amazarashi 7th album『永遠市』を聴いて感じたこと


挨拶

 10月25日に発売したamazarashiの7th album『永遠市』の感想を書いていきます。
 よろしくお願いします。


曲目

 前作からそんなに経ってないのに、シングル除いて10曲も新曲が入っているかなりボリューム感のあるアルバムだと思ってましたが、短いポエトリーが2曲あるので相対的に考えると前作の方がボリュームありましたね。
 永遠市の曲目はこちらです↓

 1.インヒューマンエンパシー
 2.下を向いて歩こう
 3.アンチノミー
 4.ごめんねオデッセイ
 5.君はまだ夏を知らない
 6.自由に向かって逃げろ
 7.スワイプ
 8.俯きヶ丘
 9.カシオピア係留所
 10.超新星
 11.クレプトマニア
 12.ディザスター
 13.まっさら

13曲、時間にして1時間2分のかなりamazarashiらしい構成だったと思います。


1.インヒューマンエンパシー

 一曲目に結構「THE」な曲を持ってきたなと感じましたが、ライナーノーツに出航の歌と書かれていて納得。体調不良で休止を選択せざるを得なかった秋田ひろむがこれからを歌いだすという一曲目な気がします。
 「幸せ不幸せを定義するから優劣に成り下がる」とか、「ここが暗闇な訳じゃない 僕ら自身の太陽が 各々の場所にあるだけ」とかかなり好きで、七号線ロストボーイズを経て、この世界の住人としてやっていこうとした秋田ひろむが人の中の共感を探ろうとしているのがこの曲だと思っているんですけど、他の人が聴いてもちゃんと納得できる歌詞がちゃんと存在するのが良い。
 まぁそんなこと言ったらamazarashiの曲はほぼそんな感じなので元も子もないんですけど……にしても個人的な感情や思いで人に共感させるのがうまいなぁと思います。
 意外だったのがサウンド感で、SF小説から着想を得ている今作は割とサイケデリックだったりシンセの効いた曲が多いかと思ったのですが、一曲目を聴き重低音が効いた重ためのバンドサウンドだったのでびっくりでした。
 一番のBメロまでで今までのamazarashiを簡潔に表現してるのがすごすぎる。
 あと強いて言うなら「ねぇ まだ足りない」の歌詞や歌い方を含め色気があっていいなと思いました。


2.下を向いて歩こう

 リード曲でしたね。先行配信された時から聴いてました。歌っていることはパニック障害からの復帰とバンド所信表明といったとこでしょうか。
 トラックリストが公開されて曲名を知った時に、勝手に上を向いて涙が零れないようにするくらいなら、下を向いて泣きながらでも突き進め的な曲が来るのかと思ってました。
 めちゃくちゃバンドサウンドで、テンポ感もよくて、「終わってるんだよ」ってサビに入るのにちゃんと照らし出す朝が来て前進してくれるのが秋田ひろむ節だなと思います。
 相変わらずCメロのメロディーが良いですね、聴いてて気持ちいいし、自分のバンドの歴史のことを「これは映画じゃなく生活」って言い切る気持ちよさもあります。
 「その方法は過去作にある」っていう部分も最高で、かなりHIPHOP的というか、自分のことを歌っている人じゃないと書けない歌詞だなと思いました。amazarashiは『千年幸福論』から聴いていますが、あの頃からだいぶ変わったなと思う面と全然変わらないなって思う面があって、変わった面も含めて秋田ひろむの自信となって今があるんだと思えた歌詞でした。


3.アンチノミー

 アンチノミーは実はシングルで記事を書いてるのであまり書くことがありません……。
 それでも永遠市を通して聴いていると改めて良い曲だなと思いますし、ニーア要素の強い曲ではありますがここ数年のamazarashi楽曲にある感情を殺すなとか、自分を大事にしようとか、そういったメッセージはこの曲にも共通して存在していると思います。5thの『ボイコット』や5th singleの『リビングデッド』は一貫してそういった言葉や感情をテーマにしていた気がします。その系譜に存在する曲な気がしている。
 ライブ映えしそうな気がしていて、この前のサマソニも配信で見てて良いなぁと思っていました。ツアーでやるかな、やってほしいな。


4.ごめんねオデッセイ

 想像した曲と全然違う!ゆったりしたテンポで、まだ歌い足りない、この旅は終われない的な事を歌う感動曲なのかと想像していたら、歌入りのポエトリーでかなり早口。裏で鳴ってる音は神秘的だけど、言ってることはかなり現実的。
 フック部分で歌っていることは想像していたのにちょっと似てて、バンドマンとしてどれだけやっても冒険の終わりが見えないし悩みも尽きないところを降り積む雪に例えているのかなとか思ったり、「ごめんねオデッセイ」というワードはやっぱりこれからの決意表明的なワードなんだなと思いました。
 「一人の生身の人間が~」からのパートは完全に秋田ひろむにしか表現できない秋田ひろむという人間が出ていて聴いてて鳥肌が立ちました。これはライブでやるの大変そう。
 そしてここにきてついにちょっとだけSF要素が出てきましたね。サウンド感や歌詞「クーパーとマーフ」とか。


5.君はまだ夏を知らない

 あーーーーーこれは駄目だ。なかなか曲として聴けるようになるまで時間がかかる気がします。それくらい詩が良くて、重くて、素敵な曲。最初にアルバムを一周したときはこの曲が良すぎて泣きました。しかも結構引きずっちゃって、そのあと歌詞見るだけで潤むくらいには心に響きました。
 amazarashiを通して自分も大人になっちゃったなって、客観的に見ちゃって。まさかこんな曲をリリースするとは思わなかったし、多分2014年と2016年の時期をそこそこ深いファンとして過ごしてた人は、身に覚えがあると思うんですよ。下世話な話題だからあまり触れませんが、2014年はある写真がネット上に載ったり、2016年は豊川さんが休止してたらればが発表されたり。まぁこれ以上は言いませんが、とにかく秋田ひろむがこういう曲を書くようになったという事実が、意外だし嬉しいし、"映画じゃなく生活"を地で行ってる人だなと思うわけです。
 極めてパーソナルな曲ですが、「優しい奴と強い奴は決して決して矛盾しない」の部分とかハッとなるような歌詞もあるし、情景描写が完璧すぎてすべてが脳内再生されるような気がするし、これから八回、九回と夏が増えていくのだと思うと……あ、駄目だ書きながらですら泣きそうになる。
 漠然と大切な人を思い浮かべてしまう曲だと思います。それがどんな相手であってもね。


6.自由に向かって逃げろ

 すごく良い曲なんですけど、あ、好きかも。ってなったのは数回聴いた後だった気がします。というのも、ライナーノーツを読んでから聴いたんですけど、トムソーヤの冒険とかから着想を経て、元々あった曲でアルバム候補に挙がって落ちてて、今回入ることになったって書いてあったんです。
 それを知った上で歌詞を見ながら聴いて、サウンド感はめちゃくちゃ好きなんですけど歌詞の咀嚼に時間がかかったというか、言いたいことはわかるけどイメージしにくいなって思ったんですよね。
 で、根本をちょっと調べてやっといろいろ呑み込めて良い曲だ!ってなりました。
 サビとかすごく分かりやすく元気づけられますよね。「一秒も耐え難い痛みを知るなら 逃げろ、自由に向かって」がリズムやメロも相まって超気持ちよくて大好きです。
 君はまだ夏を知らないからの流れで、すごく瑞々しい雰囲気があって良いですよね。
 ライブでめちゃくちゃ聴きたいけど、セトリに入らなさそう。ロスボツアーでアダプテッドといつか焼け落ちた町をリストラした奴らですからね、何をしてくるか分からん。


7.スワイプ

 自由に向かって逃げたやつにこんなにシームレスに絶望を与えるな。
 曲順に聴いてたらここで急に闇落ちしますよね。映画「ヴィレッジ」とのコラボレーションソングで、久々の底抜け闇全開のamazarashiって感じの曲です。
 そもそも映画「ヴィレッジ」がamazarashiに親和性が高いというか、地方都市の鬱憤を吐かせたら滝の如く流れ出る秋田ひろむにぴったりな題材だったんですよね。本人も想像しやすかったって言ってるくらいだし、腕ぶん回して作ったんだろうなって。
 コラージュ的に最悪なことが流れていくサビがまさにスワイプしている記事の雰囲気が出てて良いですよね。あと「全て忘れて踊れと怒鳴る祭囃子」の後にちゃんと祭囃子の音が鳴るところとか、2番Aメロでドシャンガシャンみたいな音が鳴ってるところとか、歌詞にインパクトがあると思いきや音も面白くて良い曲です。ちょっと聴くと疲れちゃうけど。
 あとこれはMVに出演しているamarazarashi宣伝隊長こと横浜流星の演技がものすごいから、MV見た方が楽しめますよね。楽しいというか、楽曲に入り込める感じ。
 これもサマソニでやってました。音源よりもずっとバンドサウンド感が強くて、生の方がかっこよかったですよ。まぁそれはなんでもそうか。

8.俯きヶ丘

 久々にアルバムに短いポエトリーが入って嬉しい。メメモリに入ってた「ワードプロセッサー」「水槽」ぶりですね。アルバムに二曲の短いポエトリーが入ったのってかなり久々です。amazarashiの前進とともに、原点回帰的な?
 とにかく音がすごいですね。重厚なのに空間が広くて、広大な雰囲気もあって、最初だけ閉塞感があって。次のカシオピア係留所に向けてのインタールード的な曲だと思ってますけど、これ以上ないくらい合ってる気がします。
 "エアレンデル"はめちゃくちゃ遠くにある恒星で、発見されたときニュースにもなってた気がします。
 ライブでもカシオピアの前にやるのかな。そもそもセトリに入るんかな。

9.カシオピア係留所

 『チ。地球の運動について』を読んでいたのもあって、コラボが決まった時はかなりうれしかったなぁ。
 しかもこんなにピッタリな曲を出してきて、本当にタイアップがうまい。あと、そもそも秋田ひろむは星や夜の描写が入ってる曲の名曲率がやたら高いですね。スターライトとか夜の歌とか、夜間から明け方にかけての詩や音が本当に心地良いです。
 偉人や成し遂げた人と、自分との共通項を創作の痛みとして書き上げるというテーマ設定もすごい。確かにそこだと自分の気持ちが嘘偽りなく描写できますよね。
 音で好きなのはギターで、とくにCメロ入る前の部分の音が好きすぎて早くライブで聴きたいです。やるとしたらセトリ後半のゆったり枠か、最後から二曲目の、MC終わりの枠な気がしてます。でもアンチノミーもその枠な気がするんだよな、さすがに両方やるよな、シングルでセトリから外れるとしたらスワイプな気がしてるんですけど、どうでしょ。


10.超新星

 これと「君はまだ夏を知らない」が聴けた時点でもうこのアルバム値段以上の価値あったなって思いました。なんでこんなに綺麗で儚くて、なのに決意に満ち溢れている歌詞が書けるんだろう。
 音がすごい優しくて、歌い方はいつもと変わらないんだけど曲全体の雰囲気が優しいですよね。歌詞に出てくる「君」は秋田ひろむ自身としても捉えられるし、僕たちリスナーとしても捉えられるし、良い。これからも死ぬまで音楽やってやるんだという決意表明と、リスナーに対する応援歌にもなってるのとでとにかくすごい励まされます。
 こういう美しい音に秋田ひろむの感情が全乗りしてる歌は今までにも「ぼくら対せかい」とか「美しき思い出」とか数曲あって、どれも名曲ですよね。しかも声質的に合わなさそうなのに、めちゃくちゃ合う。アボカドとサーモンとクリームチーズくらい合う。
 これは流石にライブでやるでしょ。やらないわけないでしょ。


11.クレプトマニア

 クレプトマニアって窃盗症っていう本当に存在する病気らしいですね。ちょっとしか調べてないですけど、結構大変な病気っぽいです。
 歌詞を見るに窃盗したのは過去の自分が書いた歌詞とかですかね、それを韻を踏みつつ羅列して、最後に歌が入るという。恐らくリスナーの大多数が好きなタイプのポエトリー。
 ライブ一曲目説ありますよね、でもイントロがちょっとライブの始まりにしては薄い気もしてて……どうなんだろ。いや、アウトロの部分で「amazarashi live tour 2023 永遠市 青森から来ました~」の流れがめちゃくちゃ当てはまりそうだからやっぱり一曲目かもしれませんね。これやってインヒューマンやって下を向いて歩こうかな。
 なんとなく幕の映像もかっこよさげな気がして今から楽しみ。テンポ速い曲の映像だいたいかっこいいですからね。


12.ディザスター

 曲名からとんでもない激重ソングを予想してたんですけど、想像と全然違う方向性の曲でした。生みの苦しみというか、創作をしている人に突き刺さりそうな歌詞でしたね。
 サウンドは結構空間広く、ピアノの音がきれいでサラッと聴ける気がします。Cメロ前のギターもエフェクトかかってて綺麗な音ですよね。豊川さんの声であろう「ディザスター」の部分も綺麗ですよね。歌詞に入ってる部分をうたう豊川さん久々な気がします。
 しかも発売した後にコラボ発表されましたね。ストリーマー?の方とのコラボで、存じ上げてなかったんですけど相思相愛だったらしくてすごい。秋田さんそういうのやたら多いですよね。引力?
 「没後評価されて喜ぶ作家なんているもんか」っていうのが言いたいことっていうか、この曲を一番表してる感じがします。
 でもこの曲はまだ完全に咀嚼しきれてない気がするので、もっと聴き込みたいです。ライブで聴いたらまた印象変わるかもしれないし。


13.まっさら

 アルバムの最後の曲は名曲にしなきゃいけないって決まりでもあるのかってくらい、毎回アルバムの最後の曲はとんでもない名曲で終わりますね。『七号線ロストボーイズ』の「空白の車窓から」は個人的に世紀の大名曲だと思ってますけど、今回も方向性は違うけど優劣つけ難い名曲。
 積み重ねた人生を巻き戻したくなったり、やり直したくなったり、すべてをリセットしたくなることもあるけど今までの積み重ねは決して消せないという、「たられば」や「未来になれなかったあの夜に」に通ずるメッセージ性の曲だと思ってます。それでも、もっとパーソナルというか、外界に向けた言葉じゃなくて一個人って感じがしますね。みんなこういうこと、あるでしょ?みたいな、優しい語り。多分ライブ泣いちゃうな。
 音色も、歌詞も、全部優しいんですよね。この曲の「君」も、秋田ひろむ自身にも捉えられるし、僕たちリスナーに向けてとも捉えられるし、すごい。
 「身体は足りないものを欲する 頭はいっぱいだと減らしたがる」とか「これまで傷つきすぎたから多くは望まないってのは分かる だけどときたま訪れる喜びにも眉をひそめて」とか、個人的に今の自分に突き刺さるガラス片のような鋭いメッセージがあって最初に聴いたときは結構しんどかったです。うわ、今言われたら図星な言葉だ。ってなって、ドキッとする的な。amazarashiの曲は往々にしてそういうことがあるので、本当に人生の一部になっている感じがします。秋田さんが費やした数万行が、自分の状況にパズルのピースみたいにはまる瞬間があるんですよね。
 僕は秋田さんほど辛い人生を送ってないし、苦労もさほどしていなくて、世間に恨みもないし怒りとかも全然感じないタイプなんですけど、対人関係でなんでこの人こんなに刺々しいんだろうとか、もっと人のこと考えられる人間が増えればいいのにというのは結構な頻度で思ってしまうので、こういう優しく洗い流してくれるような曲は毎回響きます。秋田ひろむは常に優しいんですよね。
 僕は他にもスピッツや米津玄師や平沢進を日常的に聴くんですけど、全員に共通して優しさがあるんですよね。刺々しい曲があっても、根本はめちゃくちゃ優しいというか、慈愛があるというか。
 この曲はamazarashiなりの優しさが溢れた曲だと思ってます。「君はまだ夏を知らない」も別のベクトルでめちゃくちゃ優しいと思いますけどね。この曲は「それはまた別のお話」とか「そういう人になりたいぜ」とか「未来づくり」とかと同じカテゴリーのやさしさな気がしてます。
 まっさらにはできないけど、上書きし続けなければいけないからこそもっと自分や周りを大事に生きようって思いますよね。


まとめ

 13曲、聴きながら書きましたけどやっぱりすごく良いアルバムだと思いました。そりゃロスボは本当にめちゃくちゃ良かったから、ハードルは超高かったのは否めないですけど、このアルバムはこのアルバムで素敵な面がたくさんあると思いましたね。
 半分以上の曲が体調不良から復帰した秋田ひろむのこれからの決意や心情を歌った曲でしたけど、これからのamazarashiがより楽しみになる感じというか「インヒューマンエンパシー」のライナーノーツで言ってた通り、船出って雰囲気のアルバムだと思います。このアルバムで船出をして、これから「1.0」を越したamazarashiとしての活動がスタートするのかな、と。
 何よりライブが楽しみ!アルバム曲から何をやるのかも楽しみだし、昔の曲は何をやってくれるのか想像するのも楽しみ。もう三日後にはツアースタートですからね。楽しみ。
 なんとなく、今回は穏やかな優しい雰囲気のライブになりそう。ボイコットまでが結構荒々しかったですからね。ロスボを経ての今回がどういうライブになるのか非常に楽しみです。

 では、とりとめのない文だったとは思いますが、ここまでご拝読ありがとうございました。
 また別のアーティスト含め、書きたいことがある都度書いていこうと思うのでよろしくお願いします。
 ほんじゃまた!

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