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大好きな絵描きさんに誘われてコミケの売り子をした話
売り子に誘われた時
いつもなら、俺でいいんですか?なんて言う謙遜が先に出てしまう僕なのに、
やらせてください!!!という気持ちが珍しく先行してしまったのを、今も鮮明に覚えている。
そもそものキッカケ
ぼたもーという名義で絵を描き始めてから、大体4ヶ月目くらいの時期。
趣味ですら長く続かない僕にとって、たったこれだけの期間にしても、やる気と熱が何か一つに向き続けているのはとてつもなく珍しいことだった。
描き始めと比べたら随分絵も上達した気がしたし、実際フォロワーの伸びやいいね数なんかを見てもそれは明白であって、
自分もいつかは本を出してみたい……そう思っていた矢先に。
「売り子とかしてみます?」
大好きで、スペースなんかもよく聞きに行く絵描きさんにそう誘われたのがキッカケだった。
というか、そもそも絵を描き始めるのもその方がキッカケであって、言うなればオリジンであり、目標であり、憧れでもある方。
そんな方に誘っていただけた、コミケ売り子というとても貴重な体験。
サークル側としてのコミケがどういう動きなのかさっぱり知らなかったこと、そもそもコミケに行ったことがなかったこと、そして何より、そのふたつが『自分が本を出すとした時』の最たる不安点だったこと。
これらを一気に解決出来て且つ、大好きな絵師先生の元で売り子が出来る……
これ程までに素晴らしいお誘いが、過去自分の人生にあっただろうか。
恐らくだが、ない。 強いて言うなら、『明日は遊園地でも行くか?』と普段会社勤めで大して家に帰ってこない親父に急遽誘われたのが、匹敵するくらいの魅力的な誘いだったかもしれないが__
締め切り問題(余談)
進捗どうですか? と笑顔で問い詰めるキャラクターが、毎年沢山見られる冬の季節。
売り子として誘われた日からもしばらく経って、いよいよコミケも近付いてきた。そう思っていた頃のTLは……地獄だった。
間に合うか怪しい、過去の自分を恨む、脱稿しました(瀕死)など、etc……
鬱々としたツイートが、そこには溢れかえっていた。
「もし参加する時は、君もこうなるんだからな」
という宣告を、恐らく僕は忘れないだろう。 マジで。
コミケ前日
「腰が痛てぇ!!!!」
と、夜行バスで来たが故の弊害を受けながら、初の秋葉原を堪能していた前日。
至る所にオタク。外国人。 普段見慣れないその光景に、どこか浮かれ気味の自分。
「いつもこんなに人いないよ」
東京に住んでいる友人(わざわざ僕が東京に来たということで逢いに来てくれた)いわく、コミケもあるからオタクが集まっているんだろうと。
なるほど、考えて見ればその通りで、ここにいるたくさんの人達は大体コミケ行くんだろうな、と。
そう考えた時に、ふと冷静になる。
明日に迫ったコミケ……売り子ながら、初物ずくしのそれに凄まじく緊張していたのは確かだった。
不手際のないように……失礼のないように……、前日までにやれることは大体やってきたとは思うが、それにしたって緊張はするものだった。
絵を描き初めてから八ヶ月。 まさかの形で体験することになったコミケに、緊張と不安を抱えて望むことになる。
当日
人混みが、凄まじい。
何となく、ラノベやアニメなんかを見ていると自然と知識がつくもので、
行列ができるんだよ、すごい数だよ、というのは聞いていたがまさかのここまでとは……。
そもそも合流できるのか? という部分すら不安になりつつも、無事先生と合流することが出来た。
それが初対面だった訳だが、イメージ通りの優しそうな方でとても安心したのを覚えている__
ポスタースタンドを借りなければならない、というのもあり少々早めに会場に入る。
その際、何度も画像で見てきたリストバンドを腕に巻いた。
まさか、最初に巻くのがサークル参加のリストバンドとは思いもしなかったが……。
先生について行くように先に進み、辿りついた西地区(ウマ娘の本が集まっている)。
「あっ!! 知ってますこれ!! 俺見たことある!!」
と、緊張はどこへやらはしゃぎ散らかしていた自分を笑って受け流して下さった先生には全く頭も上がらない。
「じゃあこれ手伝って貰おうかな」
先生のスペースに着くと、椅子と数枚のチラシが机の上に置いてあって。
椅子を下ろして荷物を置いてから、先生はそう言って謎のセットを取りだした。
よく見てみるとそれはいわゆる簡易陳列棚みたいなもので、らくに組み立て出来る便利グッズなようだった。
そこで気付く、これは所謂……
『設営完了しましたの設営の部分……!?!?』
テンションが上がりつつ、不器用な手を動かしてそれを完成させる。
その間に無事ポスタースタンドが借りれたようで、大体1時間かからないくらいの時間で無事設営完了。
大好きな先生のコミケ設営完了形態を最初に見ることが出来る喜び、というかそれを手伝わせていただけた喜び。 嬉しさを噛み締めつつ、ふと周りを眺めてみる。
Twitterが、そこにあった
あ、あの方フォローしてる。 あれ、あの方もいらっしゃる。 あの方も見たことある……てか大体全員知っている!? ……と、一瞬で興奮状態になる自分。
私の望む世界が、今目の前にあった。
なお、先生のスペースの後ろは先生と僕のどちらとも相互の方のスペースで、とても安心感があった。 おかげで初めてのコミケでパニくることなくやれたと思っており……とても良くしていただきました。
また、隣のスペースの方もとても優しい方でした……凄まじく絵が上手かった……。
しばらくすると、続々とサークル参加の方が会場入り。 Twitterを覗くと、設営完了ツイートも多く流れてきた。
先生は「自分よりも絵が上手い人が沢山いるなぁ」と、多分自分とはまた違う緊張をされてらして、いやいやあなたも上手いでしょうなんて思いつつ、開場を待っていると……
ヒシミラクルに、話しかけられた
突然、ヒシミラクルに名前を呼ばれた。
あまりの衝撃に一瞬脳がフリーズするも、その方が相互の絵師さんと分かり脳が再起動。
いわゆる、コスプレというものである。
よく考えなくても、コミケと言えばコスプレとも言われる。 ヒシミラクルに話しかけられても何もおかしくないのである。おかしくないのだ。うん。
新刊二冊とお菓子を頂いてしまい、タジタジながらも、何とか じっくり読みます!ということと 似合ってます!ということは伝えられた気がするが、あまりの情報量に記憶がさほどないのが辛いところである。
と、そこで始め本交換なるものがある事を知る。
いわく、仲の良い相互さんと挨拶ついでに一緒に行われるものらしく、先生も挨拶回りに忙しそうであった。
……またその際、自分もボスに仕える子分みたいな姿勢で何人かご挨拶させてもらったのだが、何も関係ない自分までお菓子や本を頂いてしまった……ありがとうございます……。
また、その頃にはコスプレイヤーさんの方々もかなり入場していて……気付いた頃には、ここがトレセン学園なのかと錯覚する程であった。
件の、先生の後ろのスペースの方もコスプレイヤーさんを売り子に呼んでおり、常に近くにヒシミラクルがいる状況でのコミックマーケットになった。めちゃくちゃ可愛かった。
自分が凄まじく美少女であれば、自分も先生のためコスプレを勉強してみても楽しそうだったが、現実は無情であり、僕はチー牛だった。
会場、開場
コミックマーケット開始のアナウンスと共に、地鳴りの如く鳴り響く拍手。 その温かさに触れるもつかの間、どっと人が押し寄せてきた。
いわゆる壁サーには長蛇の列。 先生にお使いを頼まれたため、ついでに少し場内を回ってみたが、どこもかしこも大賑わいである。
これがコミックマーケット……。 アーリーチケットなどの販売で昔と比べたらかなり改善されたとは聞いたが、それにしても凄まじい人混み。
それに圧倒されつつ、お使いと自分の買い物を済ませてスペースに戻る。
先生も少し挨拶回りにということで、入れ替わる形で椅子に座る。
目の前をすれ違う、多種多様な人々。
その中の一人が足を止めて、こちらに向かってきて……
「新刊1冊ください」
「500円になります!……お預かりします!こちら新刊になります! ありがとうございました!」
コンビニバイトの経験がここで生きるとは思わなかった。
思わず、頭が真っ白になっていて、それでも癖で手と口が動いてくれたのだから。
素直に、凄いなと思ったのだ。
先生の本が、会ったことのない方の手に、1冊、また1冊と渡っていく。
みんな、先生の本を欲しいとやってきているのである。
しばらくすると先生は戻ってきて、ミニ色紙を描きつつ来るお客さんに丁寧に対応していた。
声はどこか弾んでいる気がした。
中には、いつも見てます!や応援してます! と一言添える方もいて、先生はその度嬉しそうにありがとうございますと返すのだ。
その度に、何度も同じ感想を抱く。
こんな世界が、あったのか
目の前の光景が凄まじく眩しく見えた。
こんな世界があることを、僕は目の前で見て初めて知ったのである。
衝撃と、改めての尊敬、そしてそれと同じくらいの、自分もという気持ち。
ぼんやりとした『いつか』という気持ちが、『今すぐにでも』に変わった瞬間だった。……来年から自分は新卒で、すぐに出すことなんて出来ないが、そういうことではなくて。
自分もと思えるように
コミケの1週間ほど前、自分はヒシミラクルとトレーナーのマンガをTwitterに投稿した。
いまいち納得いかないクオリティではあったが、八ヶ月続けたお絵描きの成果は全て出せたし、過去最高傑作だったことは間違いない。
いいねは3700以上もいただけた。 それは自分の作品が、周りにも認めて貰えた瞬間だったのかなと思う。
その時に、数人の方に言って貰えた言葉がある。
「あなたの作品が好きです」
かつて、絵を書き始める前の自分が色んな絵師さんに思っていたことだ。
いつかコミケに参加して、直接伝えられたらいいなと思っていた。
その人が描くその作品こそが大好きで、だから愛を伝えたい。感謝を伝えたい。
自分はそう思って、その言葉を使っていた。きっとそれは、自分に言ってくれた人もそう思ってくれているんだろうなと思って……
だからこそ、お絵描きを始めた今、この人たちのために、頑張ろうと思った。
自分の好きを描く。 そのついでに、それを好いてくれた人達にも楽しんで欲しい。
二次創作というものをするにあたっては大変不純な理由かもしれないが、自分にとっての二次創作はそういうものなのである。
応援してくれた方たちに、いい本を届けて恩返ししたい。
大好きな先生の本を買って、直接言葉で想いを伝えてみたい。
両方の視点がよく分かるからこそ、自分もこの舞台にと思えるように…………
「新刊1冊ください」
……
…………
………………石油王が、いた。
しみじみとしながら先生と接客をしていた自分には、あまりにも刺激が強かった。
ガードマンの耳打ちを通して新刊を買ったあと、ジュエリーケースから差し入れを取り出し去っていった彼らがあまりにもどツボで、しばらく爆笑が止まらず。
あぁ、これもまたコミックマーケットなのか……と、洗礼を受けた気分であった。
……また、何回も自分がTwitterで売り子するよ、先生の本買いに来てねと宣伝したこともあり、新刊ついでに会いに来たよ〜という方も数名いて、少し嬉しかったというのがある。
ミニ色紙は欲しい人たちで集まってのじゃんけん大会となり、6、7人ほどでのヒシミラクル色紙をかけた戦いとなったが、全勝で僕が購入した。
ぼたミラクルは、必然らしい。
撤収
3時半を過ぎると、視界の景色が少し寂しくなってきた。
もう既に撤収しているサークルの方や、今ちょうどその準備をしているサークルが多く、一般参加の方もかなり数が減っている状況だった。
先生も撤収を始めることを決め、そのお手伝いもしっかりこなせたかなと思う。
未だ、買いに来たお客さんと先生の姿が脳裏に焼き付いていた。(あと石油王も)
打ち上げの話などをまとめるため先生が他の方のスペースに行ってしまったので、空いた椅子に腰掛ける。
次ここに来る時は。
机をポンポンと叩いて、荷物をまとめて立ち上がった。
次ここに来る時は、本を売れるようになりたい。
さいごに
売り子に誘われた時
いつもなら、俺でいいんですか?なんて言う謙遜が先に出てしまう僕なのに、
やらせてください!!!という気持ちが珍しく先行してしまったのを、今も鮮明に覚えている。
先生がくださったチャンス、掴もうと進んだ自分、また当日良くしてくださった皆さまがいてくれたから、こうやって今新しい熱を持って机に迎えているのかなと思う。
お絵描きを始めてよかったと、本気で思えるようになった一日だった。
この思い出をずっと胸に、忘れないように刻んで。
また、頑張っていこうと思った。