねーか!!」
お兄さんはそう言って転んだ僕の手を掴んでニコニコで起こしてくれた。
なんだかその一つの行動で認めてくれた気がして嬉しくなった僕は
ヘタクソなりに、何度も転びながらもスケボーを楽しんだ。
「ここのスケートセクションは地元スケーターの手作りの場所で、壊れたら自分たちの手で治すんだよ。ケンジさんが作ってくれたんだよ!」
スケーターの1人が僕にその話をしてくれた
ケンジさんというスケーターがそのスケボーセクションを作って修復までしていたというのを当時話だけには聞いていた。
ストリートカルチャーとは自分たちの遊び場は自分たちで作る。そして守る。その意味を教えてくれた場所。
ライブハウスでライブをしていた自分の裏側には夏になると毎日のように行く遊び場が海だった。
大人達の力によって失った遊び場
そして時が経って、僕は大学を卒業して地元を出て都会で社会人をしていた。
ちょうど半年ぐらい経った頃にこんな電話が地元の友達からきた。
「俺たちの遊び場が無くなっちまったよ!!」
地元の海にあった僕達の遊び場はとある大人達の力によって取り壊されたのである。
きっとあれだけ好き放題していたのを気に入っていなかった人たちもいたのだろう。
悔しい気持ちでいっぱいになった。
それをきっかけに海は僕達が夏になると行く場所ではなくなってしまい、スケボーをやる機会も無くなってしまった。
足りない何かを探す日々
20代後半になった頃にはもう僕にとっては海もスケボーも思い出になってしまっていた。
そしてバンドをやっていた事も地元のライブハウスにいる人間で知っている人は本当に少なくなってしまった。
同期のバンドマン達はもうすっかり良いお父さんになっていて家庭を気づいている。
僕自身は音楽を辞めたかというとそういうわけではなくて、DTMという方法で音楽を続けている。デスクトップミュージックの略だ。
どっぷりとのめり込んで気づいた頃にはDTM講師になり、教える立場の人間になった。
自分なりに成果を出せてきっと良い意味で落ち着けたのかもしれない。
そしてそれ以外にはキッチンカーも始めて1年でTV出演を果たした。
平日は音楽で仕事をして、週末にはキッチンカーで稼いでいる。
世間一般的には良い暮らしをしているように見えるのだろう。
それでも何かが足りない。
ライブハウスに足を運んでみても感動はしても何かが足りないという気持ちだけがずっとあった。
他にはバーで高いシャンパンをあけてみたり、高いお酒を頼んでみたりもしたが自分が手にしたい良い暮らしとはこんなものではない。
そういう気持ちを引きづりながら生活をずっと続けていた。
伝説のスケーターが現る
とある繋がりで地元に新しくできたスケボーパークを紹介してくれる人がいた。
そのスケボーパークは僕達が10年前に行っていたあの海のすぐ隣にある場所だ。
そのスケボーパークのマスターはすごく優しくてまるで初めてあったことがないかのような気分になった。
そして僕も良いきっかけだと思い、10年ぶりにスケボーに乗ってみてランプを滑ってみた。
案の定、盛大に転んだ。とても痛い。
すると周りのスケーター達から拍手が起きた。
「お前!10年ぶりにランプをやったのに挑戦してすげーじゃねーか!!」
そう、この言葉は10年前に始めて海でランプをやった時とまるで似ている。
そしてランプの高さ、この高さにも感覚として覚えがある。
「このランプの高さってもしかしたらあの海のスケボーパークの…。」
マスターに僕は言ってみた。すると
「実はあの海のスケボーパークのセクションを作ったのは俺なんだ。だからそのランプの高さも当時の高さを再現してる。」
10年前に話だけ聞いていた伝説のスケーター、ケンジさんが目の前にいるのだ。
一銭にもならない数字で表せないモノ
それから何かが目覚めたかのように毎日のようにスケボーパークに通った。
何度も転んで、捻挫もしたし、体にはあざがたくさんできた。
それでも充実感がすごくあってたとえ一銭にもならないかもしれないけども達成感や充実感は今まで自分が欲していた何かだと思った。
ある日、スケボーパークの周年祭が開かれてみんなでお酒をたくさん飲んだり、くだらない話でゲラゲラと笑ったり、スケボーでめちゃくちゃ盛り上がったりして朝まで楽しんでいた。
気がついたらパークの駐車場の車輪止めを枕にして寝ていて、朝日が登ってきて目が覚めた。
コンクリートの上で寝ているのだから体がバキバキに痛い
すると朝っぱらにも関わらずパークの裏から怒鳴り声が聞こえてきた。
スケーター同士で言い争っているのだ。
どうやらスケボーの大会をやろうとしている人が点数形式で順位を決めようとしていることに納得がいっていないスケーターがいるようだ。
「俺たちがやってることは生き様そのモノだし、それを数字で表せるほど浅いものなんかじゃねーよ!!お前はいつからそんなダサいヤツになったんだよ!!かっこいい姿に戻ってくれよ!!」
きっとこれは相手をリスペクトしているからこそのディスリスペクトなのだろう。
僕もその人が言っていることは納得できるものがあった。
一銭にもならないかもしれないけどもそこで得られる達成感や充実感は今まで自分が欲していた何かだ。これは数字で表せるほど浅いものではない。
ストリートカルチャーとは数字で表せない何かを称え合い、評価し合う。挑戦して例え失敗したとしてもその生き様はホンモノだ。
僕はそのカルチャーから目覚めさせられるモノがあって、ずっと足りないと思ってきていた何かを埋め合わせられている感覚があった。
そのことをケンジさんにしてみると
「zunx2ちゃんがずっと求めてきてたモノってきっとその数字で表せられないモノなんじゃないの?俺もずっとそれを大事にしてここまできたよ。だから今ここの空気感があってたくさんの仲間がいるんだ」
僕がずっと欲していたものはストリートカルチャーだとそこで明確に気付くことができた。
ストリートシーンを繋げる
パークにいるスケーターはみんなお洒落だ。
いわゆるストリートファッションと呼ばれるモノを着ている。
普段なんとなく買っては着ていたストリートブランドを調べてみるとブランドが生まれた経緯はスケボーやライブハウスから生まれたものが多い。
有名なストリートブランドは大体がスケボーが絡んでいる。
それぐらいストリートシーンは服も、スポーツも、音楽も密接に関係を持っている。
ある日、僕が音楽をしていることを知ったスケーターがこう言ってきてくれた。
「パークをテーマにした曲を作ってくれないか?」
おもしろい!そう思った僕は二つ返事でOKした。
最初は自分1人で作った方が良いんじゃないか?と思ったが
ストリートシーンはスケボーも音楽も密接な関係にあるということで
地元のバンドと共作することにした。
そのバンドは長らく関わりがある金沢のバンドAce On Dawnだ。
僕が元々バンドでやっていたバンドのジャンルはメロディックハードコアと呼ばれるモノでスケボーによく合うジャンル。
彼らの音楽性とならきっと良い共作になると信じて作った。
ここ数年でライブハウスが失ったモノ
ここ数年ではコロナによって音楽業界全体が酷い目にあった。
クラスターによるコロナの拡散と蔓延を抑えるためにライブハウスシーンは多大なる影響を受けた。
・ライブイベントの入場規制
・声出しの規制
わかりやすいところだとこの二つの規制だろう。
そもそもが人が多く集まっては声を出してライブの感動を共有するものがライブの醍醐味。それが完全に規制されてしまったのがここ数年の影響だった。
・ライブに行っても距離が離れていて声も出せない
非常に奇妙な光景だ。
ライブハウスらしさなど微塵もない状態が数年間続いたことによって
ライブハウスらしさを知らないバンドマンやお客さんもいることになる
簡単に言えばお行儀の良いライブハウスだ。
ライブハウスはストリートカルチャーの一つ。
アーティスト達が熱苦しくライブをして、お互いにその生き様を尊敬し、称え合い。評価し合う。
例え一銭にならなくとも数字で表せないものに感動をする。
僕がライブハウスに行っても何か足りないものを感じていたのはここ数年でライブハウスが失ったモノなのかもしれない。
ストリートカルチャーを取り戻したい
ストリートシーンにおいて強くそのカルチャーが出ているのがスケボー。
僕はそう感じている。
だからこそライブハウスにもそのカルチャーの良さを繋ぎ合わせても良いのじゃないかと思う。
・対等
・挑戦する姿を評価する
特にこの二つは非常に良いカルチャーだと思う。
SEE THE SUN
今回Ace On Dawnと共同制作したSEE THE SUNで上手く表現できていると思うし、これをきっかけに彼らがストリートカルチャーにおけるライブハウスらしさを取り戻してくれる存在になると非常に嬉しく思う。
ストリートカルチャーとは自分たちの遊び場は自分達で作って自分達で守る
10年前に伝説のスケーターが僕達に見せてくれて今でも守り続けているように僕も地元音楽シーンに携わる人間として兄弟達を守っていける存在でいたい。
音楽で夜通し夢中になって朝日を眺めながらクタクタになってもそれぐらいがちょうど良い。その気持ちをずっと忘れない。
SEE THE SUNを聴くたびにその言葉をバンドマン達が思い出してくれると嬉しく思う。
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