LOST STORY 第1話「空白の10年の始まり」
「お前のバンドマンとしての人生が終わったな…。」
金沢のライブハウスvanvan V4の階段でその言葉がぽつりと幼馴染みのたつろうから電話越しに言われた。
そう、僕がバンドマンとしての人生が終わった日はメジャーバンドと対バンの前日にスタジオ練習に僕だけがいてメンバーは誰も来なかった…。
次の日にメジャーバンドとの対バンが決まっているのに誰も練習にこない…。
ということは翌日の対バンはボーカルの僕だけがステージに立つことになる。
結果としてその対バンは僕が弾き語りという形でライブに出演することになった。
僕が弾き語りという形でステージに立つことの理由なんてフロアにいる人達に説明したって何も伝わらない…。
理由を説明してもそのフロアにいるお客さんには関係がない…。
そう思うと自分の口から発せられる言葉は全てが言い訳になると思って
何も言わずにただ弾き語って歌うことしか僕にはできない。
ライブハウスでは演者は基本25分が持ち時間になる。
僕はその25分をただ弾き語ることしかできないから心を押し殺してはオリジナル曲を歌った。
ライブが終わってそのメジャーバンド、オルタネティブ(※仮名、実際は違います)のコンポーザー(作曲者)のギタリストのMさんにに楽屋に呼ばれた
「君はなんで1人になってしまったの?本当はバンドで出演だったんだろ?」
と狭い楽屋の中で真剣な眼差しで言われた。
なんでそんなに真剣な眼差しで僕に言うのだろうか…そう思ったが答えないと失礼だと思って口を開いた。
「僕は良いライブをしたいがあまりにバンドメンバーに強く当たってしまってその結果、連絡が取れなくなってしまったんですよ…。」
そう言うとMさんは
「バンドって本当大変だよなー…。俺も似たような経験をしたことがあるんだよな。だからこそ思うけど音楽ってバンドじゃなくても色んな形があるんだよ。だからどうか音楽だけはやめるなよ!」
初対面のMさんは22歳の僕をいきなり抱きしめてそう言ってくれた。
その言葉と抱きしめてくれたぬくもりには偽善も嘘もないように優しさと暖かさを感じられるものがあった。
その優しさだけが1人でステージに立った僕を否定しないモノとして考えるしかなかった…。
「ありがとうございます。何とか音楽だけは続けられるように活動していきます。」
そう言うことしかできない自分は対バンなのに
「また対バンしましょう」とはっきり言えないことが不甲斐なくて
Mさんが「そんなことはあってもさ。今日は良い夜にしようよ」と言ってくれたのにも関わらずに
ライブハウスのドアを開けて走って帰ってしまった…。
「お前のバンドマンとしての人生が終わったな…。」の言葉が一層脳裏に焼き付いて
その走って帰った道中はもう自分はバンドマンとしての人生が終わってしまったんだ…。と考えることしかできなかった。
その日からcatastropheが起きるまでの空白の10年が始まった…。
色のない長い10年の世界が始まることを当時22歳の僕は知らずに
「きっとメンバーが見つかればバンドができるだろう」と浅はかに思っていた。
バンドというのは奇跡が重なってできることも知らずに浅くて甘い考えでバンドマンとしての人生を22歳にして終わらせたのだ。
空白の10年は作曲をしても誰にも音楽を聴かれることも無ければ誰からも評価されることもない。
音楽に対して依存しては音楽を甘く考えていた当時22歳の自分は
その現実を厳しさをこの10年を経て知ることになっていく…。
LOST STORY~空白の10年の真相~を2023年12月12日、今日からnoteにて書いていきます。よろしくお願いします。
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