LOST STORY 第2話「ライブハウスの住人」
ライブハウスのドアを開けて走って帰ってしまった自分は
その後の数日間、数ヶ月間、バンドマンでは無くなってしまった自分を受け入れることなんてできることもなく
ただただ時間が、そして日数が経っていくような日々を暮らしていった。
まるで自分の中身が空っぽになってしまったような感覚。
バンドで音楽ができていない自分なんて何の価値もないんじゃないか…。
そんな想いがずっと脳裏にこびりついた生活を送っていた。
そうなればライブハウスに行く気にもなれるわけがない。
そんな時に自分がバンドマンの時に通っていたライブハウスの店長123から連絡があった。
「とりあえず久しぶりにいつものラーメンに行こうよ。」
123さんはそう言って僕のことをよく一緒に通っていたラーメン屋誘って、一緒に行くことになった。
ラーメン屋に行く道中、一緒に乗った僕の車の中で
「まぁ…バンドなんて活動できてるだけでも奇跡みたいなものなのよ。今はバンドができないかもしれない。本当はそれが一般社会では普通なのかもしれないなぁ…。だからライブハウスにいるバンドマンて奇跡の集まりなんだから熱苦しいライブが生まれたりするんだよな」
123さんはそう言ってタバコを吸いながら車の窓の外を眺めていた。
行きつけのラーメン屋で僕と123さんは毎度同じラーメンを頼んで食べる
家系のチャーシュー麺大盛りだ。
「お前がライブハウスに来なくなったら。単純につまらなくなるじゃねーか。ライブハウスには住人と呼ばれる奴が生まれたりする。そういう奴っていつだってライブハウスにいるのよ。ほんとにいつもいる。
だからもはやライブハウスに住んでるみたいな感覚になるのよ。
別にライブができなくたってライブハウスにいる権利がないわけじゃないだろ?
とりあえず俺と一緒にラーメンを食った後に一緒にライブハウスにこいよ。
そうやってバンド仲間たちと時間を重ねることだってきっと音楽シーンを作ってるやつの生き方だと思うからさ」
123さんは家系のラーメンを食べながら僕にそう言ってくれた。
その言葉はきっとたくさんのバンドマンたちをライブハウスから失ってきたからこそ出てきた言葉なんだろう。
そう感じてその日からライブはできないけどもライブハウスに通う生活になっていった。
週3~5日ぐらいで123さんとラーメンに行ってはライブハウスに通う日々だ。
気がつけば123さんが言うように僕はライブハウスの住人のようになっていた。
もはやそのレベルになると365日中200日以上はライブハウスにいるし、自分が出演していないライブの打ち上げにだって数えきれないくらい出ることになる。
「あなたはこのライブハウスのスタッフだと思っていた。」
ツアーバンドからそう言われることも多々合ったくらいだ。
それだけライブハウスに通っていればたくさんのライブを見ることになる。
共に対バンをしてきたバンド仲間がライブしている姿を見ることなんていくらでもある。
その度にバンドマンだったはずの自分がライブもできていなくてただただライブを眺めることしかできない…。
そんな自分に嫌気がさしたり、嫉妬のような感情だったり、様々な葛藤がもちろん起きていた。
仕事が終わればとりあえずライブハウスに行く、バンド仲間たちと本当にくだらない話で盛り上がったりして毎日を楽しんだ。
自分はバンドはしていないし、ライブなんてもちろんできていない。
それでもライブハウスにいるバンド仲間たちは自分のことを地元の音楽シーンを作っていく上で必要な存在だと思ってくれているからいつも通り接してくれている。
そう思えばライブができていない葛藤は少しずつ気にならなくなっていった。
そんな時に自分がライブハウスに通わなくなる出来事が起きる。
いつも通りにバンド仲間たちとくだらない話で盛り上がっていた。
そんな時にスタジオから出てきたとあるバンドであまり絡みがないバンドマンが僕に向かってこう言ったのだ。
「もうバンドもできてないよーなやつは過去を引きずってずるずるライブハウスにいたって、所詮過去の人間なんだから誰もお前のことなんて気にもかけてないんだよ。」
そんな捨て台詞を吐いてそいつはそそくさとライブハウスのドアを開けて出て行った。
ガタン!!まるでドアを投げて閉めるような感じだった。
12月の雪が降る、冬の寒い時期だった。
そうか、僕はそいつの言う通り、過去の自分の残像に寄り添ってはライブハウスに依存していたんじゃないか。過去に依存したやつの現像なんて確かに当時を知ってる人からすればほんとに情けない姿に見えてしまうのだろう
ライブハウスの住人なんてのは自分には合ってないのかもしれない。
バンドマンでもない今の自分はライブハウスにいるべきではないのかもしれない…。
その日を境に自分は123さんと距離を空けることになり、もちろんラーメンも一緒に行かなくなる。
バンド仲間からの連絡も返す気にもならなくなった。
そうなればライブハウスなんて行く機会はなくなる…。
本格的に自分の空白の10年が始まるきっかけはそのとあるバンドマンが言った。
「もうバンドもできてないよーなやつは過去を引きずってずるずるライブハウスにいたって、所詮過去の人間なんだから誰もお前のことなんて気にもかけてないんだよ。」
その言葉を引き金に始まっていくのだった。
長い、長い、光のないトンネルのような空白の10年はその言葉により始まっていく。
いっそのこと音楽はもうやめてしまった方が楽なんじゃないか…。
そう思った自分は最後だと思って行ったとある場所で音楽をやめないきっかけが生まれることになる。
その出会いによって自分が音楽に対して本気で向き合うことが始まるとはその時は思ってもいなかった。
LOST STORY~空白の10年の真相~第2話はここまでにします。
次回は第3話になります。
書けそうなタイミングで少しずつ書いていく小説になりますがどうか楽しんで読んでいただける人がいれば嬉しいです。
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