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東大地理2025 第1問 解答・解説と所感

難易度表示は 易←A~B~c→難

第一問
設問A

(1)難易度:B-


反射率(アルベド)の問題。地学基礎を取っている人なら正答に至るまではそう大変ではなかったと思うが、そうでないとなかなか難しかったかもしれない。

基本的な構図としては

海氷や積雪に覆われた地面→太陽光反射率が高い→暖まりにくい
それらが溶けて現れた地面、海面→太陽光反射率が低い→暖まりやすい

北半球高緯度では、海氷や積雪が溶けて加速度的に温暖化が進む悪循環に陥っている、というのを答えさせるのがこの問題の意図だろう。

【解答例】
 (1)海氷や積雪が融解することで露出した地表面は、太陽光反射率が低く、その熱を吸収して地表付近の気温を上昇させるから。(58字)

(2)難易度:c


 私自身、数分考えたのだが、全く答えがわからなかった。そして答えを調べて納得しつつ、いやその発想はなかった、となった。
 その視点に着目できるかどうかで大きく難易度は変わり、おそらく正答者は30秒程度しかかからないが、自力で解答が出せない場合、10分考えても答えがでないはず。
(1)に引き続いて理科的(地学的)な発想が求められる設問で、多くの受験生は苦戦したと思われる。私はやっていないのでわからないが、中学受験を経験した人のほうが正答率が高そうではある。

【解答例】
海水の熱膨張

(3)難易度:A

 これは典型問題。永久凍土が融ける→その中の温室効果ガスが放出される→さらに温暖化が加速、という教科書や問題集頻出の構図を、きちんと60字で表現できればOK。

【解答例】
(3)永久凍土のなかに閉じ込められていたメタンなどの温室効果ガスが大気中に放出され、地球の熱がより放散されにくくなるため。(60字)

(4)難易度A+

 これもひと目で、永久凍土の融解によって、それを地盤としていた建物が傾く、という教科書・問題集などでおなじみの論点が連想できるはずだ。問題文に経済的、と書かれているのがちょっと意味深長に映らないこともないが、住宅・建物の損壊は経済的損失といえるから、自信をもって解答してほしい。
 ただ、論述にはいくつかポイントがあり、(3)ほど素直にはいかない。

 まず、若干字数に余裕があるので、建物、つまり永久凍土の上だけではなく、永久凍土内部の構造物にも言及してみたい。内部の構造物は、ひとまず水道管のようなものを想像してみる。そして永久凍土がアラスカやシベリアに多く分布しており、これらの地域は同時に天然ガスや石油などの産地であることから、こうした資源を輸送するパイプラインも、永久凍土の地盤のなかを通っているはずだ、という推論が成り立つ。
 次に、その「損失が生じる理由と合わせて」という問題文の要求に着目したい。理由としては、これらのパイプラインや建物が、それぞれ永久凍土の内部や上部にある、というごく単純なものなのだが、こうした要求を意識した文型にしてみたい。もっともこちらはよほど余裕があればの話なので、実際にこの文型にできなかったとしても、差支えはないだろう。

【解答例】
(4)永久凍土の地盤内部のパイプラインや地盤上の建物などがあるため、凍土の融解によってそれらが破損したり、傾いたりする。(60字)


設問B

(1)難易度:B

 客観式問題。問題図が月別の線グラフならなんのことはない典型問題なのだが、見慣れない図を出してくる辺りが東大地理的。とはいえ各グラフに大まかに3月、6月、9月などを書き込めば、同じことなのだが、そうした工夫をしても、ぱっと見での比較が難しい。
 とりあえずアは年間を通じて雨が多いということを考えると、常夏の熱帯雨林気候ではないか?という推測が成り立ち、アマゾン川と置ける。この手の問題は南半球と北半球で季節が入れ替わる、というのを考慮しないといけない点にめんどくささがあるのだが、この段階で残り三つはすべて北半球となり、だいぶ楽になる。
 さて、残りのうちエをよく見ると7月8月に少雨となっている。これは地中海性気候のグラフだから、イタリアのポー川。
 イとウとの判別だが、イは雨季と乾季がはっきりしている一方、ウはそれほど明瞭ではない。よってイはメコン川、ウは黄河と置ける。

【解答例】
⑴ア-アマゾン川 イ-メコン川 ウ-黄河 エ-ポー川

(2)難易度:B-

 問題のグラフにほぼ答え書いてあるじゃんで逆に何を欠けばいいのか逆に困るという、東大地理あるある問題。ただ、よく考えると、考えて書くポイントは多く、問題として成立している。

要点としては河川による土壌の浸食および流失が減った理由として
①河川の流水量をダムなどで調節できるようになり、大雨→洪水→流域の土壌が大規模に流失というのを防げるようになった。
②植林が推進され、木の根の土壌保持力によって、水が流れて来ても土が流されにくくなった。
という構図を描けたかどうかがポイントとなりそうだ。

 そして、こうした構図をA→A’,B→B’という二つの因果関係を並列させる、東大地理2行問題の典型解法(私が勝手に提唱しているだけだが)に落とし込めば答案の完成となる。

すなわち
ダムとえん堤の整備(A)→河川流量が調節できるようになった(A’)
植林の推進(B)→流水の浸食に強い土壌が広がった(B’)

【解答例】
(2)ダムとえん堤の整備により、河川流量が調節できるようになり、植林の推進によって、流水の浸食に強い土壌が広がった。(56字)

(3) 難易度:B

 基本的に(2)と反対の事を書けばいい。このうち、後者のほうは、(2)の植林の推進とは反対に、森林の伐採が進んでいること、そしてその背景として、急激な経済発展や人口増加を上げればよいだろう。各予備校はこの要素だけを模範解答としているが、もう一押し欲しい。
 そこで、(2)で考えた、大雨→洪水→土砂の流失という構図を思い出してみる。もしダムやえん堤の整備が進んだとしても、それを上回るような大雨が降る場合などは、土砂流失量は増えていくはずだ。そして、そうした大雨をもたらす原因は、
①東南アジア特有のスコール
②地球温暖化によるゲリラ豪雨の増加 
の二つが考えられる。一応どちらを選んでも豪雨多発の説明にはなるのだが、ここでは②を選びたい。なぜなら、ここまでの一連の設問では、人間活動が与える環境への影響、というのがテーマになっており、その文脈を抑えているのは②だからだ。

これもいちおう、さきほどのA→A’,B→B’の構図にあてはめてみる

地球温暖化による豪雨頻度の増加(A)→洪水などの多発(A’)
急激な経済発展と人口の増加(B)→森林伐採の進展(B’)

【解答例】
(3)地球温暖化を背景として豪雨および洪水が多発し、急激な経済発展と人口増加に伴い、森林伐採が進展しているため。(54字)

(4)難易度:A

 東大地理が半ば偏執的とも呼べるほどに好む海岸地形の問題。近年では2021年第1問設問B(3)が類題で、そちらではリアス海岸がテーマだが、その地形のもたらすメリットとデメリットを述べよ、という意味では、今年のこの問題とほとんど同じ趣旨といえる。過去問研究をしっかり行っている受験生にとっては易しい設問だっただろう。

津波や高潮:河口砂州が防波堤の役割を果たし、被害低減
洪水:河口砂州が川の流れをせき止めることによって、浸水などの被害拡大

というのを60字でまとめればよい。これも引き続きA→A’,B→B’の構図を使って記述すると書きやすいだろう。

【解答例】
(4)津波や高潮時には河口砂州が防波堤となり被害を低減させるが、洪水時は河口砂州が水流をせき止め、浸水被害を拡大させる。(58字)



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